ニュースレター

2004年10月01日

 

市民のための環境経営格付 - 環境経営学会

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JFS ニュースレター No.25 (2004年9月号)
シリーズ:ユニークな日本のNGO 第6回
 http://www.smf.gr.jp/

環境経営学会設立の背景

「地球温暖化がこのまま続けば、2065年に、気候変動による自然災害で破壊される財が、世界で生産される財を上回り、人類は破産する」。これは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)に参加した専門家から発せられた警告です。

「例えば、北大西洋のアイスランドとグリーンランドの間に、世界の海流を生み出すエンジンとなっている滝があります。海面から深海へと向かう滝の高さは、かつて3000メートルありましたが、グリーンランドの氷冠が解けて流れ込み、数百メートルにまで短縮されているといいます。エンジンが停止し、西ヨーロッパや、カナダ・アメリカの東岸を温めているメキシコ湾流が止まれば、世界は一気に深刻な穀物不足に陥ります」

「自然破壊は予想以上に進んでいます。今は持ちこたえていますが、危機は差迫っており、いったん破壊すれば元には戻りません。私たちは、遅くとも2030年までに具体的な方向性を示さなければ間に合いません」----特定非営利活動法人 環境経営学会 会長の三田和美氏は語ります。

同学会は、このような危機感をしっかりと認識し、「社会の持続可能な発展に向けて、具体的に、何を、いつ、どうすればよいのか、対応の戦略とプロセスを明らかにする」という目的で2000年10月に発足しました。

現在の構成メンバーは、個人会員300名、企業団体会員49団体です。事業者と市民が一致協力して環境保全につとめ、資源を効率的に使い、循環型社会を築いていくために、学界、シンクタンク、産業界、行政、市民、言論界の有識者が一堂に介して、実践での活用を念頭においた方法論や手法の体系的研究、調査、情報発信などを行っています。

三田氏は、「地球環境問題だけではなく、テロや地域紛争、アイデンティティ、経済、倫理においても世界は混乱している。荒れ果てた社会を信頼の持てる社会へ変えていきたい」と語ります。「社会を再構築する担い手は、力をもった市民と企業である。日本には未だ確固たる民主主義が育っておらず、NGOや地域レベルでの市民活動を盛り上げ、発言力を強化させていく必要がある。そのための理論的バックボーンを提供し、市民の知恵袋になりたい」という思いで学会を運営しています。


日本発、市民のための環境経営格付

4年間の活動のなかで、最も大きな成果を上げているのは、日本企業の「環境経営格付」です。格付は、企業行動を変革させるための有効な触媒であると考え、学会の発足当初から課題の一つに掲げていました。そして、2001年11月に、重点的に取り組むための組織「環境経営格付機構(以下、SMRI)」を設立しました。
http://www.smri.jp/framepage.htm

世界には多くの格付機関がありますが、ほとんどが投資家に情報提供するもので、環境や持続可能性と名がつく格付も例外ではありません。SMRIは、投資家向けの格付とは一線を隔し、あくまでも消費者・市民の立場に立った客観的かつ公益性のある格付を目指しています。格付評価を通して、組織や企業の経営において持続可能な取り組みを推進するとともに、多様なステークホルダーに共通の評価基準を提供することが狙いです。

第一の特徴は、個別企業の格付結果を一つの木「格付の木」で表す独自のモデル(MITA-MODEL)です。日本発のユニークな手法で国際的にも通用するものにしたい、との考えから、三田氏自らが開発しました。数表ではなく一つの木に描くことにより、誰にも結果が一目で分かり、時系列や他社との比較が容易になります。2001年に試行した約20社の格付結果を携えて欧米の格付機関と議論を交わした結果、たくさんの人の興味を惹きつけ、国際的にも評価が得られました。

2002年の秋から本格的な格付を行い、初年度は86社、03年度には75社を格付しました。現在04年度の格付作業が始まっています。対象企業の順位は公表せず、社名の公表に賛同した企業を"グリーントップランナー"として発表し、それぞれの格付の木をホームページで公開しています。
http://www.japanfs.org/db/642-j

2003年度の格付の木は、「経営」「環境」「社会」の評価分野を表す3本の大枝で構成されています。経営の枝には、「経営理念」「企業統治」などの評価項目を表す5本の小枝、環境の枝には、「資源循環・廃棄物」「エコデザイン」など9本の小枝、社会の枝には、「地域社会との調和」「消費者への配慮」など7本の小枝がついています。1本の小枝には3枚の葉がついており、それぞれが「戦略」「仕組」「成果」を表します。1枚の葉には、それぞれ3つの質問が用意されており、その回答結果によって、緑、黄、赤、無色(落ち葉)に色分けされます。

質問の一例を挙げると、「経営理念」の小枝の「戦略」の葉に用意されている3つの質問は、次のような内容です。
・環境経営に積極的に取り組むことを約束する、経営トップのコミットメント がある。
・法令等の遵守に真剣に取り組むことを約束する、経営トップのコミットメン トがある。
・企業倫理の確立に真剣に取り組むことを約束する、経営トップのコミットメ ントがある。

この論理的な木は、そのまま企業の環境経営の強み、弱みを表し、企業のマネジメントツールとしても、非常に有効なものになっています。3つの大枝と3枚の葉という基本の枠組みは維持しながら、格付のための評価項目(小枝)は、社会の要請に応じて、毎年改良が加えられます。


サスティナビリティ・ダイアログで企業を動かす

SMRIの格付の第二の特徴は、当初から貫いている3つの原則「1.市民のための格付」「2.サスティナビリティ・ダイアログ」「3.経営トップへのインタビュー」です。

SMRIの経費は、対象企業の負担とともに、環境省ならびに文部科学省の資金で賄われています。約90名の格付委員はすべてボランティアで、格付のプロセスとルールは完全にオープンにされています。使用条件に従えば、誰でも自由に活用することができるのです。

持続可能な社会の実現のためには、経営トップのリーダーシップが強く求められます。これが、「環境格付」ではなく「環境経営格付」としている理由です。評価項目を羅列しただけの格付が多いなか、SMRIは、格付委員が企業の担当者と、三田氏が経営トップと対話した上で、その取り組み姿勢が本物かどうかを評価します。この対話は、格付に生かされるだけでなく、企業行動を変革する上で、非常に大きな効果を持つことが分かってきました。

日本では、企業の社会的責任(CSR)を担当する部署を設ける企業が増えていますが、その使命は、リスクマネジメントとコンプライアンスであることが多いのも事実です。三田氏は、「CSRとは経営者の理念を問うものである。防衛姿勢では、リスクマネジメントもコンプライアンスも成立しない。社会とのオープンな関係を築き、透明性を保つことが最大のリスクマネジメントであり、コンプライアンスであることを、トップが理解しなければ、企業は変わらない」と言い、毎年100社近い企業のトップインタビューを精力的に続けています。

今後、SMRIでは、中小企業を対象とする環境経営格付、自治体を対象とする環境経営格付の手法開発に着手する予定です。そのプロセスをオープンにし、市民と企業を取り巻く社会全体にコミュニケーションの場と道具を提供していくことで、持続可能な社会へのいっそうの原動力になりたいと考えています。


(スタッフライター 西条江利子)

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