ニュースレター

2005年07月01日

 

生まれ変わる複写機-天然資源の枯渇に挑む - 富士ゼロックス株式会社

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JFS ニュースレター No.34 (2005年6月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第25回
http://www.fujixerox.co.jp/

「インバース・マニュファクチャリング」という言葉を知っていますか?製品を企画設計し、製造し、お客様が使用して、廃棄するまでの生産プロセスに加え、使用済み製品を回収し、分解・選別し、部品や材料の形で再利用する逆方向のプロセスをあらかじめ組み込んでモノ作りする仕組みのことです。

従来から省資源のために、使用済み製品を回収して資源に戻すマテリアルリサイクルや熱を取り出すサーマルリサイクルが広く行われています。これらの多くは、モノを作る側(順工程)と処理する側(逆工程)が異なっているため、循環の効率が低く、逆工程でも多くのエネルギーや薬品を使用します。

これに対してインバース・マニュファクチャリングは、製品のライフサイクル全体の中で順工程と逆工程を統合させ、部品や材料が循環するクローズド・ループを作ることによって、価値を生み出し続けながら、資源とエネルギーの消費量、廃棄物を最小化することが可能です。インバース・マニュファクチャリングは、持続可能な製造業のあるべき姿として、十数年前から提唱されていますが、その実現は容易ではなく、ビジネスモデルとして成功させている企業は数えるほどしかありません。

富士ゼロックス株式会社は、1995年に、部品のリユースを軸としたインバース・マニュファクチャリングによる複写機の販売を開始し、2003年ついに環境会計上で6千万円の黒字を計上しました。

環境会計上の黒字化とは、製品リサイクルのために使われた支出(使用済み製品の回収や分解、再資源化の費用)よりも、部品をリユースすることによって得られた収入(新規部品の購入を抑制した金額)の方が上回ったということです。

「複写機はもともと、機器をレンタルし、コピーというサービスをお客様に提供するビジネスモデルを持っていました。」-- 品質・環境経営部 環境経営管理グループ 兼 CSRグループ グループ長 秋山裕之氏は言います。同社は、創業当時から、製品が生み出す価値を販売し、製品そのものは自社の責任で回収する、という資源循環の発想がありました。その特質を武器に、「可能な限り新たな資源を使わないものづくりを目指す」という強い信念のもと、着手から10年を経て、ビジネスとして成り立つインバース・マニュファクチャリングを確立したのです。

富士ゼロックスは、電子写真方式の複写機"ゼロックス"の日本での販売拠点を築くために、富士写真フイルムと英国ランク・ゼロックス社との合弁会社として、1962年に発足しました。現在は、複写機、プリンター、およびデジタル複合機、パソコンやワークステーションなどの情報機器やソフトウエアを扱い、日本、中国およびアジア・パシフィック地域で販売・サービスを展開しています。2004年度の連結売上高は、1兆293億円、そのうち日本での売上が約9割です。グループ全体で、3万6千人の従業員が働いています(2004年度)。

富士ゼロックスがインバース・マニュファクチャリングに着手したのは、1993年に遡ります。天然資源の枯渇にどう対応するかを真剣に考え、リサイクルでは新規資源の投入量削減に限界があると考えた同社は、「リユース部品を使って、新品と同じ品質の製品を生産する」という目標を打ち立てました。これは非常に高いハードルでした。

新品と同等の品質を保証するためには、個々の部品の寿命が正確に把握できなければなりません。出荷前は同じ寿命であっても、使用頻度や設置環境、メンテナンス状態によって消耗度合いは千差万別です。部品ごとに固有の使用状況をどのように測定し、どのように選別するかが、最初の課題でした。

解決策の一つは、センサーの活用でした。もともと複写機には、コピーするたびに、紙の流れや材質、サイズなどを感知するためのセンサーが数多く組み込まれています。開発者たちから「センサーのお化け」と呼ばれるほどです。この技術を応用して、個々の部品の使用履歴を蓄積し、データを解析することで寿命を判定できるようにしました。

また、リユース率を高めるためには、製品設計でリユースを考慮しておくことが極めて重要です。部品の長寿命化を図ったり、寿命の長い部品と短い部品を分離しやすいように設計したり、あらかじめリユースできるような設計にしておくといったリサイクルのための設計を進めると同時に、異なる機種にも共通で使える部品を増やしていきました。同社の開発担当者は、新しい機種を設計する時、いかに既存機種の図面をいかせるかを考えるのだそうです。

