ニュースレター

2005年04月01日

 

「皆様に信頼される、誠実な企業であるために」 - イトーヨーカ堂

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JFS ニュースレター No.31 (2005年3月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第24回
 http://www.itoyokado.co.jp/company/

私たちの日常生活にとって欠かせないスーパーマーケット。食料品や日用品、衣料品を中心としたセルフサービス方式の大規模小売店は、私たちの暮らしを豊かで便利にしてきました。一方、大量生産、大量消費型の暮らしのために消費する物質やエネルギーの量は増え続け、大量のゴミの処理に困り、自然破壊が進行しています。

そうした中、日本でも、今までの生活スタイルを見直したいと考える人たちが増えてきました。消費者にとってとても身近な小売業は、今どう変わろうとしているのでしょうか?

イトーヨーカドーは、日本の小売業を代表する総合スーパーマーケットです。全国25都道府県に177店舗を運営し、年間の売上げは約1兆4,748億円(2004年2月末)。単純に割算すると、1店舗あたり1日平均の売上高は、2,000万円以上です。1920年に創業し、現在約47,400名の従業員が働いており、うち約7割はパートタイムです。1997年には中国にも開店して、現在5店舗を構えています。

持続可能な社会に向かって、小売業が果たす役割とは?-- イトーヨーカドーは、「商品の仕入れ、生産、物流、販売、お客様が商品を消費・廃棄するまでのあらゆるプロセスを視野にいれた環境負荷の小さな小売業の実現であり、そうすることで、お客様に"持続可能なライフスタイルの提案"を行っていくこと」が最も重要だと考えています。お客様の消費を、できるだけ環境負荷のかからない形、安全や安心に配慮した形など、持続可能な形に変えていくことと、そのためのライフスタイルの提案がこれからの小売業にとっての重要課題だと考えています。

そのためには、持続可能性に配慮した商品を提供していくことと、販売方法を持続可能な形に変えていくことが鍵を握っています。しかし、これらは簡単に実現できることではありません。

イトーヨーカドーには、お客様をはじめ、取引先、地域住民や行政、株主、そして自然環境など多様なステークホルダーとの関わりがあります。様々な利害の対立を調整し、ジレンマを解決しながら、社会に対する責任を果たしていく必要があるのです。

例えば、レジ袋の扱いひとつにも、様々な意見が寄せられます。日本では1年間に約305億枚のレジ袋が消費されており、原油に換算すると55.8万klに及びます(日本ポリオレフィンフィルム工業組合の試算)。レジ袋削減のために、イトーヨーカドーの店頭でもスタンプカードを導入して買物袋の持参を呼びかけており、レジ袋を20回辞退したお客様はそのカードを100円分のお買物券として利用できますが、買物袋の持参率は6.3%(食品売場)に留まっています。

温暖化防止に積極的な消費者団体からは、レジ袋を有料化してでも削減に取り組むべき、という要望がある一方、温かい商品と冷たい商品、堅い商品と柔らかい商品、ドリップの可能性がある商品等レジ袋を必要と考えて、今まで無料だったサービスの有料化に反対する声も多く、少額なら有料でもレジ袋を使う方が便利というお客様もいらっしゃいます。

また、食品のプラスチックトレイや容器の削減にも頭を悩ませています。日本では少子化・高齢化が進み、一人暮らしや小家族が増えた結果、大容量パックよりも、1個売りや少量パックへのニーズが高まっています。容器1個当たりの重量はある程度限界近くまで削減しましたが、お客様のニーズに応えるためには、小さな容器の個数の増加は避けられません。

このようなジレンマを解決する鍵は、なにより「ステークホルダーとの対話」だと信じ、同社では、事業活動と関わりの深いステークホルダーとの対話を経営の基本姿勢として、日々、業務の見直しを行っています。レジ袋やプラスチック容器の問題解決に対しても、ステークホルダーの声を聞きながら、サービスのレベルを落とさず、環境負荷が少なく、会社にとってもメリットがある方法がないかと、いろいろな工夫や試算を重ねているところです。

