ニュースレター

2006年04月01日

 

グローバルな食品会社が持続可能性に対してできること - 味の素株式会社  

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JFS ニュースレター No.43 (2006年3月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第39回

サトウキビなどの糖分を発酵させてつくる、うま味調味料「味の素」。この商品で世界中に知られる味の素株式会社が1909年の創業から、約100年が経とうとしています。今や同社は、23の国・地域で、食品やアミノ酸、医薬品などの事業を展開する、売上高1兆円のグローバル食品企業グループへと成長しました。

この間、食をめぐる状況も大きく変化し、人々の食に対する関心は過去になく高まっています。一方で、人口増加、水不足や気候変動から懸念される、世界的な食糧不足。農薬や化学肥料、成長ホルモン剤を使った食べ物の健康への影響なども心配されています。

味の素グループがこれからの100年も社会から必要とされ、信頼される企業であるためには、そして持続可能な社会の実現に貢献するためには、今どのようなビジョンが必要なのでしょうか。

「安全で持続可能な食資源の確保のために、農・畜産・水産業への支援を行うとともに、枯渇資源・エネルギーの使用や廃棄物の発生を極小化する循環型ビジネスモデルの確立により、永続可能な地球環境の維持に貢献している」

これは、2005年に定められた味の素グループの「2020年のCSR達成像」の一節です。読者の皆さんは味の素のどのような姿を想像されるでしょうか? この記事ではこのビジョンに向けて動き出した同社の取組みを紹介します。

マルチローカル

23の国・地域で事業を展開している同社グループは、生産工場の約半数も海外にあります。売上も、26%は海外が占めており(アジア約10%、ヨーロッパ10%、アメリカ6%)、まさに事業はグローバルです。

しかしひとえにグローバルといっても、食を扱うことは、電子機器を扱うのとは違う側面があります。「味の素」の主な原料も、各地域ごとにサトウキビ・キャッサバ(アジア)、コーン(アメリカ)、ビート(ヨーロッパ)と違っています。各地にはそれぞれの気候や植生、食文化があり、遠くの国で考えた工程をそのまま各地に当てはめることはできないのです。

「味の素グループは、創業後まもなくの90年近く前(1917年)に既に海外進出を始めました。1980年代以降にコストカットの必要から製造機能を海外に移してきた産業の海外進出とは違い、地元農産物原料による現地生産の歴史は50年近くになります。商品開発、原料調達、雇用、製造、環境、流通のすべてにおいて、農家を始め地元と深く関わってきました。現地に根ざした事業を築いてきたなかで、ローカルの経営幹部が既に三-四世代目といった従業員が多い地域も少なくありません。その意味で、私たちの事業は、マルチローカル(たくさんのローカル)と言えると思います」と、環境経営推進部長の杉本信幸氏は言います。

味の素グループの循環型ビジネスモデル

地元と密着していることには、資源循環の面で大きなメリットがあります。同社グループの事業に関わる全工程から出る廃棄物・副生物(約200万トン)のうち、97.8%が資源として再度利用されていますが、それは生産工場と地域との密接な連携があって初めて可能になっています。

例えば、3つの産業が連携しあう、ブラジルなどでの「味の素」生産工場の典型例を見てみましょう。

現地の農家が経営する広大なサトウキビ畑が地平線一面に広がり(農業)、その中心にポツンと砂糖をつくるための地元の製糖工場が稼動しています(製糖工業)。約100トンのサトウキビが工場に運び込まれたとして、約10トンが粗糖として製品になりますが、4トンは絞り汁の糖蜜が副産物として発生してしまいます。「味の素」の発酵工場が作られるのは、その製糖工場の近接地です(発酵産業)。

4トンの糖蜜は貴重な資源として「味の素」発酵工場に入り、微生物の力により、1.3トンのうま味調味料「味の素」が生産されます。ここでまた、肥料・栄養物質などを多く含む、液体・固体の様々な副生物が4トン発生してしまいますが、これもまた成分や性状に応じて加工し、有機質肥料にして、またサトウキビ畑に戻します。