同社のインバース・マニュファクチャリングの特徴は、リユース部品の活用を、次世代の機種へ、さらには、その次の世代(三世代)へと拡大している点にあります。同世代機種にしか使えない部品は、回収された時点で当該機種が製造されなくなっていれば、物理的には寿命があってもリユースできません。次世代の機種に活用できるよう設計しておけば、省エネや有害化学物質低減などの環境配慮が進んだ新機種にリユース部品を使い、環境負荷の削減にますます貢献できるのです。2003年度には、リユース部品の約60%が三世代機種に活用されました。

さまざまな努力が積み重ねられた結果、部品点数におけるリユース部品の割合は54%まで引き上げられ、新規資源の投入量を1年間で2,200トン削減できました(2003年度)。これは、同社の投入資源総量の約3.5%にあたります。分かりやすく言えば、複写機100台のうち3台分は、新しい資源を全く使わずに生産できたということです。そして、リユースできない部品は、徹底的に分別しリサイクルすることにより、「廃棄ゼロ」を達成しています。

インバース・マニュファクチュアリングを軌道にのせた富士ゼロックスの次なる課題は何でしょうか? 「日本で構築したシステムをグループ全体に展開していくことです。2004年12月に、アジアでの拠点となる、回収・解体・再資源化工場をタイで稼動させました。」秋山氏からすばやい答えが返ってきました。この工場には、アジア・パシフィック地域9ヶ国・地域から複写機やプリンターが集められ、64分別されています。

中国でも検討されています。それに先立って、2004年12月と2005年1月に、中国の深センと上海の2工場で相次いで、ゼロエミッションを達成しました。

さて、天然資源枯渇に挑む富士ゼロックスには、もう一つ特筆すべき取り組みがあります。コピーや印刷に使用する紙の持続可能な供給です。森林資源の破壊の一因といわれている紙の消費量増大。同社は、製紙会社と協同して「環境に最も配慮した紙」の提供に取り組んでいます。

日本でも古紙配合率の高い再生紙の利用が進んでいますが、紙のリサイクルは4-5回までが限度で、紙を供給し続けるにはフレッシュパルプの利用が不可欠です。同社は、再生パルプの配合率50%以上を維持しつつ、2010年までに、残りのパルプを、持続可能な森林管理の認証(FSC認証など)を取得した森林や植林木から供給することを目標に掲げています。2004年には、再生パルプと植林木や認証パルプなどをあわせた配合率は82%に達しています。

取り組みを強化するために、コピー用紙および原料の仕入業者に対する、法令の遵守や持続可能な森林管理、無塩素漂白処理など6項目の調達基準を定め、運用を開始しました。基準に沿うよう取引停止などを含めて調整を進め、2006年からの完全な適合を目指しています。

また、同社は、1996年からニュージーランド南島での植林事業に出資しており、今年の春はじめてそこで育てたユーカリからチップが製造されました。このユーカリ林は、FSCの認証を取得しており、チップは、FSC認証をうけた製紙工場で加工されて、2005年3月、日本国内の工場に向けて出荷されました。そして6月1日、このFSC認証自社植林木チップを含む「植林木パルプ」と「新聞古紙パルプ」を50%ずつ配合した環境バランス用紙『FR』(エフ・アール)として富士ゼロックス、関連会社の富士ゼロックスオフィスサプライから販売されました。環境バランス用紙『FR』は、自社植林木チップから作ったパルプを国内で初めて配合したコピー/プリンター用紙です。

富士ゼロックスは、環境、経済、社会のトリプルボトムラインやCSRの議論が盛んになる以前の1990年代初頭に「強い・やさしい・おもしろい」の3つの価値を高めていこうとする「よい会社構想」を発表しています。同社は今後も引き続き、仕事や人生を「おもしろい」と感じる従業員をエンジンとして、競争力のある「強い」会社、社会や環境に対して「やさしい」会社の実現を目標に、持続可能な社会の実現に向かう取り組みを加速していきたいと考えています。

参照URL
http://www.fujixerox.co.jp/company/sr/e/e_30.html (天然資源枯渇対策への取り組み)
http://www.fujixerox.co.jp/eco/office/paper/product/index.html (環境に配慮した紙の供給)
http://www.fujixerox.co.jp/arm/index1.html (資源循環型システム)
www.mstc.or.jp/inverse/main.htm (インバース・マニュファクチャリングフォーラム)

(スタッフライター 西条江利子)

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