ニュースレター

2006年03月01日

 

情報の信頼性を高める - あずさサスティナビリティ株式会社

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JFS ニュースレター No.42 (2006年2月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第38回
http://www.kpmg.or.jp/profile/azsus/index.html

「弊社は今年度のCO2排出量を昨年度に比べてX%削減しました。」「有害排出物をYトン削減しました。」-- 企業が発表する、こうした情報をよく耳にするようになりました。私たちはこうした企業の環境経営の成果を良いニュースとして聞きます。しかし、大きな企業では、何百という事務所や工場で、何千、何万人の従業員が膨大な工程に関わっています。技術的問題、あるいは工程の変更などで、必ずしも正確に計測できないところがあってもおかしくありません。

しかし、もし企業の出す環境情報が正確でなかったらどうでしょう。情報が信頼できないため、環境負荷を効率的に減らすための経済的手法(排出権取引や社会的責任投資など)はその基盤が揺らいでしまいます。これは、株式取引で信頼できる会計情報が必要なのと同じです。また、情報の正確さは生態系にとっても重要です。許容範囲を超えた有害物質排出は、取り返しのつかない悪影響につながりうるからです。

サスティナビリティは、信頼のおける環境情報の開示なしには成り立たないといえます。環境経営の信頼性、透明性を高めるというこの課題に取組む一つの企業に、あずさサスティナビリティ株式会社があります。同社は、環境と企業経営という異なる分野にそれぞれの専門家を保有しています。環境マネジメントシステム主任審査員、環境計量士、環境測定士、衛生管理者、公害防止管理者、危険物取扱者、そして弁護士、公認会計士などの資格をもつ30名ほどのスタッフが企業の環境情報の信頼性向上と環境経営支援に取り組んでいます。

同社は、現在、大阪・東京に拠点をもち、国際会計事務所KPMG(全世界148カ国に約9万人の人員)のメンバーとして、世界400名以上の社会・環境プロフェッショナルのネットワークの一翼を担っています。

具体的なサービスには、環境マネジメント構築支援、環境会計導入支援、環境・CSR報告書作成支援などのアドバイザリーサービス、環境・CSR報告書に対する第三者認証、温室効果ガス排出量検証などのアシュアランスサービスがあります。ここでは、最近の展開を中心に、あずさサスティナビリティ株式会社の取組みを紹介します。

報告書の第三者認証

同社の中心的サービスの一つが、企業の発行する環境・CSR報告書の第三者審査サービスです。同社には、会計事務所として財務諸表監査で培われた監査技術と、アドバイザリーサービスで得た豊富なノウハウとがあります。それらを生かした、効率的・効果的な審査業務を目指しています。環境・CSR報告書の審査は、2004年に18企業、3自治体に提供しました。

しかし個々の審査機関が行う第三者審査には、一つの課題がありました。それは、あずさサスティナビリティ株式会社を含めた複数の審査機関の間で、どうしても審査の方法、審査人の能力などにばらつきが出てしまうことでした。これは報告書を読む側からすれば、わかりにくいことの一つでした。

そこで2005年6月に、同社を含めた環境報告書の審査機関が集まり、第三者審査の統一的な手法を確立することを目的に、日本環境情報審査協会(J-AOEI)が設立されました。そして、同協会が統一して、2006年1月1日以降に発行する環境報告書を対象に、環境報告書審査・登録制度を運営することにしました。

本制度の運営は次のような流れになります。まず、環境報告書などの審査を行う審査機関、審査人を、協会の規定に沿って審査・認定します。認定された審査機関は、協会の定めた審査手続きに則り、制度へ申込みを行った企業などの環境報告書等の審査を実施します。審査機関は、重要な環境情報が漏れなく記載され、また正確性も一定レベル以上と判断した場合に、協会の創設した環境報告書審査・登録マークの使用を認めます。そして、協会のホームページに審査・登録された環境報告書名が公表される、という流れです。

2005年9月末現在、あずさサスティナビリティ株式会社を含む10の審査機関が参加しています。この制度に参加し、審査・登録マークが付与されることにより、環境報告書等の利用者は、その報告書が信頼性の高いものであることを一目で理解できるようになります。同協会はまた、外部の審査を受けることによって、社内の環境報告に対する意識が向上し、データによる環境管理のレベルアップと環境リスクの的確な把握が期待できるとしています。
日本環境情報審査協会 http://www.j-aoei.org

