ニュースレター

2006年03月01日

 

「情報の消費のされ方を変えよう」 - グラム・デザイン

Keywords:  ニュースレター 

 

JFS ニュースレター No.42 (2006年2月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第37回
http://www.gram.co.jp/

大量生産、大量消費の時代を経て、私たちの身の周りは、たくさんの商品で囲まれています。設計から製造にわたる技術の向上によって、どの商品を選んでも、品質や性能といった実質的な価値には大きな違いがなくなりました。それよりもむしろ、話題や流行、目新しさ、ブランドイメージ、あるいは、安全や安心のためなど、商品を取り巻く情報によって差別化され、消費されることの方が多くなっています。

生活必需品が十分満たされた今、それ以上に消費しようとする時、私たちは商品そのものではなく、その付加情報を消費していると言うこともできます。実際の商品を手にする事なく、購入を決定できるインターネットのショッピングサイトなどは、わかりやすい例です。そこで流通される情報が気に入れば、顧客は商品やサービスを選択するからです。

こうした場面で、情報の発信者と受信者をつなぐ、情報流通の担い手として重要な位置を占めているのが、広告業界です。「広告業界は、情報の消費のされ方にもっと責任をもった方がいい」-- グラム・デザイン 代表取締役の赤池円さんは言います。

情報の消費が、商品の消費に影響を与えているならば、その情報の伝え方、消費のされ方によって、環境破壊につながるような大量消費を加速させることも、あるいは逆に、大量消費を見直し、持続可能な方向に導くこともできるはずです。これはISO14001でいうところの間接影響における環境負荷削減を意味します。


グラム・デザインは、1998年に設立された会社で、企業や団体から、商品やサービスの広告宣伝を目的としたウェブサイトの制作を請け負い、企画から開発までを行っています。プロジェクトの企画から関わることが多いため、CI(コーポレートアイデンティティ)の構築や、会社案内など印刷物の制作、システムやアプリケーションの開発まで、業務の内容は多岐にわたります。

「大きな会社を目指すよりも、社会にとって意味のある仕事をしたい。思いの強さを共有するためにも小さな会社のままでいたい」(赤池さん)と、従業員数は現在7名、社外のスタッフを含めても15人を越えない規模を維持しています。

情報発信者の思いを、受信者の受け取りやすい形にして伝え、長く記憶に残してもらうには、どんな言葉やデザインや仕組みを作り、どんなIT技術を組み合わせれば効果的なのかを、同社は常に考えています。そして、情報を単に機械的に整理して伝えるだけでなく、情報と情報の間に、理解を深めたり、想像力を働かせたりできるような、ウイットとストーリーのあるインターフェースづくりを目指しています。

赤池さんは、「商品が消費される過程で、情報流通のハブとなる私たちが、適切な情報を必要とされる場所に届けるフィルターの役割を果たし、無駄なマーケットを作らないように努力をしたい」と語ります。

現在の市場経済は、次々に新商品を発売し、次々に消費させるというサイクルを回していかなければ儲からない仕組みになっています。そして、インターネットの普及が情報流通のスピードを速め、大量消費に拍車をかけています。また、自然環境や社会環境の悪化とマスマーケットの競争激化が重なり、問題の根本原因の解決には目を向けず、対症療法的な商品も数多く現れています。例えば、犯罪から身を守るための防犯グッズ、栄養不足を補うサプリメントなど。

グラム・デザインにも、そのような商品やサービスの宣伝広告の依頼がやってきますが、同社は、それら商品やサービスの特徴や優位性を伝えるだけでなく、情報を受け取る人が問題の本質に気づき、理解が深まるような情報発信ができれば、企業の社会的責任を果たす機会を創出することになると考えています。


では、大量消費社会を変換しうる情報流通のスタイルとは、そして、持続可能性に向かう情報発信とは、どのようなものでしょうか。

その方策の一つは、「賞味期限の長い情報の流通を心がけて、情報をゆっくりと消費させる」ことです。インターネットによって、情報がより速く、より大量に届けられるようになりました。しかし、受け手である私たちの情報処理能力はそう簡単には高まりません。私たちは、判断のスピードを迫られ、よく理解しないまま、誰かが「よい」と言ったものをその通りに受け入れてしまうことが増えていないでしょうか。結果として、私たちの理解力、判断力は鈍っていきます。

情報をゆっくりと消費させるための工夫は、情報を多面的に、立体的に伝えることです。例えば、商品の中身をじっくりと説明すること。それを買ったら誰が、どこで、どんな風に使うのか、商品が使われる様子や、その使い心地を想像できる情報を丁寧に伝えること。商品にまつわる物語や歴史も紹介して、受け取った情報を誰かと楽しんでもらえるよう、話題を提供することも必要です。また、嬉しい、悲しいなどの感情や好奇心をはさみながら伝えることも、情報の理解を深めるのに有効な手段です。

そしてもう一つの方策は、「長く使うことをイメージさせる」ことです。例えば、商品情報の中に、10年後20年後と長く使い続ける美しさを織り込むこと。使い続けて飽きがくる前に「もっと使いたい」「改めて見直したい」などと思わせるような工夫など。楽しみ方や魅力がたくさんあるほど、愛着がわき、長く使いたいと思うものです。

TVコマーシャルなどでは、ブランド戦略の一環としてこうしたイメージの起用がみられますが、グラム・デザインでは、インターネットを介した情報流通にこそ、もっとこうした持続可能な消費スタイルの提案が必要であると考えています。「いつでもアクセス可能なメディアだからこそ、ユーザーが能動的に知りたい、と思った瞬間を逃さずに働きかけたいんです」と赤池さんは言います。


グラム・デザインが製作を手がけているウェブサイトの一つを紹介しましょう。国土交通省が主管している国内観光資源情報サイト「発見!観光宝探しデータベース」(Agency:電通/電通テック)です。

このサイトは、有名な観光地だけでなく、地元でも忘れられかけていた貴重な観光資源を全国から集め、地域別、目的別に掲載しています。さらに、旅のテーマのヒントとして、「色がきれい」「元気が出る」「耳に心地いい」などを心に語りかける10個のキーワードを設定し、このキーワードでも検索できるようにしています。

グラム・デザインでは、このサイトの情報を通じて、地域の観光資源を、経済的な価値だけで評価するのではなく、文化や伝統も含めた価値として多くの人に理解してもらい、地域で誇りを持って、その価値を高めていってほしいと期待しています。

さて、現在の市場経済の中にあっては、同社の思いを100%反映できる仕事ばかりで経営が成り立つわけではありません。赤池さんは、「会社全体としては、少しでも持続可能な社会に向けた貢献ができたな、と思える仕事と、残念ながらそうではない仕事とのバランスがとれていることも大切。今の枠組みの中から変えていく動きもなければ、世の中は変わっていかない。ゲリラ戦です(笑)」と話します。「挑戦し続けるモチベーションを保つためには、個々人の中でも心地よくいられる『愛と正義のバランス(笑)』を探すといい。絶望しないためには、たとえ今、利益がなくても、希望を持てる仕事に楽しんで取り組む。そうすれば必ず後で好い事が還ってきます」と。

情報の消費のされ方を変革し、社会を持続可能な方向へ導こうとするグラム・デザインの挑戦に、これからも大いに期待しています。


(スタッフライター 西条江利子)

English  

 


 

このページの先頭へ