ニュースレター

2004年08月01日

 

「2010年地球温暖化物質を絶対量で60%削減」 - セイコーエプソン

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JFS ニュースレター No.23 (2004年7月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第16回
http://www.epson.jp/

地方の工場から世界初のフロンレス宣言

セイコーエプソンは、1942年長野県諏訪市に時計工場として創業しました。同社は1964年東京オリンピックで公式採用されたプリンティングタイマーの開発を契機に事業領域を拡大し、世界初のミニプリンタ、世界初のクオーツ腕時計などを発売。現在では、プリンター、プロジェクターなどの情報関連機器、電子デバイス、精密機器を扱うグローバル企業です。グループ企業は国内外110社、従業員数は約85,000人(うち国内約22,000人)、2003年度売上高はグループ連結で1兆4132億円。海外の売上構成比率は6割以上を占めています。 同社の環境への取り組みは、1988年の「フロンレス宣言」から本格化しました。フロンを全廃するのは業界でも難しいと言われており、色々な意見もありました。しかし、当時の社長中村恒也氏の強いトップダウンにより、様々な解決策を見出した結果、わずか4年でフロン全廃を達成したのです。大野好弘氏(CSR・地球環境推進部部長)は、成功の一因として「本社のある諏訪市は東京から2時間の距離にあり、中央の色々な意見に左右されることなく課題に取り組めたことが幸いした」と言います。 フロンを全廃したことにより、環境負荷を低減したばかりではなく、1995年時点で80億円もの利益が生まれていることも分かりました。88年以降もフロンを使い続けた場合にかかると想定されるコストを積算した金額です。この取り組みの成功は、同社が環境活動を行っていく上で大きな意味を持つことになりました。困難と思われたフロン全廃をいち早く成し遂げたという環境活動への自信と、環境活動が利益につながるという確信を持ったのです。

以来、同社は独自の技術開発力を生かしたさまざまな環境活動を行ってきました。中でも地球温暖化防止活動は、他社に例を見ない意欲的な取り組みといえるでしょう。

地球温暖化防止ビジョンとCO2 排出量の削減

「2010年に地球温暖化物質を絶対量で1997年度比60%削減(世界連結)」--これが、セイコーエプソンの地球温暖化防止ビジョンです。生産量や売上高など単位量当たりのCO2排出量の削減目標を掲げる企業は多いのですが、同社は、絶対量で、しかも世界連結で、CO2を含む温暖化物質の総排出量を97年度の半分以下に削減しようというのです。これは売上高の伸びまで含めて考えると極めて高い目標です。

同社は、地球温暖化防止を、「省エネによるCO2 排出量の削減」と「CO2 以外の温暖化物質の排出削減」の2本柱で進めています。最初の「CO2の排出量削減」は、エネルギーの使用による排出が大きいため、省エネルギーが基本です。

目標達成のために何に着目すべきか、同社は徹底した現状分析から始めました。地域別のエネルギー使用量をみると、最も多く使っているのは日本国内の生産工場で、全体の約7割を占めていました。さらに国内の事業別のエネルギー使用割合は、半導体や液晶ディスプレイなどの電子デバイス(以下デバイス)の工場が67%を占めていました。

通常、デバイスの製造には、無塵に保つためのクリーンルームや洗浄のための純度の高い水、品質維持のための精密な温度、湿度、圧力の調整などが必要になります。調べてみると、デバイスの生産設備に必要な電力エネルギーは全体の1/3ほどで、むしろ、純水、圧縮空気、排水、排気などを供給する基礎設備に多量のエネルギーを使っていることが分かりました。

基礎設備が必要とする能力は、生産設備が必要とする能力と関係してきます。同社は基礎設備の使用エネルギーを削減するために、製造工程の工夫や、製造工程における純水や圧縮空気の少量化、設備の小型化など、88もの技術を積み重ねて2001年に建設した新工場のエネルギー効率は、旧工場の2倍に高まりました。

