ニュースレター

2005年03月01日

 

「きれいな水、きれいな空気、美しい森を守る」-- 富士写真フイルム

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JFS ニュースレター No.30 (2005年2月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第23回
 http://www.fujifilm.co.jp/corporate/index.html

富士写真フイルム(以下、富士フイルム)は、イメージング、インフォメーション、ドキュメント関連の製品・サービスを提供するグローバル企業です。1934年に創業し、写真フイルムなどの感光材料を中心に、カメラなどの関連機器、印刷用・医療用機材、複写機など、映像情報機材を幅広く扱うメーカーとして事業を広げてきました。現在は、世界各国200以上の地域で事業を展開し、2003年度のグループ全体の売上高は2兆5603億円、従業員は7万3000人を超えています。地域別の売上構成比は、日本52%、米州21%、欧州14%、アジア他12%となっています。

日本の市民に、「環境問題に取り組む富士フイルム」を強く印象付けたのは、1986年に発売したレンズ付きフイルム「写ルンです」のリサイクルシステムです。この製品は、フイルムにレンズとシャッターを取り付けた、一回で使い切る簡易なカメラですが、富士フイルムは、これを使い捨てではなく、リサイクルを前提として開発しました。

「写ルンです」は、あらかじめリサイクル方法を考慮し、分解しやすく廃棄物が出ないように設計されており、写真を撮り終わった後は写真店で回収され、循環生産工場で分解、部品をリユース・リサイクルして、再び「写ルンです」となって販売されます。欧州や米国でも同様のしくみが作られています。同社は、発売後も改良を重ねて、製品の再資源化可能な重量率を95%まで高め、現在は、60%の回収率を100%に引き上げるための啓発活動を進めています。

写真フイルムの製造には、豊富な良質の水ときれいな空気を必要とします。それゆえ、富士フイルムでは、創業当時から「環境配慮、環境保全」を企業活動の原点に据えてきました。1994年に、環境基本方針を制定して全社的な取り組みを強化し、その5年後には、レスポンシブル・ケアの精神を取り入れて、レスポンシブル・ケア方針としました。そして、2002年、「富士フイルムグループ グリーン・ポリシー」を定め、製品と企業の環境品質の向上に、グループ全体で取り組んでいます。

グリーン・ポリシーにおいて、最も重要視されていることは、製品の環境負荷をいかに下げるか、ということです。なぜなら、富士フイルムは、メーカーが社会に与える最も大きな環境負荷は「製品」であると認識しているからです。

富士フイルムの全ての製品は、「環境配慮設計基本規則」に従って設計され、この規則に基づいて製品分野ごとに定められた詳細な環境品質目標をクリアしなければ、製品化されない仕組みになっています。グループ会社においても、この仕組みの運用を順次開始しています。

環境配慮設計基本規則は、「安全性」「グリーン調達」「省資源」「環境情報提供」「物流・包装」「法令遵守」の6つの項目で、原料の採掘から製造、使用、廃棄までの全ライフサイクルにわたって、配慮すべき点が定められています。特に、同社は多種多様な化学物質を扱っているため、化学物質に関する安全性の確保には力を入れています。

写真フイルムだけでも100種以上の化学物質が含まれ、研究部門では、製品の開発・改良のために、新たな化学物質を作り出しています。扱っている化学物質はグループ全体で約5,000種に及びます。同社では、これらの化学物質について、さまざまな角度で安全性を評価し、「禁止」から「一般管理」までの5つのランクで管理方法を定め、開発・選定から廃棄にいたる全ての工程で、総合的なリスク管理をグローバルに行うほか、内分泌かく乱物質や有機フッ素系化合物などリスクが懸念される物質については、特別管理物質として監視し、代替化などの研究を行っています。

製品の開発、製造工程では、グリーンサステナブルケミストリー(人と環境にやさしい化学技術、以下GSC)の考え方を重視しています。GSCとは、化学業界で数年前から提唱されている考え方で、「原料や溶媒・中間生成物などの廃棄物となる化学物質をなるべく使わない、出さないで、人体と環境により害の少ない物質を設計し、合成し、応用する化学」のことです。

