ニュースレター

2003年11月01日

 

「私たちのサービスの本質: ファンヒーターでなく、暖かさ」 - 日本海ガス 

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JFS ニュースレター No.14 (2003年10月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第6回
http://www.ngas.co.jp/

日本の家庭では、ガスは欠かせないエネルギーの一つになっています。実際、家の中を見まわせば、様々なところにガスが使われていることに気づきます。調理用コンロ、給湯器、オーブン、ファンヒーター、温水式床暖房・・・。家庭内で使われるエネルギーの割合を見ても、この30年間でガスはより多く使われるようになりました。

図:家庭部門におけるエネルギー源別消費割合の推移
    1973   1990   2000
電気  22.5%   32.0%  33.9%
ガス  22.9%   25.0%  33.9%
LPG   14.3%   15.0%  25.0%
軽油  32.8%   27.0%  14.1%
石炭   5.0%    0.1%   0.0%
(エネルギの状況については5月号ニュースレターに詳しく述べられています。http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/027231.html

では、このように便利なガスを提供するのに、環境の視点から重要なことはなんでしょう。一つには、環境負荷の低減という観点から、海外での原料の発掘と処理、海上輸送、工場での製造、運搬、そして使用時などの各工程でCO2、Nox、Sox、廃棄物の排出を削減していくことがあります。そしてもう一つの視点が、環境という切り口からお客様にとってのサービス価値を向上することです。

ガスを提供することの本質的価値はなにか。今月号のニュースレターでは、この問いを突き詰めて、顧客、会社、そして地球の3者がともに勝者になれるビジネスモデル開発に挑む日本海ガス株式会社の取組みを紹介いたします。

1942年に設立された同社は、現在北陸地方の富山県を中心に約11万世帯に都市ガスとLPガス、その他ガス関連サービスを提供している日本企業です。提供範囲は富山県周辺に限られますが、2003年現在には約250名(グループでは600名)の従業員で、年間で90億円(グループ連結では210億円)の売上げを上げています。
(ご参考: 都市ガスは、日本全国世帯の約54%が利用するエネルギー形態で、地下のガス導管を通じて各家庭に供給されています。同社では原料にナフサとLPGを利用していますが、2004-2007年により環境負荷の少ない天然ガスに全面転換する予定です。また、LPG (液化石油ガス)は、気化・液化が容易なので貯蔵・運搬がしやすいため主にボンベを通じて家庭に供給され、全国世帯の60%が利用しています。)

限られた資源を扱う責務を認識する同社は、通常の企業以上に環境に取り組むことが重要と考えています。まず、海外から輸入した原料を受け取ったあとのガス製造時・供給時における省エネルギーや環境負荷軽減、消費段階での省エネといった活動を地道に行うこと。そしてその上で、企業レベルで経済と環境の両立を果たすべく、特に経営面にとってもメリットの大きいコジェネレーションと分散型発電を進めています。ガスコージェネレーションシステムは、発生する動力と熱をうまく利用することで省エネルギー化を図り、CO2排出を抑制することが可能なシステムですが、同社では、工場からのガス送出時にガスエンジンを用い、その廃熱を冷暖房や給湯等に利用することで、70-80%の高い総合エネルギー効率を得ています。

こうした取組みを展開していくなかで、それまでは販売だけだったガス機器の提供方法を見直すことになります。例えばファンヒーターというガス機器があります。これは寒い冬には大変に重宝しますが、暑い夏の間には使えない季節商品です。また技術向上によるモデルチェンジのたびに利用者が買い替えるということになれば、それだけ資源使用量と廃棄物増加につながります。つまり利用者にとっては保管の問題、環境にとっては資源の問題があるわけです。

そこで同社は、「お客様がほしいのは、ガスファンヒーターではなくて、暖かさのはずだ」という考えに基き、冬の間だけファンヒーターをレンタルして使ってもらうサービスを提供しました。暖かくなって不要になると、ファンヒーターを引き取り、専門家がメンテナンスを行ったあと、倉庫に保管します。一般家庭に置いておくよりもメンテナンスが行き届くため長く使えるという仕組みです。

価格は1冬3,000円。サービスを開始した2000年冬には、用意した150台がすぐ予約で埋まり、追加の要望に応えて合計で230台をレンタルしました。初年度の春、引き取り時に「次の冬の予約」を取ったところ、多くの顧客が継続予約を希望。実際2002年には、437台(うち前年よりのリピーターは165人・リピート率71.7%)、2003年には442台(うち前年よりのリピーターは333人・リピート率76.2%)と、利用者は増加傾向にあります。

社長の新田八朗さんはこのようなモノからサービスへの展開においては、社員の意識改革が一つの鍵になると示唆されます。同社の場合でも、このレンタルサービスを導入するにあたり社内でも「個別に販売すれば市場では約30,000円の価格がつくのに、なぜそんなことを。」という反応が強かったそうです。しかし、自社の提供する「ファンヒーター」とはお客様にとって何なのか、ということを繰り返し社内で問うていくなかで社員意識は変わっていきました。機器という箱自体には意味はなく、寒い冬に暖かさを提供するということがサービスの本質的価値なのだという考え方が浸透したのです。

天然ガスは有限であり、永遠に使えるわけではありません。しかし同社のようにサービスの本質的価値に着目するならば、長期的には「暖かさ」を提供するための一手段に過ぎないという発想をもつことができます。また、これからの水素エネルギーの時代においても、現在の資産である天然ガスパイプラインは活用できるとするとも指摘されています。新田社長は「同社においても環境への取組みはまだ緒についたばかり」だが、「新たなビジネスモデルが社員の一挙手一投足が環境に配慮したものになっていくなかから生まれる」と、信じています。
(スタッフライター 小林一紀)

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