ニュースレター

2004年08月01日

 

日本のガラスびんをめぐる状況

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JFS ニュースレター No.23 (2004年7月号)

私たちは毎日いろいろな飲み物を飲みます。私たちが飲むのは「中身」ですが、中身を入れ、輸送するために「容器」が必要になります。容器には、缶、びん、ペットボトル、紙パックなどがあります。

飲料容器はまた、「ワンウェイ容器」と「リターナブル容器」に分けることもできます。「ワンウェイ」とは「一方通行」で、使い切りですから、分別収集し、粉砕・溶解、原材料に戻すリサイクル処理を行います。リサイクルすれば、ゴミにはなりませんが、原料に戻すときに大量のエネルギーを使います。「リターナブル」とは、「リターン」(戻る)できること。洗って何度もそのままの容器として使えますから、「リユース」です。

数十年前までの日本では、容器の主流派はびんでした。日本のガラスびんは、行政や税金の力を借りずとも、業界できちんとリユースするしくみが整っています。たとえば、清酒の一升びんは、どのメーカーも共通のびんを使っています。どの銘柄のびんでも引き取って、洗浄し、自社のお酒を詰め、ラベルを貼って出荷します。

日本酒だけではなく、酢やみりん、醤油などの調味料も同じ一升びんを使っています。業界を超えたリユースのしくみができているのです。使用済みのびんを商品として回収・洗浄し、びんを使う酒類・飲料・調味料メーカーに納める「びん商」がいるおかげです。

また、ビールびんにも、業界が設定した保証金の制度があるため、99%が回収され、再使用されています。ちなみに、日本のビールびんは、大、中、小という大きさは3種類ですが、基本的には「キリン」と「キリン以外」の2種類のびんしかありません。この共通びんのしくみがあるからこそ、99%の回収・再使用が可能となっているのです。

このように、びんのまま無駄なく再使用するしくみは、「リサイクル」や「環境問題」という言葉がなかった時代から、日本人の暮らしの中では普通のことでした。

ところが、この数十年のあいだに、このリユースの優等生「びん」をめぐる状況が大きく変わってきました。缶、紙パック、そしてペットボトルの台頭です。たとえば、ビールの容器別シェアを見ると、1988年には70%近かったびんが減っていき、10年ほど前に増えてきた缶に逆転されました。今ではびんが20%ちょっとで、缶が60%以上。炭酸飲料にいたっては、89年には17%だったびんが、94年にはたったの4%です。

もうひとつは、同じびんでも、洗って何度も使えるリターナブルびんではなく、一回だけ使うワンウェイびんが増えてきたことです。1952年にはびんの70%がリターナブル、30%がワンウェイでしたが、72年の石油ショックのころに、この率が逆転しました。

清酒もかつては90%が一升びんでしたが、いまでは720mlや300mlが主流です。中小型のびんには規格がないので、各メーカーがそれぞれにびんを作っています。分別回収しても、粉砕してガラス原料に戻すしかないワンウェイびんなのです。

2000年の出荷量(容量ベース)を見ると、一升びんが37%、中型・小型のびんが18%。一升びん1本は、300mlびん6本に当たりますから、本数は中小びんのほうがずっと多いのです。そして、紙パックが38%と増えています。1980年代のピーク時には約15億本あった一升びんの使用量は、99年には4億7千万本に激減しました。

このびんをめぐる状況の変化の背景には、ライフスタイルの変化があります。たとえば、スーパーが増え、女性の社会進出とあいまって、「勤め帰りに買い物をする」スタイルが増えました。酒屋さんにお酒やビールを頼むと、配達帰りに空きびんを持って帰ってくれますが、スーパーにわざわざ空きびんを持っていくのは大変です。

勤め帰りの買い物が増えると、持ち運びのしやすい容器がラク、と一升びんに代わって1リットルの醤油ペットボトルが登場し、ビールも缶へと代わっていったのです。店も店頭でたくさん並べられるからと、缶や紙パックを好みます。

日本の一般家庭から出るゴミの60%は容器類といわれます。ゴミを減らすには、まずは容器のゴミを減らすべきなのですが、実際には、リターナブル容器からワンウェイ容器へと移行していったのです。

現在、ゴミの問題や温暖化等の問題もあって、ふたたびびんが注目されるようになってきました。「ワンウェイびんを有効にリサイクルしよう」と「リターナブルびんをもう一度促進しよう」という取り組みが広がっています。

回収されたワンウェイびんは、砕かれてカレットと呼ばれるガラスびんの原料になります。現在、ガラスびんの原料の約80%がカレットです。透明や茶色のびんはカレットになってふたたびびんになりますが、輸入ワインのびんなど、さまざまな色のびんは、色が変わってしまうのでびんにするのではなく、主にグラスウールやタイル・ブロック類などにリサイクルされています。

新しい試みとして、その他の色のカレットを90%以上使用した100%エコロジーボトルが登場しました。清酒やワイン、ウィスキーなどさまざまな商品に使われるようになりました。

リターナブルびんを促進する取り組みの一つとして、軽くてスリムになったビールびんが登場しています。びんの「重い」「輸送にエネルギーがかかる」という短所を小さくする試みです。また、アサヒビールは334ml入りのスタイニーびんを開発し、約90%を回収・再使用するなど、独自の取り組みもあります。

地域での動きも出てきています。たとえば、2002年7月に「新潟コンテナサービス」という組合が設立されました。新潟の15の蔵元が参加して、これまでワンウェイびんとして、カレット化してリサイクルされるだけだった720mlびんを統一し、回収してリユースしよう、と動き出しています。 
 
生活クラブ連合会では、1994年に「びん再使用ネットワーク」を設立し、びんの規格を統一した「Rマーク」びんのリユースを開始しました。びん再使用ネットワークが1994年から2000年までに回収したびん重量は、おおよそ1万8000トン。約8億円以上の税金(行政コスト)を節約し、多くの二酸化炭素排出を削減しています。

ビールを500ml飲むとき、缶ビールからリターナブルびんに代えると、一本で二酸化炭素を130g減らせるそうです。全国地球温暖化防止活動推進センターの試算によると「もし日本中の全飲料容器がリターナブルびんになったら、現状の容器からの二酸化炭素排出量を約57%削減、固形廃棄物は約125万トン削減。約1500億円(国民一人あたり年間約1230円)の行政のゴミ回収・処分費用を節約できる」そうです。

しかし、日本には国として「リターナブル容器を進めよう」という決意も、デポジットなどを定めた法律も残念ながら見られません。容器包装リサイクル法がありますが、この法律が実はリターナブルびんへの逆風となっています。

これまで捨てられていたペットボトルなどのワンウェイ容器を市町村の負担(つまり税金)でリサイクルするしくみを作ったために、市町村が負担しなくてもリユースが回っていたリターナブル容器が不利になってしまったのです。(ワンウェイ容器に税金から補助金を出しているのと同じことなので、相対的にリターナブルびんが高くなってしまったのです)

びん商は、19世紀に輸入洋酒や輸入ビールの空きびんを再利用して清酒を詰め始めて以来、日本のびんのリユースを支えてきました。しかし、この数十年リターナブルびんの利用が激減しているため、このままでは商売としての存続が難しいと聞きます。日本がこれまで築いてきた「税金を使わずに、びんを再使用するしくみ」が瓦解しないよう、行政も業界も企業も、そして消費者も、今こそ力をあわせて「持続可能な日本では、飲料容器はどうあるべきか?」と考える必要があります。


(枝廣淳子)

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