ニュースレター

2006年05月01日

 

完全循環型リサイクルシステムを目指して - 帝人グループ

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JFS ニュースレター No.44 (2006年4月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第41回

みなさんの身の回りには、どれくらいの「繊維」がありますか? 例えば服ひとつとってみても、普段着、お出かけ用のファッション、仕事用スーツや制服、遠出用の防水・防寒コートや、撥水機能を備えたスポーツ用ウェアなど、天然または合成の様々な繊維があります。また、ふとんやバッグ、カーペットや靴も、多くは繊維からできています。こうしてみると、繊維は現代人の生活を支えている素材であることがわかります。

それではもうひとつ質問です。皆さんが大切に使いおえたあと、その繊維はどこへいっているでしょうか? 2003年、日本では計235万トンの繊維が消費されましたが、うち210万トン(89%)がごみとして家庭や企業から出され、190万トン(80%)が最終廃棄物となりました。リサイクルショップで繊維製品を見かけますが、古着として売られる、切ってぼろぎれとして使う、あるいは砕いて安価なフェルトに再生されるなど再商品化されるのは、実は1割ほどにとどまっています。

「これらの繊維は燃やせば二酸化炭素を排出し、ぼたんやチャック、その他着色剤など繊維に付着する物質を燃やせば有害排出物の原因にもなる可能性があります。しかし何よりも、貴重な化石燃料からつくられた素材をそのまま捨てるのはおかしいことです。」と語るのは、繊維リサイクル仕組みづくりに取り組む株式会社帝人グループ執行役員(リサイクル担当)の鈴岡章黄氏です。

帝人株式会社は「ポリエステル繊維」「産業繊維」「流通・製品」「フィルム」「樹脂」「医薬医療」「IT」という7つの事業に展開する企業グループです。現在159社(約1万9千人)が、日本、アジア、欧米の10カ国以上で事業を行っており、2004年度には9,084億円の売上、519億円の営業利益をあげています。

なぜ繊維は、電機や自動車のようにリサイクルの法的枠組みが整っていないのでしょうか。鈴岡氏はその理由として、繊維と繊維産業の特徴をあげます。1)比較的簡単に燃やせてしまうため処理に困らない、2)ファッションとかかわる繊維は素材が多種多様でリサイクルしにくい、3)繊維を扱うのはほとんどが零細企業なので統一した仕組みが作りにくい、などです。そこで、「法規制を待たず仕組みをつくらなければ」と、同社は、繊維を高品質の繊維に再生して、半永久的に活用する「ケミカル・リサイクル」の仕組みづくりを進めています。

高品質のものを半永久的に循環させる

その仕組みを、実際の例をとってみてみましょう。米国アウトドアメーカーのパタゴニアには、機能性アンダーウェア「キャプリーン(R)」(年間130万枚)という主力商品があります。パタゴニアは帝人と提携し、これをぼろぼろになるまで使い込んだあと、店頭においてある返却ボックスにかえすと、同じ品質の「キャプリーン」へとリサイクルされるシステムをつくりました。

また、百貨店の高島屋とふとんメーカーの西川産業は、帝人のリサイクルシステムを活用して、期間限定で、ふとんを購入した方の不要ふとんを無料で回収するサービスを提供しました。回収されたふとんは、素材別に選別され、ポリエステル繊維の部分はユニフォームやワイシャツなどの高品質繊維に再生されます。

これらのシステムでは、熱で融解するなどの「マテリアル・リサイクル」と違い、素材を化学反応により分子まで分解して、元の品質に戻せる「ケミカル・リサイクル」という技術が使われています。前者は異物を取り除けず、素材も劣化していくため、最終的には焼却されてごみになってしまいます。それに対して後者では、ポリエステル100%の衣服なら、染料やボタンなどの異物を取り除く為、重量約10%のロスで、また同品質のポリエステル原料が作れます。また取り除いた異物はセメントの材料としても流用できます。経済産業省が試算したところ、ライフサイクル全体で見ると原油から原料を製造した場合に比べ、使用エネルギーは約2割、CO2排出量は約5割の削減になるという結果が出ました。天然資源の新たなインプットを抑え、半永久的に資源を活用するのです。

