ニュースレター

2004年12月01日

 

「美しい生活環境を創造する」 - 東急電鉄

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JFS ニュースレター No.27 (2004年11月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第20回
 http://www.tokyu.co.jp/

日本の首都圏における生活を支える川の一つに、多摩川があります。山梨・東京・神奈川の30の市町村(合計人口425万人)を経て東京湾に注ぐ一級河川です。その多摩川周辺にまだ下水道が整っていなかった30年前のことです。流域の宅地化が急速に進むなかで、そこで暮らす人々の大量の生活排水が多摩川流域に流れ込みました。結果、場所によっては川面が泡で真っ白に覆われ、風の強い日には中空に舞い上がったその泡が住宅に降ってきたといいます。多摩川のシンボル的存在だったアユの姿も消えてしまいました。

しかし、30年後の今、アユは多摩川に戻ってきています。下水道の整備に加え、様々な団体やグループの活動により、水質が徐々に改善されたからです。2002年には100万尾を超えるアユの遡上が確認されました。昔のように家族連れで水遊びをする姿も見られるようになっています。

この水質改善活動を支えた会社の一つに、東急電鉄があります。多摩川の流域を事業基盤とする同社は、流域の環境改善を図る目的で、1974年に「とうきゅう環境浄化財団」を設立。現在まで約30年にわたり、多摩川の浄化に関わる多様な研究を、11億4000万円に上る助成金を通して支援しています。

1922年に設立された東急電鉄は、首都圏南西部で鉄軌道8路線(約100km)を営業し、現在1日あたり約270万人が利用しています。沿線地域の不動産や流通事業も手がけ、日本経済の成長とともに、建設、ホテル・リゾート、カルチャー事業を展開し、現在は、「美しい生活環境の創造」を理念に掲げ、総従業員数約5万人、総売上高2兆5000億円、株式公開企業13社を含む324社9法人からなる東急グループを形成しています(2004年3月末時点)。

グループの中核である東急電鉄は、公共性の高い鉄軌道事業と、地域住民との協力関係が欠かせない都市生活事業に携わる経営背景から、社会からの信頼を得、社会と共に発展していくことを重要な経営課題としています。

実際、鉄道は、燃料使用量やそれにともなうCO2排出量が自動車やバスと比べ圧倒的に少ない交通機関です。単位当たりで見ると、1人を1km運ぶのに発生するCO2は自動車の約1/10、バスの1/5となります。しかし、1955年には交通手段(人km)の約8割を占めていた鉄道も車の利用割合が増加するなかで年々利用割合が下がり、今は約3割弱になっています。日本の運輸部門から排出されるCO2が1990年から20%以上増加したことをみても、鉄道利用の促進は温暖化対策にとってもきわめて重要です。(参照 国土交通省「陸運統計要覧年報 2002年」)

社会全体の環境負荷の低減には、他の交通手段から鉄道への利用の転換を進めること、そのためには、鉄道利用の魅力を高めることが必要です。たとえば、駅を誰にとっても使いやすくすること。東急では、駅のエレベータやトイレのバリアフリー化を進め、また駅員のサービス介助士の資格取得に力を入れています。

他社線との乗り入れ(相互直通運転)を増やしていくことも、乗換えの必要をなくすという意味で魅力向上につながります。東急では、渋谷と横浜を結ぶ東急東横線と、横浜市や神奈川県の出資によって設立されたみなとみらい線の「相互直通運転」を2004年2月に実現しました。日々約100万人が利用する東横線の営業を止めずに、東白楽駅から横浜駅間の約2kmを地下化し、横浜駅でみなとみらい線に乗り入れる工事については大きな課題がありました。営業中の既存線直下における地下化工事は世界でも類例がなく、安全の観点から、線路10mあたりで7mm以上のたわみも許されません。同社は、これまでとまったく違う方法--通常は山岳トンネル工事に用いる工法(NATM工法)の採用--でこの課題に取組みました。この工法では地中部分だけを削るので、地上部から開削するより周辺環境への影響を抑えることができます。また、掘り進めたトンネル背面に防水シートを貼ることで、漏水を防止し、トンネルの長寿命化に努めました。

新設する地下5階からなる横浜駅も、省エネルギー化を徹底しています。面積が広いため、冷房範囲をホーム階とコンコース階の主要部分に限定し、乗客が移動する連絡通路の階は換気を活用。また、冷暖房熱源の時間帯ごとの使い分けや、一定時間使用されないエスカレータの運転速度切り替えによって、お客様の利便性を損なうことなく節電しています。

新しい広告看板技術の導入も、更なる節電効果をもたらしています。通常、電気で照らす広告看板には蛍光灯が使用されますが、同社は、消費電力やCO2排出量が少なく、長寿命により、廃棄物処理の面でも負荷の少ない白色LEDを使用した電飾看板の開発をメーカーと共同で進めました。多彩な情報を鮮やかに伝達することが可能となり、コスト面でも目処がついたため、横浜駅より白色LEDを使用した電飾看板の設置を開始しました。今後は他の駅でも導入を進める予定です。

東急電鉄の目指す「美しい生活環境の創造」は、沿線の都市開発事業にも反映されています。例えば同社の主要路線の一つである田園都市線には、踏切道が一つもありません。路線が密集市街地の中にあることから、車の渋滞やそれに伴う排気ガス、場合によっては危険にもつながる踏切の解消に、先見的に取組んできた結果です。今後は他の路線においても立体交差化工事や複々線化工事の際に踏切道撤去を進めていく予定です。

都市開発では、1950年代から進めてきた東急多摩田園都市の開発面積が3,500ha、人口が56万人に及んでいます。全国の住みたい街の人気ランキングにも常に上位にランキングされる同地区の開発は、地元の皆様のご意見を伺いながら進めてきました。

「街をつくり、暮らしを支え、地域の個性を演出する。持続可能な社会をめざし、事業を通じて多彩な働きかけを展開する」----東急電鉄の、持続可能性に対するビジョンです。実際、同社ほど多様な業種に展開しているグループは、社会に対して多彩な働きかけができるでしょう。例えば不動産事業では、開発者として、建設した住宅が将来にわたって消費するエネルギーや排出するゴミの問題に積極的に関わる、またビル賃貸業では、これまでテナントの自主的な対応に任されてきた省エネルギーや資源リサイクルにも積極的な働きかけを行っていく、などです。

環境担当の藤平裕子さんは言います。「"お客様の役に立つために会社がある"という考え方は、スタッフ一人ひとりに沁みこんでいます。都市開発においても、"お客さまのためにこれをやるべきだ"という意見があれば、費用や手間が多少かかってもやりましょう、という風土があります。また、地域と切り離せない事業を運営していくなかで、例えば曽祖父の代から東急を使い、支えてくださっているというお客様や株主様がたくさんいらっしゃることも、私たちが中長期的な視点で事業に取組むことを可能にしているのかもしれません。」

地域に対する長期的な眼差しをもち、多様な事業に携わる東急グループがもつ持続可能性への影響力は、鉄道利用の魅力向上に留まらず、大きく広がっているのです。


(スタッフライター 小林一紀)

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