ニュースレター

2006年01月01日

 

ソーシャルプリンティングカンパニーを目指して - 大川印刷

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JFS ニュースレター No.40 (2005年12月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第34回
http://www.ohkawa-inc.co.jp/

日本には、約3万5千社の印刷会社があります。厳しい経営環境と、急速なデジタル技術の普及で淘汰が進み、その数は、過去5年間で1割あまり減少しています。印刷事業者として、社会に必要とされ続けるには、どのような企業であるべきなのでしょうか。

横浜にある中堅の印刷会社、大川印刷は、印刷業を通じた持続可能な社会づくりへの貢献を目指して「ソーシャルプリンティングカンパニー(R)」という独自のビジョンを掲げ、事業トータルでの環境負荷削減、高齢化社会・医療分野への貢献を実践しています。

その取り組みが認められ、2005年12月12日、第8回グリーン購入大賞において、印刷会社としては初の大賞を受賞しました。グリーン購入大賞は、企業・行政・消費者で構成されるグリーン購入ネットワークが主催しているもので、環境への負荷の少ない物品等を優先的に購入するグリーン購入について優れた取り組みを行う団体を毎年表彰しています。
http://www.gpn.jp/event/award/index.html

医薬品のラベル印刷からスタートした大川印刷は、来年で創業125年を迎えます。従業員数は40名、売上高は、2004年3月期で6億円です。医薬品や食品の包装を中心に、パンフレット、ちらし、製品案内などを多種多様な印刷を手がけています。

6代目社長に就任した大川哲郎さんは、数年前から、「これからの100年を見据え、印刷物はどうすれば社会に必要とされるのか」を考えてきました。そして、創業の原点に立ち返って考えたとき、「大川印刷は、医薬品の効能書きのように、間違いのない表示の印刷物を作ることで社会に役立っているのだ」と気づきました。

医薬品に関する印刷物は、効能書きなど、服用する患者さんによっては命に関わる情報も含まれるため、間違いは許されません。正確な情報を伝えることが何よりも大切であり、それこそが本業を通じた社会貢献につながるのです。これをきっかけとして、「ソーシャルプリンティングカンパニー」のビジョンが生まれました。

今では、医療分野をはじめとするあらゆる印刷物の品質管理システムや、健常者はもちろんのこと、高齢者や体が不自由な方にも対応するユニバーサルデザイン、環境に配慮した印刷を行なうエコライン(R)などを構築しています。

中でも注目される取り組みは、エコラインです。これは、素材選びから、印刷、製本、納品までの全ての工程に、環境負荷削減の技術を取り入れていく同社の独自のコンセプトです。具体的に流れを説明しましょう。

営業活動においては極力公共の交通機関を使いつつ、車での営業をする場合は1台のハイブリッド車を使用しています。一台でまかなえないときは電気自動車を地域の人々でシェアする、「カーシェアリング」を活用しています。

次に実際の製造に話を移しましょう。

まず、出来る限り環境に配慮した用紙を選択します。持続可能な管理が行われていることを認証された森林からのパルプを使用したFSC認証紙、無塩素漂白パルプ紙、間伐材を利用した間伐紙、ケナフ(成長が極めて早く製紙原料に適した植物)やバガス(サトウキビから砂糖を搾った残りカス)を利用した非木材紙、そして再生紙の5タイプから、印刷の目的に合わせて選ぶことができます。

大川印刷は、FSC認証紙の利用を促進するため、2004年6月、加工・流通過程の管理の認証であるCoC認証を取得しました。CoC認証とは、FSC認証の森林から伐り出された木材が、加工・流通の段階でも、他の木材と混ざることなく適切に管理されていることを証明するものです。CoC認証を受けた印刷工場からできあがった印刷物には、FSCのロゴマークを付けることができます。大手ではこの認証を取得している会社も多いのですが、中小の印刷会社で取得しているのは、全体の1%にも達しません。

