ニュースレター

2005年02月01日

 

人間と地域と地球のつながり再確認 - 地域循環ネットワーク

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JFS ニュースレター No.29 (2005年1月号)
シリーズ:ユニークな日本のNGO 第8回

今回で14回目を迎えた「ウェステック2004」(2004年11月末開催)は、廃棄物処理と再資源化に関する総合コンベンション。より良い環境を創出するため、廃棄物処理・再資源化の技術・関連機器・システムの開発・生産・供給を行っている企業・団体と、それらを利用する企業・団体に呼びかけ、その成果と今後の方向を総合的に展示しています。そこで併催される「ウェステック大賞2004」において、見事環境大臣賞を射止めたのは、大企業の最新技術でも、最新設備の工場でもなく、地域の循環型社会に大いに貢献しているNPOの活動でした。今回はこのNPO法人地域循環ネットワークの取り組みをご紹介しましょう。

NPO法人地域循環ネットワーク(以下、循環ネット)の活動の舞台は、新潟県長岡市です。上越新幹線で東京から北へ約80分の距離にある長岡市は、人口19万人。新潟平野の南端に位置し、中央を南北に流れる信濃川を中心として形づくられている都市で、気候は、夏は高温多湿、冬は強い季節風に降雪という典型的な日本海側の気候です。

産業の中心は、機械や電気、精密関連の製造業です。明治中期から盛んになり、現在も市内の事業所で働く人たちの約23%がものづくりに携わっています。また、コシヒカリに代表される県内有数の米の産地でもあり、約12,800人の農業従事者がいます。

四季の移り変わりも大変美しい長岡市ですが、昨年10月に襲った新潟県中越地震の影響は大きく、全壊・半壊・一部損壊を合わせて約5万戸が被害に合いました。このような災害が起きた後だっただけに、循環ネットのウェステック大賞受賞は市民にとっても大きな励みとなりました。


循環ネット設立の経緯

今回の大賞は、「学校給食調理くず・残さの全市全校再生利用活動」に対して授与されました。この活動は、循環ネットが立ち上がるきっかけとなった活動であり、現在循環ネットが取り組む数々の活動の根幹でもあります。

循環ネットの前身は、「サークルみずばしょう」という、1994年に発足した家庭生ごみリサイクルを行う組織でした。家庭からでる生ごみを対象に活動しているうちに、「学校からでる給食の調理残さからもたくさんの生ごみが出るらしい」という話が出てきて、給食調理残さの回収が始まりました。これを機に、1997年9月「地域循環ネットワーク」が設立されたのです。当初9校からの回収でスタートを切りましたが、2004年4月には80の施設にまで増え、その後も数が増えています(2005年1月現在88校)。焼却・埋立て処分となる、「ごみ」を資源化し、その活動を通して循環型社会の形成を、特に市民の立場から進めていることが特徴です。

給食残さ再生利用の仕組み

具体的には、循環ネットが長岡市内の保育園、小・中学校などの給食調理残さを回収し、市内にある3つの畜産業者に運び込みます。そこで、やはり市内から回収されるおから、せんべいくず、味噌や醤油の絞りかす、米ぬかなどとともに醗酵させ飼料にします。その飼料を食べて育った家畜の肉の一部は給食の食材として使用されます。この活動によって、年間約290トンの給食残さを含む約1,000トンの食品ゴミを、焼却処理せずに資源として活用しています。

事業の主役は長岡市民ひとりひとり

この「給食残さの再生利用」は、現在は循環ネットが長岡市からの委託事業として実施していますが、スタッフ9名の循環ネットだけでは到底行えるものではなく、円滑に進んでいるのは、数多くの人々の協力があるためです。

学校給食の調理員さんや生徒の皆さんは、残さを草食の牛用と雑食の豚・ミンク用に分別し、水きりをします。残さの80%は水分なので、飼料として利用するために水分量を減らすことが重要なのです。各学校や保育園を回って残さを回収し、畜産業者に運搬する係には、多くの市民ボランティアが参加しています。約30名の市民が、現在循環ネットのボランティアとして定期的に活動し、平日は毎日という人から自分の空いた時間を有効活用されている人まで、それぞれの形で循環ネットの事業を支えています。