この「繊維 to 繊維」と同社が呼ぶこの技術は、使用済みポリエステル製品から石油から作ったものと同等以上の高純度ポリエステル原料を回収することができます。2000年に技術開発に成功し、2002年から事業化に踏み出しました。そして、回収や繊維の混在など課題を克服すべく、自社を超えたポリエステル繊維循環の仕組み「エコサークル」づくりを始めます。それは、賛同する関係企業をメンバーとして登録し、商品の開発、商品化、およびその回収・再利用を共同で進めるというもので、現在は、国内外のアパレル会社71社が参加し、ユニフォーム、一般の衣服、布団、産業資材など様々な製品を回収し再生しています。この「完全循環型リサクルシステム」は、循環型社会の構築に貢献する企業姿勢が評価され、第34回日本産業技術大賞(内閣総理大臣賞)、地球温暖化防止活動環境大臣表彰、愛地球賞、第3回日本環境経営大賞などと共に、2005年度グッドデザイン賞(新領域デザイン部門)を受賞しました。

廃棄物、化学物質排出、エネルギーロスをゼロに

メーカーとして多様な分野に展開する帝人は、全体としてどれくらいの環境負荷を出しているのでしょうか。「私たちは、生産活動における原料やエネルギーの消費、化学物質、および産業廃棄物の排出、ならびに出荷された合成繊維、フィルム、樹脂製品などの廃棄により環境に負荷を与えています。」同社はこのように自社の環境負荷を直視し、削減に向けてグループ全体の環境負荷を継続的に測定、公開しています。

1992年には、企業理念のひとつである「地球環境との共生を図り、自然と生命を大切にします」を実現するべく、より具体的な方針を示した「帝人グループ地球環境憲章」を策定。「時代認識として、企業としてこれから必ずやらなければ生き残れない(鈴岡氏)」という強い思いのもと、「ゼロへの挑戦」を掲げました。それは、1)化学物質の排出、2)エネルギーロス、3)廃棄物、4)災害をゼロにすることです。特筆すべきは、同社が事業の成長を見込むなかで、絶対値での削減目標を掲げていることです。実際に2005年現在、CO2排出量は1998年以降削減傾向にあり、また最終廃棄物も1998年度比で50%削減という目標を達成しました。

ネットワークの形成に向けて

これと並行して進めるのが「リサイクルの推進」です。これは高いリサイクル技術を通して循環型社会の構築を進めることで、前述の「繊維 to 繊維」技術を生かした「エコサークル」他、様々な技術開発と仕組みづくりを進めています。

実用化しているものに、使用済みペットボトルを化学的な処理によって高純度のポリエステル原料に戻し、ペットボトル用の樹脂として再生する世界初の「ボトル to ボトル」技術があります。2003年より実際の操業を行っており、その能力は使用済みペットボトル約6万2000トン(500mlペットボトル換算で約20億本)からペットボトル用樹脂5万トンを製造することが可能です。回収での分別への協力を消費者に仰ぎつつ、実際に回収する自治体や回収業者と連携して進めています。

こうした技術開発に支えられた帝人のリサイクルの仕組みづくりは、いまどこまで進んでいて、これから何をしなければならないのでしょうか。「真の持続可能な社会を目指すには、個々の取り組みでは限界があります。産官学・NPO/NGO・一般消費者が連携した組織・制度が一体となって、ネットワークを形成する必要があります。」と鈴岡氏は言います。

そうした取り組みの一環として、同社は2005年、スポーツメーカーとともに環境(エコロジー)と経済(エコノミー)の2つのEから名づけたCLUB-E2という組織を立ち上げました。これは、学校・体育衣料における環境と経済の両立を考える会で、訴求・啓発・規制緩和の働きかけを共同で行い、学校・衣料業界におけるエコ商品の拡大やリサイクルの推進をはかっていくものです。第一回の勉強会では23社39名が参加し、仕組みづくりについて意見を交わしました。今後も様々な分野でこうした取り組みを立ち上げていきたいと同社は考えています。

鈴岡氏は言います。「企業がこうしたインフラづくりを進めるのは大変ですし、事業として採算ベースに乗せていくこともこれからの課題です。しかし、世の中の方向性として、いずれはこのような仕組みが必要になると信じています。」高い技術力に支えられ、繊維という商品を通して、自社の枠を超えて持続可能な社会づくりに挑む帝人グループのこれからに期待します。


(スタッフライター 小林一紀)

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