ニュースレター

2004年05月01日

 

「つぶつぶ食べて、私が変わる、暮らしが変わる!」 - いるふぁ(International Life and Food Association)

Keywords:  ニュースレター 

 

JFS ニュースレター No.20 (2004年4月号)
シリーズ:ユニークな日本のNGO 第5回
 日本語 http://www.ilfa.org/
 英語 http://www.ilfa.org/ilfa_eng/index.htm


近年、「本当の人間らしい暮らし」「自然と共生する暮らし」をとり戻すためのさまざまな試みが地球のあちこちで始まっています。いるふぁ(International Life and Food Association)は「「食」は一番身近な環境問題です」をキャッチフレーズに、体の中の環境問題としての食を研究し、未来にいのちをつなぐ穀物主食の食への転換を個人レベル、社会レベルの両面から提案する活動を展開している市民団体です。

日本人の平均寿命は今81.4歳で、世界一の長寿国となりました。しかし、この長寿記録を支えているのは、伝統的な食生活をしてきた明治・大正前期の生まれの人だというデータがあります。逆に、栄養学にそって食生活改善をおこなってきた国民の二人に一人は生活習慣病にかかり、三人に一人が花粉症やアトピー性皮膚炎などアレルギー体質となり、五人に一人は肥満になっています。確かに飢える人はいなくなったものの、必ずしも健康になったとはいいきれないのが現状なのです。

いるふぁは、1982年に設立されました。代表をつとめる大谷ゆみこさんが30歳の時です。「それまで企業の第一線でファンシーな商品の企画をしていた」という大谷さんは、初めて雑穀を食べたとき、まずい、まずしい大昔の食べもの、栄養がない、といった先入観でこわごわ食べたのに、おいしいのでびっくりしたそうです。

そして、多くの人のイメージとは違って、雑穀は日本人が古来から食べてきた主食作物であり30-40年前まで各地で食べ継がれていたこと、人間にとって必要な栄養素が人間の体の仕組みにぴったりのバランスで詰まっていることを知りました。さらに、人は丸ごとの(精製していない)穀物と本当の海の塩とその辺に生えている草があれば生きていけるということを聞いて、驚きつつも、家族とともに、穀物と野菜と海草を塩、みそ、しょうゆで調理して食べる食生活に切り替えました。

同時に、この雑穀食をもっと多くの方に知ってほしいと、「いるふぁ」を設立し、現代の暮らしにあったシンプルでスピーディな料理術と、現代人の感性に響くレシピを開発し、発信することに力を注いできました。

現在は、「未来食アトリエ風」という、雑穀を中心にした食生活の研究所をもち、新しいレシピを生み出しながら、セミナー、料理教室、出版を通して提案しています。これまでに開発したレシピは1,000以上もあるそうです。

そして、それらのレシピや食材に実際に触れる場として、食の体感ショールーム「Tsubu Tsubu Cafe」と食材とツールの揃った「粒粒SHOP」を運営しています。97年からは、毎年春に農薬や化学肥料を使わず栽培された雑穀の種と栽培マニュアルを販売する「ライフシードキャンペーン」を開催するなど、雑穀生産者の育成にも力を入れています。現在は約16人のスタッフとアルバイトで、特定の企業やスポンサーに依存せず経済的に自立した形で事業体を運営しています。

「穀物は世界で数十種類あるのですが、今では穀物というとほとんど米、小麦、とうもろこしになってしまいました。その他はすべて雑穀といわれますが、それぞれの地で伝統的に作られ、食べられてきた穀物なのです」と大谷さんは言います。

例えば、北米の先住民の間にはワイルドライスや北米の'3姉妹'(トウモロコシ、いんげん、かぼちゃ)の言い伝えがあり、南米アンデスにはキヌアがあり、アフリカにはテフ、唐人ビエ、アマランサスという穀物があるように、日本の場合にはヒエ、アワ、キビ、モロコシ(タカキビ)、ソバがありました。大谷さんは、これら色とりどりの個性的な雑穀たちを、親しみを込めて「つぶつぶ」という愛称で呼んでいます。

