ニュースレター

2005年04月01日

 

日本の大気汚染の歴史と東京都の果たしてきた役割

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JFS ニュースレター No.31 (2005年3月号)

東京都は2000年12月、公害防止条例を30年ぶりに全面改定し、「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(環境確保条例)」を制定しました。旧条例は、工場を中心とする産業型の公害から都民の健康を守り、生活環境の改善に大きな役割を果たしてきました。しかし、自動車公害問題や有害化学物質問題、さらにはヒートアイランド現象や地球温暖化など、現代社会が直面している環境問題に適切に対応するためには、新たな規制や仕組みが必要となってきたのです。

「環境確保条例」は、その目的を「現在及び将来の都民が、健康で安全かつ快適な生活を営む上で必要な環境を確保すること」としています。東京都はこれまで、環境対策の遅れがちな国を先導する斬新な対策を打ち出してきました。日本の大気汚染の歴史を振り返り、東京都がどのような役割を果たしてきたかを紹介します。

大気汚染の歴史

日本の環境行政の歴史は、公害対策に始まります。第二次世界大戦後、日本は急速な経済復興を遂げ、高度経済成長時代が幕をあけました。重化学工業を中心とした経済発展に伴い、日本各地でばいじんや硫黄酸化物を主とする大気汚染問題が顕在化してきました。国による公害対策が一向に進まないなか、1949年に東京都は全国初の「東京都工場公害防止条例」を制定しました。さらに、1955年には「東京都ばい煙防止条例」を制定し、国や他の自治体に先駆けて公害行政に取り組んだのです。

1969年に東京都が制定した「東京都公害防止条例」は、工場の届出制や環境上の基準に関する規定を盛り込み、当時最も先駆的・総合的といわれました。いくつかの地方自治体でも同様の条例が制定され、このような動きが国の環境関連法の整備につながりました。

1968年、工場からのばい煙の排出を規制し、自動車排出ガスの許容限度を定める「大気汚染防止法」が国会で成立しました。この法律により、硫黄酸化物(SOx)とばいじん(すすなど)の排出基準が設定されました。1970年の公害国会における改正で、硫黄酸化物(SOx)、ばいじんに加え、窒素酸化物(NOx)・カドミウム・塩素・フッ素・鉛などの有害物質が規制対象物質となりました。1974年の改正では、硫黄酸化物(SOx)について、都道府県知事がさらに厳しい総量排出基準を定めることができるとする総量規制制度が導入されました。

環境省 大気汚染防止法の概要 http://www.env.go.jp/air/osen/law/

自動車排出ガス規制

東京の環境については、工場のばい煙に代表される産業型公害は大幅に改善される一方で、都市・生活型大気汚染が顕在化するようになりました。自動車の排ガスによる大気汚染は、交通量の増加やディーゼル車の増加などにより、一向に改善されず、長年に渡って対策が立ち遅れてきました。中でもディーゼル車から排出される窒素酸化物(NOx)や粒子状物質(PM)の環境基準達成率は極めて低い水準が続いていました。「環境基準」とは、大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音について、「人の健康を保護し、および生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準」として、行政が定めている目標値です。

1992年、国は二酸化窒素(NO2)の環境基準を達成するため、「自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法」(自動車NOx法)を制定しました。自動車によるNOx排出量が大きな割合を占める大都市を特定地域として定め、特定地域内において窒素酸化物(NOx)の排出が少ない車を利用するよう、「車種規制」を盛り込んだ法律です。

「ディーゼル車NO作戦」

東京都は、特にディーゼル車排出ガスに含まれる粒子状物質(PM)による健康影響を懸念し、1999年から「ディーゼル車NO作戦」を展開しました。ディーゼル車から排出される粒子状物質(PM)は、2000年1月の尼崎公害訴訟の判決において、健康影響との因果関係が認められ、発がん性や呼吸器系疾患などとの関連性が強く指摘されています。

2000年12月、東京都が独自のディーゼル車規制を柱とする「環境確保条例」を定めたのに続き、埼玉県・千葉県・神奈川県がほぼ同様のディーゼル車排ガス規制を導入しました。2001年にNOx法の一部が改正され、窒素酸化物(NOx)に加え、ようやく粒子状物質(PM)も規制の対象となりましたが、国は旧式ディーゼル車に対するNOx・PM法の適用を延期し、放置する措置をとりました。東京都は、こうした国の考え方に反対し、改善を求めています。

2003年10月1日から、埼玉・千葉・東京(島部を除く)・神奈川の全域で、条例のPM排出基準を満たさないディーゼル車の走行が禁止されています。基準に適合しない車は、最新規制適合車や低公害車へ買い換えるか、知事が指定する粒子状物質を減少させる装置(PM減少装置)を装着する必要があります。八都県市(埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県・横浜市・川崎市・千葉市・さいたま市)で連携して条例規制を実施していくために、八都県市共同のPM減少装置指定制度が創設されました。

また、八都県市は、共同でCNG車・LPG車・電気自動車・ハイブリッドなどを低公害車に指定し、普及を促進しています。

アジア大都市ネットワーク21

現在、急速な工業化をとげつつあるアジア諸国では、大気汚染物質の排出量が増大しています。2001年に発足した「アジア大都市ネットワーク21(ANMC21)」では、共同事業の一つとして「自動車排出ガス対策ネットワーク事業」を行い、アジアの大都市が直面している深刻な大気汚染の改善に取り組んでいます。

2004年11月8・9日にインドのデリーで開催された「自動車排出ガス対策実務担当者会議」では、デリーのほか、ジャカルタ・クアラルンプール・台北・東京の各都市が参加しました。東京都が行っているディーゼル車対策は、アジアの各都市での排出ガス規制に大きな影響を与えることでしょう。

東京都では、工業化に伴う公害対策に続き、自動車公害・地球温暖化対策にも果敢に立ち向かっています。世界有数の大都市東京が、都民の健康と安全を確保するために展開している数々の施策は、アジア諸国にとっての有益な環境対策のお手本となることでしょう。東京都は「環境に配慮した社会経済システム」の構築を通じ、持続可能な大都市として、日本だけでなく世界をリードする存在となりつつあるのです。


(スタッフライター 角田一恵)

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