ニュースレター

2005年08月01日

 

明日の価値をつくる-小舟木エコ村プロジェクト - 株式会社地球の芽

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JFS ニュースレター No.35 (2005年7月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第27回
http://www.chikyunome.co.jp/

日本最大の湖、琵琶湖南岸のほとり滋賀県近江八幡市でいま、これまでになかったタイプのコミュニティづくりが始まっています。

「人々が生き生きと暮らし、人間として真に成長できるコミュニティ。自然が尊重され、再生されるコミュニティ。そして、ビジネスが活発に行われ、人と人とが刺激し合うコミュニティ。持続可能な未来を探し求めている企業や、日本や世界で新しい価値観と新しいライフスタイルを模索している他の地域にとっての、インスピレーションとなるコミュニティ。」

志を持った多様な人の力を結集して、15haの土地にこのようなコミュニティをつくろうというのが、「小舟木エコ村プロジェクト」です。

小舟木エコ村プロジェクトの新しさとは

このプロジェクトの新しさの一つは、その推進体制にあります。これまで「土地開発」といえば、開発業者が住宅という「商品」を企画し、建設会社とともに建築し、販売するというものが主流でした。それは作り手から買い手(生活者)への一方的な流れであったと言えます。

またはそれとは別に、欧米で1960年以降広まったヒッピーによるコミューンづくりのように、生活者が中心になり、開発業者に頼らず自主的にエコビレッジをつくっていく運動もありました。しかし多くの場合、地元の人々にとけ込めない、技術が汎用化されない、あるいは経済的に持続できないという理由で社会に普及していかないという難しさがありました。

小舟木エコ村プロジェクトは、こうした二つの流れを超えて、「エコ村づくり」をミッションとした市民組織(NPO)が中心となり、地元の産業界や行政の力を合わせて、地域の様々なステークホルダーと一体になって、新しいコミュニティをつくっていくというものです。

中心となって理念構築を担う市民組織は、2000年に設立された「NPO法人エコ村ネットワーキング」です。市民から専門家まで誰でも参加できるプラットフォームで、エコ村実現のために必要なライフスタイルやエネルギー、食糧や水、コミュニティのあり方などについて、専門家を交えたワークショップを繰り返してきました。

土地取得から住宅建設まで、事業として小舟木プロジェクトを進めるための法人組織が2003年3月に設立されました。「株式会社 地球の芽」(以下、地球の芽)です。20代を中心とする12名のスタッフが運営しています。そして、「自然と人間がともに輝くモデル創造立県・滋賀」を掲げる滋賀県、「環境と文化(環境と文化のまちづくり)」というビジョンを掲げる近江八幡市、を初めとした行政、地元団体、特定非営利活動法人や事業法人が参画する「小舟木エコ村推進協議会」(2003年設立)が、事業を実務面で協力・応援します。

これら三者が一体となってコミュニティのイメージが具現化してきました。15haの敷地内には、緑地を多く配し、環境共生型戸建住宅を含む200-300戸の住居、研究所、環境ビジネスコンソーシアム、コミュニティセンターなどが設けられます。それは、単に人が暮らすだけではなく、地域や社会の課題を解決するプロジェクトが起こり、次から次へと成果物が生まれていく場所というイメージです。

現在は、住宅やライフスタイル提案の企画、行政との許認可の折衝を進めている段階です。2006年秋には、第一期の住宅に人々が住み始め、2010年ごろに第五-七期で完成する予定となっています。

課題 - ライフスタイルを創出する

小舟木エコ村は、「生態系のように共進化するコミュニティ」を目指しています。つまり、環境配慮型の建築物や構造物を整えるだけでは、持続可能性はなしえません。例えば現在の日本では、家庭用電器や住宅の省エネ性能はあがっているにも関わらず、生活から排出される地球温暖化ガスは増加しています。そこに住む人々が、時間をかけ試行錯誤しながら、真にエコロジカルなライフスタイルを生み出していけることが必要です。また、それを支える(今はまだない)技術や市場も生まれなければなりません。

こうした状況において、小舟木エコ村プロジェクトは、「二酸化炭素の排出を現在より80%削減するライフスタイルの創出」という目標を掲げています。

そのためにまず取り組むのが、地場の木材を用いた住宅づくりです。地場の木材を利用することにより、輸送のエネルギー使用が減るほか、CO2固定をする地元の林業を支えることになります。小舟木エコ村では当初、「1年間で50戸の住宅を、地域材を利用して建設する」ことを検討しました。しかし、地元の林業だけでは供給が追いつかないため、木材をいかに調達するかという課題に直面します。そこで現在、滋賀県の木材に関する団体を訪ねて、小舟木に建築する住宅をもとに、計画的に木材を生産・供給・利用する体制を整え、より多くの方に使って頂ける木材供給ネットワークづくりにむけた協議を始めています。このように、社会が持続可能な方向へと変わる契機となるグリーン市場としての役割がエコ村の価値でもあるのです。

