ニュースレター

2004年10月01日

 

「生物に学ぶ技術」を掘り起こす

Keywords:  ニュースレター 

 

JFS ニュースレター No.25 (2004年9月号)

- JFSバイオミミクリ・プロジェクトのお知らせ

「鳥のように空をとべたらどんなにすばらしいだろう?」そう考えたライト兄弟は、人類で初めて飛行機を作りました。二人は鳥の飛び方を研究し、「鳥の翼の断面は、上面と下面とでカーブの仕方が違う」という発見を飛行機の翼の設計に取り入れました。また、かのレオナルド・ダ・ビンチも、「ハチはどうやって空中停止をしているのだろう?」という問いを心に抱いて、ハチの羽の使い方を観察してヘリコプターのスケッチを描いたそうです。

過酷な環境で生き延びるために生命は、その誕生から38億年かけて「技術」を進化させてきました。人間も、特に産業革命以降、様々な技術を「生み出して」きましたが、38億年の生命の知恵は想像を絶するものです。例えば、ハチドリは自らの力でメキシコ湾をわたることができます。また、アワビは、合成接着剤を使わずに自由自在に壁に自らを吸着・剥離させることができるし、カタツムリは、洗剤を使わずに自らの殻の汚れを落とすことができます。セコイアに至っては、数百ある根っこから、滑車やレバーや機械を使うことなく、太陽光のみで数トンの水を汲みあげることができるのです。これら全て、化石燃料を一滴も使うことなく。いったい、生命はどうやってそれを可能にしているのでしょうか?

こうした問いかけは、私たちの科学への探究心を揺り起こすだけでなく、研究者や企業にとって魅力的なテーマとして現実の研究にうつされています。例えば、「クモのように繊維をつくるには?」。クモの糸は、実は同じ重さの鉄鋼より10倍強いことが最近の研究で明らかになっています。大量のエネルギーを消費せず、常温常圧下でいかにここまで強い繊維を作り出すことができるのか。こうした問いかけに応じて、クモの体内の微細構造やナノレベルのメカニズムの研究が今始まっています。

または、「シロアリ塚のように空調するには?」。シロアリ塚は、エアコンを使わなくても、内部の温度や湿度はほぼ一定に保たれています。ここから通気性、湿度コントロールのヒントを得て、空調にほとんどエネルギーをかける必要がない建物や住宅が実際に作られ始めています。こうした生物から学ぶ研究は今、工学や化学だけでなく、ロボティクスや医療、エネルギーといった分野でも行われています。

こうした技術はどれも、環境負荷を劇的に下げつつ人間社会の問題を解決していくものです。これらは「生物に学ぶ技術」のあり方として、『Biomimicry:Innovation Inspired by Nature (バイオミミクリ:自然に啓発された革新)』(Perennial社、ジャニン・ベニュス著、英語版のみ)や『カタツムリが、おしえてくれる!自然のすごさに学ぶ、究極のモノづくり』(ダイヤモンド社、赤池学著・金谷年展著)に、多くの事例が紹介されています。


JFSバイオミミクリ・プロジェクト

持続可能な社会への貢献をミッションとするJFSでは、持続可能な社会における技術のあり方を研究・発信すべく、「バイオミミクリ・プロジェクト」を開始しました。このプロジェクトは、上記に紹介したような「生物に学ぶ技術」がより社会に広がっていくように、多くの事例を国内外で掘り起こし、整理・分類して、研究者や子供たちにわかりやすくお伝えしていこう!というものです。その過程で、技術のあり方について様々な気づきや人々のつながりを生み出していくことを目指します。本プロジェクトは、(財)日立環境財団(平成16年度環境NPO助成)の支援によって実現しました。

具体邸には、次のことを進めていきます。

1.事例を調査し、整理・分類してウェブ上で公開します。(2005年春-)
興味深い研究事例は国内外に数々ありますが、情報をまとめてみることができる場所がないのが現状です。そこで、JFSのウェブサイト上に事例を整理して掲載し、研究者や子供たちがいつでもアクセスし、インスピレーションを得ることができるようにします。

2.第一人者のインタビューをウェブ上で連載します。(2004年秋-)
この分野の情報発信を積極的に行っているジャーナリストや研究者にインタビューを行い、記事にまとめて連載します。「どういうきっかけや興味からこの分野に着目したか」「なぜ、どういった研究事例に特に注目するか」「今後この分野が広がっていくために何が必要か」など、単に事例紹介に留まらず、活躍する人々の人間像や世界観をお伝えします。

広く情報を集めていますので、皆様からも、「これは生物に学ぶ技術の事例ではないか」というものがあれば情報をお寄せいただければ、報告書等で紹介させていただきたいと思います。

(情報を頂く場合には、以下の項目をお知らせ下さい)
1.模倣する生物(例、クモのように)
2.何をするか(例、繊維をつくる)
3.成果物・商品
4.原理となる自然のプロセス
5.解決できる人間社会の問題(例、大量にエネルギーを使わずに生分解性の  強力な繊維をつくる)
6.情報源、研究者(例、ABC大学○○教授)
7.あなたのお名前・メール

それでは、この秋から始まるインタビュー連載と来年からの事例公開をお楽しみに!


(スタッフライター 小林一紀)

English  

 


 

このページの先頭へ