残さが運び込まれると、畜産業者の方々の出番です。「EMぼかし」と呼ばれる醗酵の種を残さに加え、醗酵させ、おからやせんべいくずなどを混ぜて、乾燥させます。給食の残りだけでは栄養的に偏りがでるので、バランスを見ながら米ぬかなどを混ぜます。乾燥すると、飼料の原料は約5分の1の重さになります。さらに4日-1週間醗酵させると飼料のできあがり。その飼料を与えて家畜を育てた後、精肉や加工品、あるいはその材料として出荷します。

業務を委託する行政に応えるNPO、対象校や調理員さんはもとより、ボランティアをはじめとする多くの人々の手によって成立している事業なのです。

給食残さ再生利用がもたらす効果

この事業が果たす役割は、年間約290トンのごみを資源として活用するだけではありません。この取り組みのおかげで、食物が生まれる現場と食卓とのつながりが、生徒や一般市民にもわかりやすく目に見えます。そのような食育や環境学習面での効果のほか、地産地消の推進、焼却処分が減る分、二酸化炭素排出量が抑制できること、市民活動の活性化など、さまざまな効果を生み出しています。

循環ネットはウェステック大賞で「『循環型社会のしくみづくり』というと難しく聞こえるけれど、『自分たちの食べ残しが家畜のえさになり、それがまた食物として自分たちに戻ってくる』という誰にとっても身近なことで循環型のしくみを作っている。今後もこの行政・NPO・事業者による協働の取り組みを進めながら、循環のしくみの理解を広めていきたい」と話しています。

広がる循環ネットの活動

循環ネットは、ほかにも数々の取り組みを進めています。長岡市内で回収に協力する飲食店(わりばしメイト・2004年6月現在で221店舗)から使用済みのわりばしを回収し、製紙原料や炭焼きの原料として利用する「わりばしリサイクル」の活動のほか、家庭生ごみと食肉を交換するしくみ「エコグリーンクラブ事業」も行っています。これは家庭の生ゴミを各家庭が電気乾燥式生ゴミ処理機にて乾燥し、循環ネットが回収し、牛や豚・鶏の飼料として利用、参加者に食肉・卵として還元するものです。

給食残さ再生利用の乾燥工程で燃料として使われているのも、廃食用油から作る改質灯油です。長岡市内の飲食店から回収した廃食油をプラントに持ち込み、再生燃料を生産しています。このように、それぞれの活動が密接に絡み合っているのです。私たちの生活を振り返っても、いろいろなものがつながりあっていることを改めて認識させてくれます。

長岡市は、小泉首相が所信表明演説で引用したことからも有名になった「米百俵」の逸話でもよく知られています。明治のはじめ、戊辰戦争で焼け野原となった長岡城下に、支藩の三根山藩(現在の新潟県西蒲原郡巻町)から見舞いとして贈られてきた百俵の米を、当時の長岡藩の大参事・小林虎三郎が、「国がおこるのもまちが栄えるのも、ことごとく人にある。食えないからこそ学校を建て、人物を養成するのだ」と、藩士に配分せず売却し、その代金を国漢学校の資金に注ぎ込んだというものです。

この「目先のことばかりにとらわれず、明日をよくしよう。」という思想を、長岡市民はずっと受け継いできたと言われます。循環ネットのひとつひとつの取り組みも、それが着実に市民に受け入れられてきたことも、こうした未来を思う思想がしっかりと根づいているからかもしれません。

※せっかくの取り組みも震災による影響で、中止せざるを得なくなっている事業 所等があるそうです。世界の読者の皆さん、新潟県の皆さんにエールを送って いただけたらうれしいです。

参考:地域循環ネット http://park16.wakwak.com/~jnet/
   長岡市ホームページ http://www.city.nagaoka.niigata.jp/


(スタッフライター 長谷川浩代)

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