しかし、こうした努力もCO2排出量の増加を抑制するに留まり、削減までには及びませんでした。デバイスの生産を支える基礎設備の消費エネルギー削減のためには、生産プロセスそのものを根本から変革することが必須なのです。

省エネルギーのための生産技術の革新

現在同社は、生産プロセスのブレークスルーを果たすべく、挑戦を続けています。核となる技術は二つあります。その一つが「拡張型ミニマムFab」です。

従来のデバイス工場は、あらかじめ工場全体にクリーンルームなどの基礎設備が一括装備されるため、生産設備の稼働率が低くても、基礎設備はフル稼働しなくてはなりません。これはエネルギーの観点から大きな問題です。拡張型ミニマムFabは、クリーンルームを小型化・標準化し、最小限の生産設備を1ラインずつ設置していくもので、生産量に合致した小さなクリーンルームを低エネルギーで稼動させることができます。

もう一つが製造工程を大幅に革新する技術です。その一つに「インクジェット等を利用した液体成膜技術」があります。従来のデバイス製造は、洗浄→成膜→フォト→エッチング→剥離など多くの工程からなり、投入した材料の大半が洗い流されていました。ここにインクジェット技術を利用して必要な材料を必要な部分だけに塗付する方式を導入するのです。このような技術の組み合わせにより、デバイス製造工程を約300工程から約80工程にまで減らすことができ、エネルギーを84%削減できると考えています。そして、以上のすべての技術が実用化できれば、60%もの削減も射程距離に入ってきます。

このような難易度の高い技術開発への投資は短期的に見ればコストアップです。しかし、実現すれば、省エネやCO2削減だけでなく、生産効率の飛躍的な向上と低コスト生産が可能になり、競争力がアップにつながります。大野氏は、「10%20%の削減は、既存の省エネ技術を応用するだけになるので、かえってコストはアップすることが多い。50%の削減は、プロセスや装置を無くすという発想が生まれ、コストダウンになる」と説明し、「環境活動すれば、利益が生まれることを多くの企業に理解してほしい」と力説しています。

CO2 以外の温暖化物質の排出削減

地球温暖化物質として、京都議定書では、CO2のほか、N2O(一酸化二窒素)、CH4(メタン)、HFCs(ハイドロフルオロカーボン類)、PFCs(パーフルオロカーボン類)、SF6(六フッ化硫黄)の6種類のガスが対象になっています。

PFCなどの温暖化効果は非常に高く、例えばC2F6(PFCガスの一種)はCO2の9,200 倍、SF6 は23,900 倍にもなります。デバイス製造には、PFCガスやSF6を洗浄やエッチングガスとして使用することから、同社では、CO2 以外の温暖化物質の排出削減にも力を入れています。

具体策は、分解処理と使用量そのものを減らすことです。PFCガスは、従来計測が非常に困難でした。排出や削減の状況が分析できなれば、進捗を確認することができません。そこで同社は、独自の簡易計測方法「エプソンメソッド」を開発。計測が可能になったことで製造条件を最適化でき、2003年度は1997年度比で49.5%も削減を達成しました。エプソンメソッドは、PFCガス削減に取り組む企業の方々に利用していただけるよう、ホームページで解説書を公開しています。
http://global.epson.com/SR/environment/method.html (英語)

また、同社は、さらなる技術革新・改良のための情報や提案も求めています。
http://www.epson.jp/contact/

自然と友に信頼される企業であるために

セイコーエプソンの本社は、今も北アルプスを望む諏訪湖畔にあります。「絶対に諏訪湖を汚してはならない」「周りの人に迷惑をかけず、地域に受け入れられるよい会社であるように」という創業者の強い意志は、グローバル企業となった現在も受け継がれています。そして、世界各国で地域社会に密着した社会貢献活動が自発的に行われています。こうした自然を大切にする企業文化と、高い目標を掲げて独自性のある技術開発を成し遂げていくチャレンジスピリットが、同社の環境活動を推進する原動力となっているのです。

なお、同社のゼロエミッション活動については、2003年12月号日本独自のゼロエミッションの展開の中でご紹介しています。
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/027255.html

(スタッフライター 西条江利子)

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