しかし改めて、なぜ今あえて雑穀に注目するのでしょうか? 大谷さんは、次のような点を上げています。

・食料供給の拡大と安定:米や小麦に比べ、痩せ地や寒冷地でも栽培でき、乾 燥や気候の変動に強い。灌漑も必要なく、わずかな肥料で育つ。
・健康と栄養:食物繊維とミネラルが抜群に多く、良質のタンパク質と植物性 脂肪が含まれ、栄養バランスも非常に優れている。精白した米や小麦の普及 による栄養失調(隠れた飢餓:精米することで多くのビタミン・ミネラル類 などの栄養素が削られ、不足する)を解決する可能性がある
・安全性と持続性:病害虫に強く、無農薬栽培が容易。収穫後は長期保存が可 能。発芽能力が長年持続する。
・脱肉食:雑穀は「ごはんなのに、おかずのフリができる」。つまり、タンパ ク質と脂肪とでんぷんのバランスがよく、繊維質が多いのでかみごたえもあ り、味わいもこくがあるので、脱肉食が可能。

雑穀は今、社会のなかでどのように広がっているのでしょうか。大谷さんの言葉です。

「現在、セミナーの卒業生たちが実践者となり、全国各地で今10件ほどの「つぶつぶカフェ」が運営されているほか、本で学んで料理に取り入れるお店も増えています。20年前は雑穀という言葉すら知らない人がほとんどでした。今は、だれもが健康にいい食べものと伝播するようになり、特にクリエーターたちの間では雑穀を食べることがステータスにすらなっています。」

最近の注目が集まっている背景には、国内でスローフードへの関心が高まるなか、雑穀こそが日本のスローフードではないかと考える人が増えていることや、国際的に食料安全保障が語られることが増えていることもあると指摘されています。

つぶつぶカフェを訪れる人も、この20年で大きく変わりました。「前までは一人で来てもくもくと食べている参加者が多かったのですが、最近では仲間や家族と一緒にわいわいと和やかに参加する人が多いですね。普通のお店のように、バラエティに富んでいますよ。」セミナーへの参加者層も広がっているといいます。

2004年3月、いるふぁは、雑穀レシピとそれにまつわる暮らしを紹介する雑誌
『つぶつぶ』(年三回)を創刊しました。自然食関連の書籍は多くて3000-
5000部どまりの販売数というなかで、同誌は「安全な食情報を伝えるために」企業の広告を一切入れずに10,000部を発行しています。この雑誌の存在自体が、静かながら着実に、つぶつぶが人々の心をつかみはじめていることを教えてくれます。

これからのいるふぁは、どこに向かうのでしょうか。

「これまでは、雑穀を通して自分が元気になる技術を、自ら変わりたいと思った人に伝えてきました。しかし、社会的なストレスのために、それを続けられない人も多くみてきました。これからは、雑穀を未来を生む新しい食材として提案し、雑穀が主食の食の栄養的価値への、社会的共通認識をつくっていくことに力を入れたい」と語る大谷さんはいま、「関係性の食学」という、栄養学を超えた食学を提起しています。たべものと料理、体とこころの関係性を、栄養学や生理学、易学を含めた広い意味での自然科学で明らかにしていこうというものです。

体の生理と地球の生理の両方にかなった、本当の食べものというのを真剣に考えようという思いは、雑誌『つぶつぶ』の中で、シンプルな言葉で力強く語られています。

「食べるって何だろう。食べものって何だろう?
 私たちのカラダは食べもので作られている。
 だから、食べるって、とても深くて大切なことのはず。

 だけど今や、食べものはまるで工業製品。
 自然や大地からの恵みとは、ずいぶんかけ離れてしまった。
 スーパーで売っているほとんどの食べものは、
 いのちの匂いがしない。
 便利で、早くて、わかりやすいおいしさだけど、
 何ががすごく足りない...

 それは、カロリー計算とか栄養バランスとか、難しいことじゃない。

 「本当の食べもの」を食べたら、すぐ、わかること。

 自然の大地からもらった、いのちある食べものを食べると、
 カラダの底から元気になれる。
 人ってこんなに元気になれるんだと気づいたら、
 嬉しくてピースな気持ちがわいてくる。
 食べものの育つ大地や水を、人を、大切にしたくなる。
 そしていつのまにか、心も暮らしも
 気もちよくシンプルに変わっていく...。」

(スタッフライター 小林一紀)

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