ニュースレター

2003年11月01日

 

「エコタックス--規制を先取りする"市場改革"」 - 西友

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JFS ニュースレター No.14 (2003年10月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第5回
http://www.seiyu.co.jp

古来から私たち人間は、毎日にせよ、週に一回にせよ、生活する上で必要な物資を得るために市場(いちば)を訪れてきました。現代の市場(いちば)としてスーパーマーケットがありますが、そこでは、生活用品から食材、電化製品まで、生活に必要なものはたいてい手に入れることができます。しかしその一方で、大量の商品を大量に売りさばくことによって利益を上げる現在の形態は、市場(しじょう)全体が抱える消費と環境のバランスの課題、あるいは持続可能な消費という課題を象徴する存在にもなっています。

生活者にとって最も身近で、最も重要な商品とのインターフェースを担うスーパーマーケットは、持続可能な社会の構築へ向けてどのような役割を担うことができるのでしょうか? 基本的に考えられるのは、店舗の環境負荷低減、消費者啓蒙、そして環境配慮型商品の販売といった活動となるでしょう。実際、日本で業界5位の大手スーパーチェーンの西友も自社の経営資源をこうした環境活動に費やし、一定の成果を上げてきました。

しかし小売業界でのグローバル競争が激化する中、現代のスーパーチェーンは、環境活動に個別に取り組むだけでは充分でありません。コスト競争に負けない販売体制で利益を出すとともに、合理的な経営をし、環境規制を遵守するとともに、社員の創意工夫を引き出して環境効率を抜本的に改善するという複数の課題が同時に要求されています。今月号のニュースレターでは、西友が他社にはみられないユニークな手法「社内エコタックス」の展開を通じてこれら複数の課題に挑んでいる様子をご紹介したいと思います。

1963年に設立された西友グループは、日本中に400以上の店舗を展開する小売チェーンです。2002年度の営業収益は1兆円超で、パートタイム8,000名超を含めて約14,000名の従業員(8時間換算)が働いています。「お客様と最も近くにいる小売業界」として、同社はトップのコミットメントのもと、環境経営に早くから取り組んできました。同社は1997年にISO14001のマルチサイト方式一括認証を小売企業として世界で初めて取得。その後、特に消費者への環境教育と環境配慮型自社商品ブランドの開発と販売などに力を注いで実績をあげています。

例えば1997年に開始した子供を対象とした環境教育プログラム「エコ・ニコ学習会」は企業による環境学習の事例として広く認知され、2003年には12,000を超える数の人が、店舗や教室で西友の環境活動を材料に環境に配慮した生活のあり方を学んでいます。1992年に立ち上げた独自基準の環境商品ブランド「環境優選」は、2002年度に96アイテム、売上げ3.73億円に至るまでようになりました。

2002年には財務面での課題を克服すべく2002年度に米国ウォルマート社と業務提携し出資を受けました。今後は、これまでの個別に突出した環境の取組みの効果を経営価値としても証明し、また活動全体の効率を抜本的に向上させることが要求されています。

この課題に直面して同社が考案したのが、社内エコタックスの制度です。これは、西友本社がいわば政府のような役割を果たし、各部門から環境影響に応じた「企業内環境税」を徴収することで、全従業員一人ひとりの環境意識の向上と創意工夫を促し、環境負荷をスピードをもって効果的に減らしていくことを目指すものです。

その仕組みは、次のようになっています。電気・水道・ガスなどのエネルギー使用や廃棄物の発生など、環境への負荷は課税対象に、環境商品の販売や容器の回収量増加、エコ・ニコ学習会を始めとする環境学習会の開催など、環境への貢献は免税ポイントとして、店舗ごとに税を徴収します。徴収した税の一部は、戦略的な環境投資や、地域貢献など、さらなる環境活動へと還元していきます。

具体的に個々の項目はCO2排出量相当に換算して計算されます。それぞれ異なる種類の活動に対する換算係数は、外部アドバイザーの助言を得ながら設定されました。例えば、エコ・ニコ学習会のCO2換算係数は、次のように計算されます。環境省が推進する「一人ひとりの地球温暖化対策」の10項目を実施すると、一家族あたり約766/年のCO2削減効果があります。エコ・ニコ学習会に参加した子供たち(一回平均20名)のうち半数のご家族が省エネの取組みを行い、約1/2が成果をあげたものと想定して計算すると、年間3,800kg CO2の削減効果が期待できます。

一人ひとりの地球温暖化対策 【-766 kg CO2/家族】 
X 
参加人数 (家族)【20家族】
X 
実施割合(メニュー)【1/2】
X
実施割合(家族)【1/2】

3,800 kg CO2

そして、課税対象CO2量から控除対象CO2量を差し引いたものが、各店舗のエコタックスの徴収対象CO2量となり、トンあたり5,000円がここに課されます。この額が利益から引かれて本部により自動的に徴収され、それは環境活動も含めた経営資源としても再投資されるわけです。

このような仕組みがあれば、個々の店舗レベルでは徴税額を最小にすべく、様々な創意工夫により環境活動効果を最大化するインセンティブが働きます。2002年度には算定システムを整え計算をシュミレーションした結果、仮に徴収を行っていれば総額は約17億円となりました。2004年度からいよいよ完全実施が始まり、2005年度以降には、社外での取引も視野に入れています。

この取組みは、来たる規制を先取りしたものでもあります。京都議定書で定める温暖化防止を実現するために日本全体での取組みが加速する中、温暖化対策税の導入が国レベルで検討されている他、東京都も、一定の規模以上の事業者にはCO2排出量の上限を設定することも考慮しています。

消費と環境のバランスをとるための来るべき市場全体の改革を先取りして、自社という市場(いちば)の改革を進める。環境負荷の数値が、営業成績と同じだけの重みを持つ環境経営に向けて西友の挑戦はまだ続きます。
(スタッフライター 小林一紀)

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