同社でのFSC認証紙の使用割合は、2005年4月-10月の7ヶ月間の集計では、総用紙使用量の1.3%となり、今後も増加していくことが期待されています。

印刷には、石油系溶剤を含まないノンVOC(不揮発性有機化合物)インキの導入を進めています。近年、大豆油を使用した植物性インキの利用が増加していますが、これにはまだ60-80%の石油系溶剤が含まれています。大川印刷は、2005年11月から、カラー4原色(墨・藍・赤・黄)のインキを全てノンVOCインキに切り替えました。前年の実績から見積もると、これは、インキ総使用量の約2割を占めることになります。そして、大豆油インキとあわせれば、同社の印刷物の約8割は、植物性インキを使用したものとなります。

製本段階での環境配慮が、エコ綴じです。これは、針金の代わりに糊を使用し、安全性を高めてリサイクルしやすくしたものです。エコ綴じは、用紙の種類やページ数などに制限がありますが、たとえば医療用の説明書、菓子類のリーフレットなど、印刷物の形態や用途に照らして相応しいと考えられるものには、コストを負担しても積極的に取り入れていく考えです。

出来上がった印刷物は、ダンボール箱からプラスチックコンテナでの納品に切り替え、ゴミの減量に努めています。配送には、圧縮天然ガス車を使います。営業車として使用しているハイブリッド車、そして補助的に使用しているカーシェアリングと合わせてCO2排出量について年間約9トンの削減が出来ています。

同社では、受注した全ての印刷物について、その用途や特性を考えた上で、エコラインで提案している資材や技術をできる限り取り入れていく方針で、業務を行っています。大川さんは、エコラインを広げていく鍵は、営業担当者が、顧客の印刷物に対する要望と環境配慮をいかにうまくコーディネートできるかにかかっていると話しています。

同社は、エコラインの発想を集約し、さらに発展させた自社製品も開発しています。一つは、卓上型カレンダー「セパレートエコカレンダー」です。紙製のリングや、台紙に古紙配合率70%の再生紙、暦にバガスを含む再生紙を使用し、印刷には大豆インキを使っています。片手で組み立てられ、メモが取りやすい工夫も施されています。もともと同社の年賀用の販促物に使っていた普通の卓上カレンダーに、毎年改良を重ねて考えられる限りの環境配慮とユニバーサルデザインを取り入れ、今では、顧客企業の販促物としての販売もしています。
http://www.ohkawa-inc.co.jp/file/2_d_a_a.html

そして、もう一つは、今年発売を開始した「森がよろこぶカレンダー」です。これは、大川印刷の地元である神奈川県産のヒノキの間伐材を使ったスタンドと、FSC認証紙にノンVOCインキで印刷したカレンダー部分がセットになった卓上カレンダーです。手にとるとヒノキのよい香りがしてきます。
http://www.ohkawa-inc.co.jp/file/2_d_c_a.html

1月から12月まで12枚あるカレンダー部分は、不要になった後、絵はがきとして利用できるようになっています。2年目からは、カレンダー部分のみの販売も開始し、木製スタンドは継続して使えるように考えられています。さらに、カレンダーの売上の1%は神奈川県の「かながわ水源の森林づくり」に寄付され、森林づくりに生かされる仕組みになっています。

神奈川県のお客様がこのカレンダーを購入したとすると、そのお客様はグリーンな消費に貢献できるだけでなく、身近な人へ絵はがきを送ったり、日々自分たちが利用する水源を守る森林とのつながりを持つことができます。毎年購入すれば、そのつながりも継続していきます。この商品の購入を通じて、人と人、人と自然とのつながりが生まれるのです。

大川印刷では、森がよろこぶカレンダーのように、印刷物を通じてつながりを作るしかけを、自然保護活動や企業のCSR活動など、さまざまな分野で作り出せると考えています。大川さんは、これからの印刷会社が持続可能であるためには、お客様の注文に応じるだけでなく、持続可能な社会に貢献する提案をいかに考え、働きかけていけるかだと言います。そして、すでにその働きかけをスタートさせている大川印刷の取り組みに、これからもぜひ注目したいと思います。


(スタッフライター 西条江利子)

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