「対話」がきっかけとなって生まれたイトーヨーカドーの取り組みをふたつ紹介しましょう。ひとつは、2002年3月に設置された「表示改善プロジェクト」です。日本では、2001年以降、精肉、米、お茶など、食品の産地の偽装表示が多発しました。お客様から同社に寄せられる声の中でも、表示に関する疑いや要望が最も多い、という状態が今も続いています。

同社はまず、店頭でのまぎらわしい食品表示を徹底して見直しました。産地名を商品名の前に必ず記載し、「完熟」「特選」など品質が優れているような誤解を招きやすい表示を禁止し、サイズや数量の大小の表示に基準を設けました。

また、4名の担当者が分担して全国の店舗を年2回抜き打ちで訪問し、店長、売場マネジャーと一緒に、店頭を巡回して、表示状況の確認やヒアリングを行う「店舗表示チェック」を行っています。チェックによる店舗ごとの評価は、数値化して全店に公開し、改善を図っています。

新聞の折り込みチラシやパンフレットなど広告媒体での表示についても、「フェアトレード(FT)委員会事務局」が、適正かどうかを事前に厳しくチェックしています。セール企画を行う場合にも、FT委員会事務局、商品部門の担当者、販売促進部が毎回話し合い、設定しているセール価格及び表現(表示)が適正かどうかを確認しています。また最終の広告媒体は、FT委員会事務局が再びチェックを行って、お客様の手元に届きます。同社では、このようにして、適正な商品情報や価格情報を表示するしくみを運用しているのです。

もうひとつの事例は、お客様の安全・安心や生産者への信頼を求める声に応える独自ブランド「メイド・イン・ジャパン」の商品開発で、2002年5月にスタートしました。イトーヨーカドーで販売している商品は、衣料品は8割近く、住居用品では3割近くが海外で生産されています。しかし、食品の安全・安心へのニーズ、生産者の顔が見える食品へのニーズが、衣料品や住居用品にも広がり、国産品の品質や技術に価値を見出すお客様が増えてきたことが開発のきっかけでした。

さらに、店舗と地域との連携を考えたとき、「商品を購入していただけるお客様」としてだけでなく、商品を生産してくれるお取引先としての関係が今まで少なかったことに気づきました。「地産池消生産者」の考え方からも、産地の近くにお店があるなら、そのお店で販売し、地域のお客様に買って頂くことはごく自然なことです。

また地域との連携を生産量の観点から考えた場合も同様で、「メイド・イン・ジャパン」の場合は、小規模の製造業者でも、優れた製品であるなら、「一店舗だけ」「特定のシーズンだけ」といった、量や期間を限定した形でも扱うことにしました。小規模であるからこそ、高品質を維持できる製品もたくさんあるからです。

「メイド・イン・ジャパン」には、日本でしかできない製造技術の継承、地域の小規模生産者の活性化、消費者ニーズへのすばやい対応など、多くのメリットを見出すことができます。消費者と生産者との顔の見える信頼関係の中から、新たな価値ある商品が生み出される可能性も秘めています。

お客様にも好評を得て、2003年度は、衣料品 で190産地935品目、住居用品では19産地145品目を販売し、年間の売上額は200億円を超えました。同社では、これからも大切に育てていく計画です。

こうした地道な一つ一つの活動の積み重ねは、イトーヨーカドーと、お客様や取引先や地域との信頼関係を深めていくことにつながります。そしてその信頼関係は、同社とステークホルダーとが、持続可能な社会を切り開いていく過程でぶつかるジレンマを、一緒に乗り越えるための大きなブレークスルーを生み出す基盤となるのです。

イトーヨーカドーは、これからも、ステークホルダーとの対話を事業活動の根幹にすえ、全てのステークホルダーに信頼される誠実な企業として、社会に対する責任を果たしていきたいと考えています。
http://www.itoyokado.co.jp/company/
http://www.itoyokado.co.jp/company/profile/csr/activity.html
(社会環境報告書)


(スタッフライター 西条江利子)

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