ニュースレター

2004年12月01日

 

情報の公開と共有化で住民主体のまちへ - 北海道ニセコ町

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JFS ニュースレター No.27 (2004年11月号)
シリーズ:地方自治体の取り組み 第8回

日本では2000年4月の地方分権一括法の施行以降、自治基本条例を制定する自治体が増えています。自治基本条例とは、安定した行政への市民参加システムを保障するために、主権が市民にあることや、行政への具体的な参加のしくみなどを、地域固有の事情や政策課題に即して定めるものです。どんな条例よりも上位に位置するものであることから、「自治体の憲法」といわれています。

この条例を日本で最初に制定したのは北海道ニセコ町です。「住むことが誇りに思えるまち」をめざすニセコ町の自治基本条例は、「情報共有」と「住民参加」を基本原則に、「まちづくり基本条例」という名称で2000年12月に制定されました。

情報共有のルールづくり

北海道ニセコ町は、札幌市の南西に位置し、蝦夷富士と呼ばれる羊蹄山やニセコアンヌプリなどの連峰に囲まれた美しい景観の町です。人口約4,500人、主要産業が農業と観光の町は、古くから国内有数のスキー場として人気を集め、国立公園や国定公園に指定されている一帯の豊かな自然環境を求めて、年間約140万人の観光客が訪れます。町の名前である「ニセコ」とは「深山にあって川岸にかぶさるように出ている崖」という意味のアイヌ語です。

1994年にニセコ町の職員から町長に立候補した逢坂誠二氏は、町長就任以来一貫して住民が主体となるまちづくりを進めてきました。必要なことは「町民と行政の情報共有」と「行政の透明性の確保」であると、まず住民とのコミュニケーションのチャンネルを増やすことに取り組みました。

同町では、町政の情報を住民にわかりやすく伝えたいと、広報誌だけでなく、「もっと知りたい今年の仕事」という町の年間予算を説明した冊子を全戸に配布します。「基金」、「起債」などのわかりにくい行政用語は、「貯金」、「借金」などに翻訳され、町の状況はグラフや表を利用して他の自治体との比較ができるように工夫されています。

住民は5人ほどが集まって町長や町の職員に話を聞きたいと要請すれば、時間の空いている限り昼夜を問わずに希望の場所で気軽に懇談をすることができます。また、町の予算づくりに活かすために町民が地域課題を語り合う場や、町に対して手紙、FAX、E-メールを利用すれば必ず回答が得られる「まちづくり広聴箱」の設置など、さまざまな方法で町の情報を得ることができるしくみが整えられています。

1995年11月からは「事業別住民検討会議」という、町の事業に住民の声を活かす住民参加の試みも始まりました。これは、行政主導で事業計画をつくるのではなく、計画が白紙の状態から町民が誰でも自由に参画し、議論を重ねて納得のいく計画を練り上げていくものです。

この試みから、「ニセコビュープラザ」という観光インフォメーション施設の建設や、町を流れる尻別川流域の将来構想の策定などに、住民が積極的に参加し、建設的な提案をもとに現実的な意思決定がなされるようになりました。

これら一連の取り組みをもとに、首長の交代や行政職員の裁量で情報提供が左右されることのないように、情報共有や意思決定のしくみをルール化しようと、1996年に行政手続条例、1997年には情報公開条例と個人情報保護条例が制定され、さらに2000年のまちづくり基本条例の制定へとつながったのです。

情報共有が生み出すさまざまな住民参加

2002年に策定されたニセコ町の環境基本計画は、主に公募で集まった町民の手で進められました。約2年間、最低でも月に1度、多いときには週2度ほどの会合が持たれました。地域の産業や生活が河川や地下水などの水循環に支えられてきたことから、「水環境のまち」がテーマとなりました。

素案を作ったのは「ニセコの環境を考える会」というNGOです。町に生息する動植物の調査・分析をすすめる一方で、全国的な広がりをみせている「地元学」の手法を用いてワークショップを行い、自分たちの町にあるものを探して地図を作成しました。

出来上がった素案は町民全体の意見交換を行う場で検討されるとともに、インターネットを通じて広く共有され、公募町民で構成された「環境審議会」による審議後、環境基本計画として策定されたのです。

2003年12月には環境基本条例が制定され、環境基本計画の実施状況をとりまとめたものは「環境白書」として年1回町民に公表することが定められました。

2000年からニセコ町役場内には、文書管理システム(ファイリングシステム)が導入され、職員の誰もが公文書を即時検索、即時閲覧ができるようになりました。共有キャビネットに保管されている書類は、町民が直接検索でき、またインターネットを通じて誰でもアクセスできます。

2002年には「あそぶっく」という愛称の学習交流センターが誕生しました。町が取得した旧郵便局舎の活用を、公募で集まった検討委員会と協議を重ねた結果、建物は改装されて図書館機能をもつ、町の情報公開に対応した公文書の保管・開示場所となったのです。

ブックで遊ぶという意味の建物の運営は、町から委託された「あそぶっくの会」という63名のボランティアグループが当たっています。町内のお母さんたちが中心の会は、選書や本の貸出しからさまざまなイベントの開催など、親しみやすい住民交流の場をつくっています。

同町では、一般廃棄物最終処分場をめぐる建設予定地区の住民との緊張関係が生じた際にも、その情報共有と情報公開の姿勢が解決をもたらしました。2002年に完成した一般廃棄物最終処分場は、原案の段階から情報公開され、説明会の開催、住民が自由に参加できる検討委員会での議論を経て予定地の決定がなされたのですが、決定後に建設予定地区の住民がかなり激しい反対運動を展開したのです。

「議論の経過が不透明」、「書類を改ざんしている」などの指摘に対して、すべての情報を公開し、対話を継続しました。最終的には、よりよい最終処分場をいかに建設するか、ゴミの減量化やリサイクル率の向上にどう取り組むか、共に知恵を出し合うという合意に達することができました。

ニセコ町総務課参事の片山健也氏は、「知恵は住民の中にある。徹底した情報公開と情報共有を進めることで、行政は都合のわるいことを隠すものだという先入観を排し、信頼関係が生まれる。そして住民自らが活発に動き出すようになる」といいます。

世界的に、環境に関する情報・司法へのアクセス権、意思決定への市民参画が求められています。欧州諸国では、これらの権利について国際的な最低基準を定めた条約(オーフス条約)が採択され、条約の要請に沿った国内法制度が整えられつつあります。

住民の生活は、まちの姿を写す鏡です。いつ、どのような人が首長となっても安心して住み続けるために、ニセコ町のような徹底した情報共有と住民参加のしくみが、日本全体に広がることを期待しています。


(スタッフライター 八木和美)

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