ニュースレター

2005年11月01日

 

消費者起点の"よきモノづくり" - 花王

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JFS ニュースレター No.38 (2005年10月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第31回
http://www.kao.co.jp/

日本にはじめて国産の石鹸が登場したのは130年前のことです。当時は洗濯屋向けのもので、一般の人が洗顔や入浴に使える石鹸が登場したのは、それから15年ほどたってからでした。 

「顔や体に使える質のよい石鹸を作り、消費者に届けたい」--花王の創業者 長瀬富郎氏の想いから、1890年に国産高級石鹸「花王石鹸」が誕生しました。以後、花王は、日本人の洗髪習慣を大きく変えたシャンプー、石鹸から合成洗剤へと流れを変えた衣料用洗剤、日本初の住宅用液体洗剤などを次々に発売。日本の石鹸・洗剤市場を牽引してきました。

現在では、工業用製品、化粧品やヘルスケア製品(英訳:health care products)などの事業でも成功し、日本のほか、アジア、アメリカ、ヨーロッパで事業を展開しています。2004年度の売上高は9368億円で、海外での売り上げが1/4を占めます。国内外に約2万名の従業員が働いています。

花王は、2004年10月に、それまでの「花王の基本理念」をグローバルな視点から見直し、新たな企業理念「花王ウェイ」をまとめました。これは、花王が何のために存在し、どこに行こうとしているのか、どんなことを大切に考え、どのように行動すべきかを示したもので、花王の生き方、仕事の進め方そのものの表明であるとしています。

花王ウェイでは、「消費者・顧客の立場にたって、心をこめた"よきモノづくり"を行ない、世界の人々の喜びと満足のある、豊かな生活文化の実現に貢献すること」を使命とし、「消費者・顧客を最もよく知る企業となることをグローバルにめざし、全てのステークホルダーの支持と信頼を獲得するとともに、社会の持続的な発展に寄与する。」というビジョンが掲げられています。そして、それを支える「基本となる価値観」と「行動原則」が示されています。

このような花王の企業精神をもっともよくあらわしている製品の一つが、1987年に発売した、コンパクト型衣料用洗剤「アタック」です。

日本の家庭では、毎日のように頻繁に洗濯しますが、それまでの衣料用洗剤に対しては、「木綿衣料の汚れが落ちにくい」「洗剤は大きくて重い」といった消費者の不満がありました。当時の洗剤は、一箱4.1kg入りが主流で、お年寄りや子供連れの母親には買って帰るのにも一苦労でした。

使いやすさを追求した商品を届けたいと研究を重ねた結果、アルカリ性でも働くバイオ酵素の発見や少量でも高い洗浄力のある製剤化技術の開発によって、1回の使用量を1/4(容積比)に減らした世界初のコンパクト型洗剤「アタック」が生まれました。従来よりも高い洗浄力を持つ画期的な開発でした。一箱の重さは1.5kgと従来の1/3になり、片手でも持ち運べる大きさになりました。

アタックは発売直後から消費者に受け入れられ、これにより花王は、発売翌年には日本の衣料用洗剤市場で単独トップになりました。そして、1990年代には日本のほとんどの洗剤がコンパクト型にかわっています。

花王が1970年代のオイルショック以降、資源の多消費型から節約型への転換の重要性を認識したことも、この商品開発の背景にありました。使用量を減らしたことは、単に運びやすさを改善しただけでなく、さまざまな環境面での負荷低減につながっています。

アタックはこれまでに20回以上改良されていますが、そのつど洗浄力や利便性だけではなく、環境面や社会面での配慮が加えられています。コンパクト化される前に比べると、現在のアタックは、包装資材を一箱当たり重量で64%、体積で80%削減。生産エネルギーは44%削減されています。輸送時の積載数はパレット当たり3.6倍に向上し、商品一箱当たりの物流時のCO2排出量を削減しています。2004年春の改良では、紙箱、ふた、計量スプーンに再生材料が採用されました。

花王の企業風土には、移り変わりの激しい消費者ニーズを的確に捉え、常に消費者の立場にたった商品を提供するために、消費者と対話し、消費者の声によく耳を傾けながら商品を作り上げる、という意識が組み込まれています。そして、ニーズの探索から、技術開発、発売後のフォローにいたるまでの全ての企業活動に、消費者の声を反映するシステムが出来上がっています。

その根幹となっているのは、1978年から稼動しているコンピューターシステム「花王エコーシステム」です。消費者と花王の双方向のコミュニケーションを支援し、年間12万件以上寄せられる消費者からの問い合わせ情報をデータベース化し、社内で共有できるようにした情報ツールです。

商品に関する問い合わせや相談は、電話や電子メール、手紙などを通じて、花王消費者相談センターで受け付けられます。センター職員は、問い合わせを受けると、エコーシステムで商品や関連する情報を検索して速やかに適切な回答を行い、相談内容をエコーシステムに入力します。入力された相談情報は、社内のネットワークに配信され、翌日には社員は閲覧が可能です。どの商品にどんな内容の問い合わせがあるのかなどの情報解析や同じ製造日の商品に同一の問題が発生した場合は、生産上のトラブルの可能性を自動的に示唆するなどの機能も備えられています。

実際の活用場面を見てみましょう。花王では、品質保証上の課題を検討するために、毎月1回、製品カテゴリーごとに関連部署が集まって品質保証会議を開いています。この会議の議論のベースとなるのが、エコーシステムから得られる情報です。この情報をもとに、消費者の不満や不便をどのように解決していくかを話し合います。

商品開発の段階では、新規商品のヒントを得たり、過去の類似品に寄せられている消費者の声から開発上の留意点を探ったりします。また、製品発売後には、消費者の反応をいち早く知り、販売戦略や今後の改良に活かしています。

例えば、今では当たり前となった「シャンプー容器の識別きざみ」も、お客様の声から生まれた工夫です。シャンプーとリンスは同じブランドなら同じ形状の容器に入っているため、消費者は浴室でパッケージを見分けるのに苦労していました。そこで、1991年に、花王はシャンプーの容器の側面にこまかなきざみを施し、手で触ればシャンプーだと識別できるように改良したのです。これは、申し出者の中に目の不自由な方もいたことから、盲学校と協力し開発を進めた成果でした。花王は、この工夫を業界全体に呼びかけ、シャンプーとリンスを識別するための日本でのスタンダードとしました。

このように、花王消費者相談センターは、消費者一人ひとりの相談に応えるとともに、消費者との双方向でコミュニケーションし、「消費者を最もよく知る部門」として、消費者起点の"よきモノづくり"を推進する役割を担っているのです。2004年からは、花王の活動を広く知ってもらい、また企業の消費者対応のあり方について考えるための事例を提供する目的で、「花王消費者相談センター活動報告書」を発行しています。

社員一人ひとりが消費者の声に真剣に向き合い、一歩踏み込んで情報を分析し、商品に活かしていくことによって、花王は、自らの掲げたビジョン「消費者・顧客を最もよく知る企業」に一歩ずつ近づいています。


(スタッフライター 西条江利子)

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