ニュースレター

2005年03月01日

 

小さな循環を支える地域通貨の広がり

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JFS ニュースレター No.30 (2005年2月号)

近年、日本の市民の間に「小さな循環」を求める思いや動きが活発化してきたように思います。たとえば、遠くから輸入した食糧ではなく、顔の見える関係で安心して食べられる地産地消を求め、提供しようという動き。木材自給率が20%を切っているなかで、地元の木で家を建てようと林業家、製材所、建築家などが消費者とスクラムを組む動き。日本全体としてはエネルギーの海外依存率が非常に高いのですが、地元にあるエネルギーを利用しようと、風力、太陽光などの市民発電所や、裏山の木をバイオマスとして活かす動きも出てきています。

小さな循環なら、しくみを維持するためのコストも少なく、輸送に必要なエネルギーや資源が少なくてすみ、生産者と消費者などの循環の主体者がお互いに顔の見える信頼に基づく関係を作りやすく、複雑性に起因する問題も起こりにくいでしょう。決して内向きというわけではありませんが、これまでひたすら世界ばかりみていた目を足元にやって、まず自分の立っているその場所から考えよう、バーチャルではない本当のつながりを作っていこう、という動きが、日本中に広がっているように思えます。

モノやサービスが提供されれば、だいたい反対方向にお金が動きます。「小さな循環のためのお金」として、「コミュニティ再生の手段」として、日本では近年、さまざまな地域通貨の試みが広がっています。

国家通貨ではない補完通貨は、1930年代には世界各地に存在していました。当時は大恐慌で超インフレーションとなり、多くの銀行や企業が倒産し、国家通貨が非常に希少になっていました。その結果、働きたくてもお金を稼げない失業者が増大し、稼げなければ使えない、という失業の連鎖が広がり、失業率は数十%にまで高まっていました。

国家通貨が足りていない状況のなか、「人々が生活する上で必要なだけの交換の媒介を確保し、お互いに仕事を与えあう」ために、補完通貨が作りだされたのでした。せっかく補完通貨を作っても、使われないことには効果を発揮しないので、手元に置いておくと価値が減っていくなどの「通貨を保持することを避けるための動機づけ」を組み込んだものもあります。

現在、世界各地では、およそ2,500-3,000 の地域で地域通貨の取り組みがあるといわれ、日本では1999年にNHK 衛星第一放送で放送された「エンデの遺言-根源からお金を問う」が取り組みの大きなきっかけとなり、各地に広がっています。

「地域通貨によるコミュニティの再生について調査研究報告書」(財団法人地域活性化センター編)および「地域通貨全リスト」サイトを運営されている徳留佳之さんの地域通貨国際会議での発表から、日本の地域通貨の現状を見てみましょう。
http://www.chiiki-dukuri-hyakka.or.jp/7_consult/kenkyu/docu/chiikitsuuka.pdf
http://www.cc-pr.net/list/

「地域通貨全リスト」掲載件数は、2004年12月10日現在508件あり、時間預託の「ふれあい切符」を採用している386団体を加えると、900件近い取り組みがあることがわかります。1996年以前には7件だったのが、2000年には61件、2001年145件、2002年267件、2003年357件、2004年424件と増えつづけています。

都道府県別には、北海道が43件でトップ、続いて兵庫42件、東京29件、長野28件、神奈川19件となっています。兵庫県が多いのは、阪神大震災以降のボランティアの活性化とも関係があると考えられ、兵庫、愛媛、静岡には地域通貨に対し補助金の出る制度があることもあって、他県に比べて件数が多くなっています。

地域通貨の参加者数については、「50人未満」と「50人-100人程度」で全体の6割を占めており、小規模な地域通貨が多いことがわかります。地域通貨の流通範囲をみると、「市町村内」がほぼ半分です。

地域通貨の発行団体は、任意団体やNPO法人が約70%、商工会が8%、自治体が6%のほか、商店街も5%あります。当初は、任意団体やNPO法人が主でしたが、しだいに多様化し、ここ数年は商工会や自治体の関与が増えてきました。

日本では各地で、大型ショッピングセンターができて、地元の商店街がさびれていくという問題を抱えています。地域経済の活性化や地元コミュニティの再生のきっかけや手段として、地域通貨に熱い注目が集まっているのです。少し例をご紹介しましょう。
 
新潟県三条市では、市が地域通貨「らて」を発行しています。市のHPによるとその目的は:
1)ボランティア活動や市民活動を活発にし、人と人との交流をさかんにします
2)地域の経済活動を促進し、地域外へお金が流れることを防ぎ、地域経済の自立を図ります
3)地域資源(人、モノ、サービス)の循環によって、地域の活力が生み出されます

紙幣タイプの「らて」は、ボランティアをお願いしたときのお礼や、地域の商店で買物などをした際に支払い代金の一部として利用できます。「お金のようなしくみで循環するまちづくりの道具」と市では考えています。発行は、三条市がおこない、通貨の印刷、発行、地域通貨の啓発やPR活動などを担当。ボランティアサービスの登録事務やマッチング、「らて」流通イベントの実施をNPO法人地域たすけあいネットワークに委託しています。
http://www.city.sanjo.niigata.jp/chiikikeiei/page00020.html

また、やはり地域通貨を熱心に推進している愛媛県では、地域通貨実践マニュアルを作成・公開しています。同県では1994年にスタートして以来、現在では県下に10以上のさまざまな地域通貨のグルーブがあるそうです。
http://nv.pref.ehime.jp/servlet/Kokai

そのほかにも、太陽光発電を使って地元で作ったエネルギーを担保にした市民による地域通貨や、地域通貨を活用する場として、マーケットを設け、地元の農産物や加工品をはじめ、住民が提供するサービス等も含めた「もの」を地元で消費しようというものなど、各地でそれぞれの地域の特徴やニーズにあわせ、知恵を絞った取り組みが展開されています。

高度経済成長からバブル期を経て、日本の経済は長い不況の時期にあります。しかし、その表面下では、これまで経済発展だ、GDPだ、成長だと必死になってきた市民が各地で、「ちょっと待てよ、GDPは増えたけど、本当に幸せになったのだろうか? 本当に必要なのは何なのだろう?」と問い直しをはじめているように思います。

それが「取り戻す時代」の底流を形作っているように思うのです。夏至の夜2時間電気を消してロウソクをともしてスローな時間を楽しみましょう、「火」を取り戻そう、と呼びかける「100万人のキャンドルナイト」には640万人が参加しました。「一家に一台とあおられてきたけど、本当に必要なときだけ使えればいい」という、「暮らしやすいしくみ」を取り戻そうというカーシェアリングの取り組みも全国に広がっています。それから、家族や地域や地球とのつながりを取り戻そう、自分の心を取り戻そう、というさまざまな活動......。

そして、それらの活動を支え、またその象徴ともなっている「お金を取り戻そう」「お金に使われるのではなく、自分たちの幸せのためにお金を使うしくみにしよう」という地域通貨の動き、これからも注目していきます。 


(枝廣淳子)

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