技術開発の一例として、日本の化学系の学界や団体で構成されるGSCの推進組織、GSCネットワークから、2002年に第一回目の表彰を受けた「水溶媒で塗布する熱現像感光フイルム」があります。

CR、CTスキャン、MRI等、各種医療用画像診断装置で撮影された画像を出力するために使われる現像処理液不要の熱現像感光フイルムの製造には、従来、感光材料を溶かし込んで塗布するために、大量の有機溶剤が使われていました。富士フイルムは、3年以上を費やして、この感光材料の塗布を水溶媒で行うことに成功し、製造時の有機溶媒の排出量を年間1万トン以上削減しました。この水溶媒によるフイルムは、現像処理や診断時の溶剤成分による臭気がないため、医療現場にも歓迎されています。

製造工程からの揮発性有機化合物(VOC)の排出削減は、二つの施策で推進し、効果を上げています。一つは、溶剤の改良、具体的には、沸点の高い溶剤や水系の溶剤への変更による使用量削減、もう一つは、設備対応による大気排出量の削減です。2003年度には、グリーン・ポリシーに掲げた目標「2004年度に、2000年度実績の50%削減」を1年前倒しで達成しました。VOCのなかでも大気中への排出量が多いジクロロメタンについては、代替品の研究を行うなど使用量削減に力を入れています。

部品や材料などの調達においては、調達品グリーン基準が定められています。この基準では、サプライヤーに対して、法律による「禁止化学物質」の不使用、富士フイルムの方針による「削減化学物質」および「含有量把握管理化学物質」の含有量の把握・管理を求めており、説明会や管理体制の調査、現物実測によって徹底を図っています。

また、富士フイルムでは、工場周辺住民との信頼関係の構築を重要なリスク管理と位置づけ、積極的なリスクコミュニケーションを行っています。国内4ヶ所の工場では、年1-2回、住民の代表10-20名を招いて、浄化設備や廃棄物処理などの現場を見学してもらい、安全への配慮を実感してもらう機会を設けています。住民からの心配は、災害や不慮の事故など緊急時にどうなるのかということが多いのですが、疑問や不安を残さないよう情報をオープンにして説明し、納得していただくことを大事にしています。

2003年の秋には、主力工場である足柄工場において、神奈川県や南足柄市との共催で、100名余りを集めて環境対話集会を開催しました。化学物質について多くの地域住民に関心をもってもらい、環境と化学物質について共に考えることをテーマとしました。参加者からは、もっと開催して欲しいという要望を得て、今後も各地域で実施する計画です。

最後に、2004年4月に始められた新たな社会貢献の取り組み「Forests Forever」をご紹介しましょう。これは、写真文化の発展に努めてきた富士フイルムが得意とする技術を生かして、自然の豊かさ、森の美しさを表現し、多くの人たちに環境への関心を持ってもらうことを意図したウェブサイトです。
http://www.forests-forever.com

地球の象徴として「森」をテーマとし、写真の力を最大限に引き出して、その神秘性や生命力をいかに表現するかに知恵を絞りました。少ない時でも月に20万ページビュー、多い時には月に50万ページビューものアクセスがあり、閲覧者からは、「森の大切さ、奥深さ、やさしさに触れた気がした。」「見ているだけで、何か深いものを感じさせられた。」などの声が寄せられています。サイトには、国内外の森のギャラリーや有識者からのメッセージを揃えたほか、地球環境の動きが見えるデータベースを整えようと、現在準備中です。

自社の環境負荷削減にとどまることなく、自らの技術が作り出す美しさを通じて、理屈ではなく感情に訴えかけることで、「かけがえのない美しい森を未来に残したい」という心を育み、世の中を持続可能な方向へ動かしていきたいという富士フイルムの思いが体現されているこのサイトにも注目!です。

参考サイト
日本レスポンシブル・ケア協議会
http://www.nikkakyo.org/organizations/jrcc/index.html
グリーン・サステイナブル ケミストリー ネットワーク
http://www.gscn.net/


(スタッフライター 西条江利子)

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