温室効果ガス排出量を検証する

同社の提供するもう一つの主要なサービスが、温室効果ガス排出検証です。こちらは、企業や自治体が、再生可能エネルギーの採用や省エネなどで温室効果ガスを削減しようとする際に、温室効果ガスの削減量の算出方法が有効か、削減量の検証を行うものです。社内排出量取引での削減量の検証や、製品・プロジェクト毎の排出削減量の検証も行っています。2006年4月には、省エネ法の改正が実施され、温室効果ガスの排出量の報告が一部業者に義務づけられるため、こうした検証の重要性がますます高まることが予想されています。

これらの業務には、会計監査のノウハウが大きく生きてきます。例えば、CO2排出に関わる全てのプロセスをモニターすることは物理的に無理なので、会計監査の「サンプリング」(全体の活動を代表する一部を抽出する)という手法が必要になります。そして、サンプリング部分に対して、一般的に実際の排出をモニターするのではなく、記録(証拠)を検証していきます。ここでは、各種燃料を購買した際の伝票や請求書をチェックし、正しく転記されているか、適切な係数によって集計されているのかを確認します。しかし、企業の会計と同じように、記録が紛失したなどの理由で、全ての情報が正確に揃わないことがあります。ここで、やはり会計監査の重要性の判断基準の考え方が生きてきます。

同社は今、京都議定書で決められたCDM(クリーン開発メカニズム)、JI(共同実施)における有効化審査、検証・認証事業を進めています。CDMは、先進国が途上国で実施した削減実績を自国の削減とすることができる仕組みです。日本では世界的に見ても省エネが進んでいるため、同じコストでも発展途上国での方が大量のCO2が削減できます。CDMに関しては、有効化審査、検証・認定を行う指定運営組織(DOE)としての国連からの認可に向けて手続き中です。

情報がどれだけ利用されるか

こうした審査の仕組みづくりを進めると、情報の信頼性は高まっていくでしょう。「しかし、情報の信頼性を付与することにどれだけ意義があるか。それは、その情報が実際にどれだけ使われるか、どれだけ人々の意思決定に利用されるか、にかかっています」と、同社大阪法人代表取締役社長の魚住隆太氏は言います。日本において環境・CSR報告書は着実に増加していますが、それでも上場企業でも作成されているところは30%に達していません。報告書の読者もまだ一部の層に限られているのが現状です。魚住氏は、「例えば、この企業がCO2を、有害物質をこれだけ減らしたから株を買うというように、その情報を目にして、会社を評価し、なんらかの意思決定をする。そういう人が増えてきて、初めて私たちの"情報の信頼性向上"に意味がでてくる」と考えています。

同社では今、環境面での意思決定を支援するツールの一つとして、内外のステークホルダーが企業の環境経営度を知るのに容易に利用できるJEPIX(Environmental Policy Priorities Index for Japan:環境政策優先度指数日本版)の普及に協力しています。これは、種類の異なる環境負荷を統合化し、トータルで環境負荷が少ない選択が容易にわかるようにするもので、科学技術振興事業団と環境経営学会によって支援を受けて、国際基督教大学の宮崎修行教授をリーダーとするチームによって開発されたものです。
http://www.jepix.org より無料で日本語のみの報告書がダウンロード可能)

同社は普及のためにエクセルシートを使用したJEPIX簡易算出シートを開発し、無料で提供しています
http://www.kpmg.or.jp/profile/azsus/jepix.html よりJEPIX簡易版算出シートのダウンロード可能)。

今、世の中で環境経営に取り組む個々の企業は増えていますが、それでも温室効果ガスはじめ、社会の環境負荷が大きく減る転換には至っていません。問題の核心は、どう社会の人々が、環境経営を支持し、これまでとは違う意思決定をしていくかにあります。あずさサスティナビリティの「情報の信頼を高める」仕事は、この課題を解決するために不可欠な要素となるはずです。


(スタッフライター 小林一紀)

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