ニュースレター

2004年02月01日

 

キーワードは環境 - 寺と市民で考える持続可能な地域社会

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JFS ニュースレター No.17 (2004年1月号)

仏教はインドから中国、朝鮮半島を通って西暦500年代前半に日本へ伝えられましたが、日本固有の文化や価値観と融合しあって、約700年をかけて日本独自の仏教が形成されてきました。世界中に知られる"禅"もこの時期に日本独自の展開を見せています。そして他の宗教と同じく、仏教にも多くの宗派が存在します。

今回取り上げる東本願寺は、西暦1200年頃に形成された仏教の1つである浄土真宗の一派であり、真宗大谷派という宗派の本山(本廟)です。真宗大谷派は親鸞聖人を宗祖とし、念仏を唱えることで誰もが平等に救われると説く考え方です。この考え方は「他力本願」とも呼ばれ、私たちは呼吸1つとっても自分ひとりで完結することはできず、何か大きな力によって生かされている、そのような自己の存在に気付いていく気付き(自覚)の宗教だと考えられています。

京都には神社仏閣がたくさんありますが、東本願寺は京都駅前に約93,140平方メートルという広大な敷地を持ち、全国各地の信者や、日本はもとより世界各国からの観光客を受け入れています。この東本願寺で、寺院と市民・自治体が一体となった環境保全の取り組みが始まりつつあります。


東本願寺と環境問題

東本願寺では、親鸞聖人の没後750年目にあたる2011年に執り行われる大きな法要の特別記念事業として、御影堂・阿弥陀堂・御影堂門の修復を行うことを決定しました。その最終計画を立案する段階(2002年)で、この修復を単なる営繕事業とするのではなく、環境問題を踏まえた修復事業を行っていこうというアイディアが出てきます。時代社会の課題を担うことは、いつの時代にも寺の大切な使命なのです。

そこで、「太陽光発電瓦導入の可能性」「東本願寺が地域防災に果たす役割」「環境問題を基点とした雨水利用」について、聞き取り調査を行いました。御影堂と阿弥陀堂は世界最大級の木造建築と言われており、御影堂の屋根は約8000平方メートルもの広さで、使用されている瓦は実に約175,000枚にもなります。しかし、太陽光発電瓦については、文化財としての価値からも建物の当初の姿を残すことが尊重されたこと、ガラス瓦の開発や費用などの関係で見送られることになりました。

しかし、境内緑化や雨水の利用、境内を環境問題の学びの場として公開していくなどの継続的な取り組みを模索していくということが確認されました。この事業の担当となった若い僧侶たちにとって、環境問題は決して身近な問題ではありませんでした。実際のところ、そもそもは仕事として与えられたのがきっかけでした。しかし、いったん取りかかってみると、様々な先人の智恵や東本願寺の置かれている状況、またその可能性などを次々と発見していくことになりました。

例えば、東本願寺は江戸時代に4度も火災にあっていることから、明治28年に再建された際、当時では最新の防火設備が導入されました。京都の蹴上に琵琶湖疎水が開通した直後、そこから直接琵琶湖の水を分岐させた本願寺水道が設置されたのです。これは内径30cm、長さおよそ5kmの鉄管で、取水点からの高低差を利用して無動力で高さ38mにも及ぶ御影堂のてっぺんまで放水し、水の煙幕によって火災から建物を守ることができるという仕組みです。この水道は、お堀の水や、別邸の渉成園(枳穀邸)の池の水にも活用されてきました。

この水道は100年経った今、鉄管が老朽化してきたため水量が減り、また琵琶湖から直接水を引いているため、琵琶湖の水質の悪化や外来魚の問題などがそのまま現れるようになってきました。そのため現在では地下水の併用比率が高まってきています。

また、お堂の建材には樹齢が何百年と言う巨木が使用されていますが、建築方法には独特の木組みが用いられており、1000年以上ももつように考えられた建物です。さらに、お堂は木と土と草を原料としていることから、建物としての寿命がきたときにも自然に還ることができる機能が備わっています。

近年京都駅前の開発が進み、自然環境が急速に変化しつつある立地条件の中で、この本願寺の敷地にはホタルやすっぽんをはじめとした様々な生き物が住み、現在では白鷺の繁殖地にもなっています。別邸の枳穀邸は、まさにビオトープそのものなのです。


「東本願寺と環境を考える市民プロジェクト」の発足

2003年3月、東本願寺の担当僧侶たちは勉強のため、地元京都で開催された『世界水フォーラム』に出席し、雨水市民の会ほか、京都の環境NGOと出会いました。そして、この環境への取り組みは、一宗教団体単独で推進するのではなく、地域社会(下京区、あるいは京都市)と一体となった歩みが必要であることを認識します。

そこで、様々なNPO関係者による東本願寺境内地・堀、渉成園の視察や、シンポジウム「東本願寺が市民とともにできること」の開催などを経て、東本願寺と近隣住民、環境問題に取り組む各種NGO団体の有志による「東本願寺と環境を考える市民プロジェクト」が2004年1月26日に発足しました。

まずは設立人同士の交流からはじめ、具体的な取り組みを模索していく予定です。東本願寺側では、「瓦の洗浄に雨水を利用」「これまで業者に頼ってきた堀の清掃を市民とともに行う」「市民や地元の小学生などによる渉成園での自然観察会」「修復現場の公開、および伝統建造物に表現された先人の知恵に学ぶ」などの他、環境シンポジウムや町並み散策会などを行いたいと考えています。

ここ東本願寺での取り組みが実現していけば、その経験は全国の門徒や寺院へと広がっていくことでしょう。日本の各地で小さくともこうした環境への取り組みや教育が行われていくことになれば、大変大きな効果につながっていきます。

また別の観点から見れば、東本願寺の取り組みは、かつては密接であった寺と近隣住民とのつながりを、環境というキーワードによって取り戻していく試みともいえるのです。

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