ニュースレター

2004年09月01日

 

  「こどもたちのこどもたちのこどもたち」のために - 山田養蜂場

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JFS ニュースレター No.24 (2004年8月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第18回
http://www.3838.com/index.html


岡山県の山あいにある鏡野町に、ミツバチから自然の素晴らしいしくみを学び、「自然の大切さをたくさんの人に伝え、美しい自然を守ること」を使命の一つに掲げているユニークな企業、山田養蜂場があります。

同社は1948年にミツバチの飼育を始め、1965年には独自の技術でローヤルゼリーの大量生産に成功。現在は、ローヤルゼリー、はちみつ、プロポリスおよびその加工品を、通信販売で消費者に届けています。2003年の売上高は239億円、従業員数は450人です。

同社は、お客様に自然の豊かさをお届けしたい、お客様一人ひとりの健康を守りたいという思いから、昔ながらの製法を守ってはちみつを作っています。日本では、加工業者が糖度のうすいはちみつを安く買い取ってきて、減圧した釜の中で濃縮した製品が多く流通しています。そのため、はちみつにとって最も大切な味・香り・風味が失われ、栄養素も壊されています。

同社では、巣箱の中でミツバチの力だけで時間をかけて濃縮された完熟のはちみつだけを使い、通常は結晶化を避けるために取り除かれる花粉も残して、自然の恵みそのままを製品にします。このような製法のはちみつは、今では非常に貴重なものになっています。

そもそも養蜂業は、豊かな自然の生態系を利用して営まれています。ミツバチが花から蜜を集め、花はミツバチによって受粉して実をつけ、実は小動物の命を育て、結果として植物の分布を広げます。養蜂家は、自然の邪魔をせず、自然の中で仕事を続けてきました。養蜂業は、自然環境が変わらなければ、何万年でも続けることができる持続可能な農業です。

ミツバチは豊かな自然環境がなければ生きていけません。日本ではこの数十年の間に広葉樹が切り倒され、成長の早い針葉樹に植え替えられてきました。針葉樹の森では、花は蜜を出さず、足元の植物も育たないために、ミツバチはその森に棲むことができません。大規模な農薬散布が行われれば、ミツバチは命をおとします。また、社会性昆虫とも言われるミツバチは一匹だけで生きていくことはできません。巣箱の中の社会の一員として働き、共に助け合う仲間がいればこそ生きていけるのです。

山田養蜂場は、お客様に製品を届けるだけではなく、ミツバチが教えてくれる「豊かな自然の大切さ」「自然と共存することの大切さ」「命のつながりの大切さ」を多くの人に訴え、次世代に伝えていくことも、養蜂業を営む企業としての使命であると考えています。

このように考えるようになったきっかけは、1995年の阪神淡路大震災でした。震災の復旧活動のために全国から多くのボランティアが駆けつけたことに、山田英生社長は心を動かされ、「企業も社会のために役立つことを何かしなければ」と考えるようになりました。そして、地域への支援を皮切りに、環境教育、海外支援など、次々に活動の幅を広げています。こうした活動は、一般に「企業の社会貢献」と表現されますが、同社は、社会貢献として位置づけるのではなく、本業の一つとして捉えている点で、注目に値します。
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その一つに、ミツバチを通じて子どもたちに自然の大切さを伝え、豊かな心を育む活動があります。「みつばち文庫」「ミツバチの童話と絵本のコンクール」「エコスクール」「みつばち教室」の4つの活動を、1999年から継続しています。

「みつばち文庫」は、同社が子どもたちに読んでもらいたい本を毎年10冊程度選び、全国の小学校に寄贈する活動です。「自然や環境について自ら考える力をつけることができる」、「全ての命は互いにつながりあって生きているということを理解できる」、「相手の立場で考え思いやりの心を育てることができる」「他の文化と自分たちの文化との共通点について学び、平和や幸福を求める心を育てることができる」を基準に本を選んでいます。

本の贈り先は、一般公募しています。「母校やお世話になった学校に本を贈りたい」と思った贈り主が応募し、同社が贈り主のメッセージを添えてその学校に届けます。本を贈られた学校はもちろん、「縁のある学校とつながりが持てる」と贈り主にも非常に喜ばれています。1999年以降、のべ5,495校、62,952冊を寄贈してきました。2004年も、枝廣淳子(JFS共同代表)著「いまの地球、ぼくらの未来 ずっと住みたい星だから」、D.B.ジョンソン原著「ヘンリーフィッチバーグへいく」など11冊のセットを全国の888小学校に贈る計画です。

「ミツバチの童話と絵本のコンクール」は、大人たちが子どもに伝えたい思いを物語にして託してもらおうと開催しています。2003年までに国内外からのべ20,295編ものミツバチやはちみつが登場する作品が届きました。毎年の優秀作品は、全てホームページ上で公開され、いくつかの作品は日本国内で出版されています。
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「エコスクール」は、子どもたちとその親を鏡野町にある同社の養蜂場に招き、ミツバチとふれあってもらう体験学習教室です。毎年300名前後が参加し、ミツバチの巣箱の観察や採蜜、蜜ロウを使ったロウソク作りなどを体験します。初めはこわごわ巣箱を覗いていた子どもたちが、ミツバチの暮らしや習性、ミツバチからの恵みなどいろいろな説明を聞くうちに、ミツバチを身近に感じ、目を輝かせるようになります。こうして子どもたちは自然環境やいのちのことなどを学んでいくのです。

また、「みつばち教室」として、同社の従業員が小学校に出向き、巣箱などを持ち込んで出張授業もおこなっています。

活動に取り組む同社の社員は、「どうすれば一人ひとりの参加者に感動してもらえるかを常に意識している」と言います。同社にとっては毎年継続している活動でも、参加者にとっては初めての経験です。この一生に一回の出会いとつながりを大切にしたいと思っているからです。

同社は、持続可能な社会を築いていくためには、人と自然とのつながり、人と人のつながり、世代と世代のつながりを大切にし、共感を広げていくことが重要だと考え、社会活動レポートの中で、次のように表現しています。

--「こどもたちの、こどもたちの、こどもたち」のために。この言葉は、山田養蜂場の社会活動の根っこにあるコンセプトです。ここでいう「こどもたち」とは、人間のこどもたちに限りません。この地球には、人間以外の弱い生き物や植物も存在し、その生き物たちが存在する地球そのものの未来に私たちの活動は直接関係しているのだとずっと心にしてきました。--「山田養蜂場の社会活動」より

社会活動を継続していく中で、活動に直接携わっていない社員や地域社会などを、いかに巻き込み、つながりを広げていくか、という課題も見えてきました。これまで社員が行っていた海外での植林ツアーに一般参加者を公募したり、地域の知恵を持った人たちに参加してもらう企画を計画するなど、知恵を絞っています。

美しい自然を守っていくことは一企業だけでできることではありません。山田養蜂場は、自らの活動をきっかけとして、その環がさらに広がることを願っています。

(スタッフライター 西条江利子)

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