こうした活動や生活における環境面のデータは、「持続可能な社会の設計」をテーマとしてコミュニティ内に設置される研究研修施設「地球社会研究所(Earth Community Institute:ECI)」に集められ、分析されます。ECIは、新たな環境技術や住まい方を提案し、住民がそれを暮らしの場で実践し、また結果を検証します。住民や国内外の研究者が参加して、交流し、新たな知を創出する。その過程で、人が育ち、未来のライフスタイルが見えてくる。このようにして、人々が共に進化する場作りを目指しています。

小舟木エコ村の考える「ビジネス」

このようにエコ村では、金銭的利益だけでなく、社会的な価値を提供する「NPO的な企業」として、中長期的な人材やノウハウの輩出で社会に対する価値を生み出すことを目指しています。もっとも、その新しい価値を評価する指標はまだ社会に確立されていません。誰もが、プロジェクトによる経済収入など、比較的短期的でわかりやすい指標を求めがちです。初めて小舟木プロジェクトの説明を聞いた人からは、「それがビジネスになるのですか?」という反応も少なくないそうです。

地球の芽では、「社会に本当に必要とされるものを提供できれば、ビジネスは成立する」と考えています。プロジェクトの推進役である秋村田津夫氏は言います。「今日の価値は、必ずしも明日の価値とはならない。目先の市場のニーズを満たすことばかりに目を向けていてはだめ。「こんなものがあったらいいな」を提案すること、「明日の社会」の価値を提案し、フロンティアを切り開くことが、本当のビジネスではないだろうか。」

例えば、小舟木プロジェクト予定地に足を運ぶと、既に有機農園が始まっています。スタッフを中心に、菜園を作っているのです。ワークショップを開きながら、近隣に住む農家や、大阪や京都の農業に興味がある若者たちが参加し、有機農業を実践しています。現時点での区画は5,000平方メートルですが、将来は、地域に野菜を供給し、地産地消の文化を育てること、近江八幡市全体の農業関係者と協力してより持続的な農業の普及に取り組むことを考えています。

小舟木エコ村では、各家庭に食のインフラとして菜園を整備する計画となっています。「自ら土に触れることを通して、家庭の食について考え、人間にも自然にも、本当に安心で安全な食べ物を求める消費者へ変化していくきっかけになれば」と、スタッフの齊藤千恵氏は語ります。日本のカロリーベースの食料現状は約40%に過ぎない現状を考えると、食糧自給の向上が大きな課題になってくるのは必至です。そのときに、地域の食料供給にどう取り組んでいくか、そのノウハウの蓄積は、地球の芽はもちろん地域全体にとって大きな資産になるでしょう。

その他にも、ユニークな取り組みが始まっています。それは、京都東本願寺の改修に伴う古瓦の再利用プロジェクトです。浄土真宗の由緒あるお寺東本願寺ではこの度、約100年ぶりの修復工事が行われ、大量の屋根瓦を葺き替えて新しくしました。

しかしその際に発生した大量の古瓦は、法律上は廃棄物の扱いになってしまいます。一つの瓦の大きさは55cm×45cm、重さは12kgもあります。廃棄するためには莫大なコストもかかるため、その処分方法が問題となっていました。一方、地球の芽では仏教という日本に古くからある哲学には、これから持続可能な社会を実現するために学ぶべき点が多いと考えていました。

そこで、小舟木エコ村では、このシンボリックな瓦2万枚を活用し、近くて遠い存在となってしまっている伝統的精神文化を現代に生かすきっかけにすることができないかと思案しています。建築家やお坊さんと共同して、瓦を活かしてコミュニティのシンボルをつくる、菜園や敷地の境界を示すブロックとして再利用する、などのアイデアが出ています。何百年もの間、人々の心の支えになってきた尊い仏寺の建築材を活かすことは、精神文化(こころ)にとっても意味のあることです。

こうして、「明日の価値」を形にする取り組みが、一つ一つ進められています。「単なる慈善事業でもなく、単なる営利事業でもない。社会の課題とビジネスという、二つの足場に両足をついて、しっかりと立ち歩いていける組織を作る。それによって、持続可能なコミュニティづくりが社会に広がっていくためのさきがけとなりたい」と齊藤さんは語っています。新たなライフスタイルという明日の価値を創造していくこと、それが小舟木プロジェクトの目指す「ビジネス」なのです。


(スタッフライター 小林一紀)

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