味の素グループではこの有機質肥料に誇りを込めて、「副製品」(by-productではなく、co-product)と呼んでいます。これによりサトウキビ栽培に必要な化学肥料(窒素分)の約70%を削減することができるといいます。「サトウキビを搾った繊維のバガスはまた、燃焼して工場のエネルギーにも使います。窒素を少し足すこと以外、太陽エネルギーで炭素、水素、酸素、窒素のサイクルが回るという仕組みに近づけたいのです」杉本氏は言います。

同社は「バイオサイクル」と呼ぶこの仕組みを、世界各地で30年以上にわたって作りあげてきました。「30年前は、世界中で、基準を守って廃水処理をして残りは放出、というのが当たり前の状況でした。もったいないという思いから資源化の取組みを始めたのですが、当時は液体の肥料は存在せず、農民や役人も単なる排水としか認識してくれないなか、理解を得るための地道な努力が10年以上も続きました」

今では地元の理解を得て協力体制を築き、副製品は地元の農産物の特性やニーズに合わせて様々な用途で作るようになりました。ヨーロッパ、アメリカでは畜産の飼料に、タイでは水産養殖に使われます。発酵関連工程から生じる副生物の資源化は2001年には94.7%、2004年には99%に達しました。いま同社は、こうして培ってきた「バイオサイクル」の発想と技術を、加工食品にも適用し、食物残渣を肥料にし、契約栽培の畑に還元する取組みを始めています。

「私たちは相当量の負荷を出している」

2003年度、味の素グループは、あらゆる事業領域から発生する各種の環境負荷を極小化するという「味の素グループ・ゼロエミッション」を掲げました。次年度には、重要な環境負荷項目に対して2010年度までに達成するグループ共通の具体的な目標値を定めます(05/10計画)。

これらの達成目標値は、イノベーションを必要とする野心的なものです。CO2排出量(2005年度216万トン)は、生産に関わる事業場のCO2排出量原単位(対売上高)で20%削減する。廃棄物については、全ての事業場含め資源化率99%以上にする。そして排水(排水の窒素量)は、先進法規制(例えば日本の60ppmなど)の10倍の厳しさ(5ppm)を世界中で目指すとしています。

「これまでも法規制を超えて自主的にパフォーマンスをあげてきたじゃないか、その延長線上ではだめなのか--」目標設定のあり方をめぐり、社内では約2年半、喧々諤々の議論があったといいます。そして、結果的に達成できない目標があっても、目標を立てない限りはできないという理解に達しました。「これまでパフォーマンスを向上してきたとしても、事業の急成長のなかで、私たちが絶対量で相当量の環境負荷を出しているのは動かせない事実です。これはいいことではない。事業領域、地域の関係なく、あるべき姿として、限りなく環境負荷ゼロを目指そうと考えました(杉本氏)」

この目標が設定された今、達成に向けていかに各地でロードマップを描き、どれだけ知恵を出していけるか。それを担う現場の試行錯誤が始まっています。

持続可能性へ向けて

同社は2005年11月より、第一次生産者のコミュニティの自立を支援する「人と大地のプロジェクト」を開始しました。「安全で持続可能な食資源の確保のために、農・畜産・水産業への支援を行いたい」というビジョンへの第一歩です。第一弾として、「食資源の持続性保全、循環型社会の推進」をテーマに、液肥技術を活用して、インドネシア共和国ランプン州のキャッサバ栽培を支援しています。持続可能な農業、地元コミュニティの自立に向けての学びのプロセスが始まっています。

安定的な食料供給、安心と健康、持続可能な農林水産業、フェアトレードなど、持続可能性と食について考えるとき、様々な要素が浮かび上がってきます。過去100年で、食に関する技術も、生産体制も、流通も、大きく変わりました。グローバル食品会社に求められることも、今後100年間の変化は私達の想像を超えるものになるでしょう。「マルチローカル」、「循環型ビジネスモデル」を掲げる味の素グループ。持続可能性と食について、先端を走って道を切り開いてくれることを大いに期待しています。


(スタッフライター 小林一紀)

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