ニュースレター

2004年07月01日

 

「環境情報の社会的な価値向上を目指して」 - 中央青山PwCサステナビリティ研究所/中央青山サステナビリティ認証機構

Keywords:  ニュースレター 

 

JFS ニュースレター No.22 (2004年6月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第13回

環境報告書は、環境コミュニケーションの重要なツールであると認識されています。作成する企業の増加に伴って、1990年代の終わりから、環境報告書の信頼性確保に対するニーズが、企業の側からも利用するステークホルダーの側からも高まってきました。効果的なコミュニケーションは、「信頼できる情報」があってはじめて成立するからです。

環境報告書の信頼性確保のための手段の一つが、環境省ガイドラインのいう「第三者レビュー」です。これは、企業が自主的に第三者機関による評価や検証を受け、結果を環境報告書に掲載するもので、実施する企業が急増しています。環境省が2002年に行った調査では、環境報告書を作成している企業650社のうち、約2割が既に実施しており、約3割が今後の実施を検討していると答えました。

環境省ガイドラインは「第三者レビュー」には、二つのタイプがあるとしています。一つは、NGOや学識経験者などが環境報告書を読んだり環境活動の現場を訪問したりして、環境への取り組みに対する意見や評価を述べるもの。もう一つは、監査法人などが会計監査の手法に準じて、根拠資料の照合や担当者へのヒアリングなどを行い、数値や記載内容の正確性、基準への準拠性を保証するもので、第三者審査あるいは第三者検証と呼ばれています。

会計監査が法令で義務付けられている財務報告に対し、環境や持続可能性に関する情報を含む非財務情報の報告については、その信頼性を保証する社会的に認知された仕組みはまだありません。非財務情報の信頼性を高め、社会的な価値を向上させることによって、非財務情報の公開を新しい社会制度に発展させることを目指して活動してきた企業が、中央青山PwCサステナビリティ研究所(CSRI)です。

CSRIが、1999年中央青山監査法人の100%出資子会社として設立に至った背景には、「持続可能な社会に向かって監査法人の果たす使命は、財務情報と同等に、非財務情報に透明性と信頼性を確保し、情報公開の仕組みを構築することにある」という強い想いがありました。

非財務情報の公開を、社会的な制度に発展させていくことの意義は何でしょうか?同社は、非財務情報が、財務情報と同等の社会的な価値をもち、その情報公開が制度として社会に組み込まれれば、経済活動を、持続可能な方向に転換させる大きな力になると考えています。統一された基準に基づいて情報を公開するようになれば、企業間の比較が容易にできるようになり、環境活動を押し進めることができます。 社会における非財務情報の重要性と信頼性が向上すれば、企業とステークホルダーとのコミュニケーションが株主総会に匹敵する力を持ちうると考えています。

CSRIは、設立当時から、環境報告書の審査業務を主たる業務の一つとして行ってきましたが、2003年7月からは、審査業務の独立性をさらに明確にするために新会社である中央青山サステナビリティ認証機構(CASCert)を設立しました。2003年には17社の環境報告書について第三者審査を行っています。

CASCertの審査業務の特徴は、環境情報を審査する膨大な作業プロセスの中で気づいた、環境活動に対する評価や改善点を50-100ページのレポートにまとめて、企業にフィードバックしていることです。企業は受け取ったレポートをもとに、翌年に向かって自社の情報システムやマネジメントシステムのレベルアップを図ります。さらにこのレポートを環境報告書読者向けに要約し、「企業への提言」として審査報告書に付記しています。提言はいわゆる「保証」の対象ではないため記載の自由度が高く、「データ化して進捗管理しているか」「全事業エリアを網羅しているか」「本業の中で環境や社会性に役立つ事業展開を考えているか」「長期的な視点にたっているか」といった点に言及しています。

審査を受ける企業の利点は、情報の信頼性確保だけにとどまりません。企業の環境マネジメントにもよい影響を与えることで、環境活動を加速させる力になります。環境情報の収集・分析ルールが定まり、精度が向上すれば、年次変化や他社との比較が可能となり、マネジメントシステムをより有効に機能させることができるようになります。また、第三者が、各部署の担当者に直接、データの根拠資料を要求したり、データの重要性や必要性を説明したりすることは、社内の意識改革を大いに促します。

さて、環境情報の審査は、データや記載内容の真偽や正確性を確かめるもので、その環境活動の妥当性を評価するものではありません。そこでCSRIは、審査業務をCASCertに移管する以前より、もう一つの業務の柱として、企業の環境あるいは持続可能性マネジメントの支援を行ってきました。情報の信頼性を確保できたとしても、企業の考え方に矛盾があったり、選んだ情報やその枠組みに価値がなければ、審査の社会的な意味が薄れるからです。

CSRIの支援の対象は、環境・持続可能性報告書の作成、環境会計導入、温室効果ガスマネジメント、ISO認証取得など多岐にわたります。

CSRIの強みは、まず、持続可能性全般に関する専門性が高いことです。企業が開示する情報は、環境分野だけではなく、企業倫理、企業統治、遵法、人権、労働環境、地域・社会貢献などへと広がっています。同社は、設立当初からその重要性を認識しており、持続可能性や企業の社会的責任に対応できる幅広い人材、例えば、公認会計士、消費生活アドバイザー、中小企業診断士、エネルギー管理士などをラインナップしています。

さらに、CSRIはプライスウォーターハウスクーパース(PwC)のメンバーとしてグローバルな支援も得意としています。最近は、海外のサプライチェーン、特に日本企業の場合は中国のサプライヤーに関する環境や人権への対応支援が注目されています。なお、ソニーがはじめてグローバルな環境報告を行った際に、PwCネットワークを活用して海外サイトの審査を行いましたが、これは日本で初めての海外での審査業務でした。

この1-2年、CSRIは、持続可能性マネジメントに関する自主企画のセミナーや外部セミナーへの講師派遣にも力を入れています。派遣先は、企業や業界団体、大学、研究機関、自治体などです。環境・持続可能性情報の重要性を知ってもらうきっかけになればと、教育・啓蒙を意識して講演を行っていますが、こうした将来への投資も重要であると同社は認識しています。


(スタッフライター 西条江利子)

English  

 


 

このページの先頭へ