ニュースレター

2003年08月01日

 

「EMSのこれまでとこれから」(JACO)

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JFS ニュースレター No.11 (2003年7月号)
シリーズ:持続可能な社会をめざして-- 日本企業の挑戦 第2回 

国際規格のISOシリーズに、ISO14001「環境マネジメントシステム(EMS)」があります。これは、ある組織が、自らの活動が環境に及ぼしている影響について洗い出し、管理するための数値目標を立て、計画を実行し、結果を計測/評価する一連の活動を通じて、体系的に活動の継続的改善をはかっていくという仕組みで、1996年に規格化され、現在世界で約4万の組織が取得しています。

驚くべきことに、全世界の取得件数の内22%(1万2000件)を、日本の組織が占めています。そして、公式環境審査員などの専門家教育と認証の分野で民間組織として最も実績のあるのが、株式会社日本環境認証機構(JACO)です。

同社は1994年に設立され、ISO14001とISO9001に関する教育と審査登録事業を行ってきました。日本での認証の分野は、16の外資を含めて45機関が事業を行っていますが、市場トップは約20%のシェアを有する政府系財団法人のJQAで、JACOはシェア16%を占めています。

今回の記事では、同社の元社長で現在顧問兼Lead auditorを勤める福島哲郎さんに、日本におけるISO14001(EMS)の現状と課題について伺いました。具体的には、1)なぜ日本でこれだけEMSが普及したのか、2)これだけの組織がEMSを持っていることが日本産業全体の環境負荷低減について何を意味するのか、3)日本でのEMSの今後の課題はなにか、についてここでご紹介いたします。

まず、日本でISO14001が普及した理由について見てみましょう。これには、一つはもちろん企業での地球環境への危機意識の高まりがあったことが主原因ですが、もう一つの企業的背景としては、ISO9001シリーズの普及の遅れに対する教訓という側面があります。一つ目の理由についてはここでは自明なものとして、二つ目の理由について詳細を見ておきましょう。

1980年代、日本企業が品質において世界的に名を馳せていたころ、国際的な品質保証の仕組みとしてISO9000シリーズが普及し始めました。日本企業は自らの品質について非常に強い自信をもっていたため、後に国際的な品質規格として認知されることになるこの規格の取得に逡巡し、他国に遅れをとりました。

その結果、ISO9001に関しては、現在全世界で40万件の取得件数なかで、日本の取得件数はたった3万件(10%以下)に止まっています。このような流れの中で、日本企業は品質について世界一であると主張することが難しくなっていきました。このことを一つの苦い教訓として、ISO14001シリーズが登場してきたとき日本企業はその重要性を認識し、早くから体制を整え、スピードをもって認証を進めてきたということがあります。

では、これだけの数の企業がEMSを取得していることは、日本の産業活動全体の環境負荷低減について何を意味するのでしょうか? 実際にどれほどの負荷を低減したかは、各組織がそれぞれ目標を設定し取組んだ結果をホームページや環境報告書で報告しているので、それを個別に見なければなりません。

つまり、取得企業全体として「これだけ低下した」とはすぐには言いにくいのですが、確かに言えるのは、1万2000の組織が環境負荷低減に対して「毎年体系的に進歩を遂げている」ことが保証されているということ。つまり、目標を立て、実行し、測定/評価し、再度目標を設定するというサイクルを体系的に回している、そして、このプロセスに対して半年か毎年に一回かならず外部からの審査が入るために、担当者や社員がモチベーションをもってそれを実行しているということは、約束されているわけです。

こうしてマネジメントの仕組みとして普及を遂げているEMSですが、これからの課題はどこにあるのでしょうか。福島さんは、今後のEMSの課題として次の三つを挙げています。

1)本来業務への切り込み
2)合理性とモチベーションの最適化
3)小規模版の普及

まず、1)本来業務への切り込みについて見てみましょう。EMSを導入してから4年から5年目に入る組織は、紙・ゴミ・電気の削減は一定の成果を既に達成し、次に何をすべきかを見い出すことに戸惑っているように見えることがあります。こうした組織が行わなければならないのは、周辺業務の環境負荷低減だけでなく、自社の製品やサービスの提供という本来業務に切り込むということです。

例えばボールペンは、現在グリーン購入法基準で再生プラスチックが40%以上使用されているものとなっています。この基準を超えていなければ中央政府や公共機関に購入されません。ボールペンを製造する企業にとっては、EMSのなかで製品そのもののグリーン化をいかに達成するかを基盤に更に高い目標に据えて、無限の改善活動を進める必要があるのです。これが、あらゆる製品やサービスについても今後あてはまると思います。

次に、2)合理性とモチベーションの最適化について。多くの工場や事務所を抱える企業にとって、一つ一つの事業所単位でEMSを取得・審査していくことが負担になる場合、「マルチサイト方式」として本社が一括して一つのEMSを取得することも可能です。これは、本社の管理負担という観点からは完成型に近いと言えますが、実際にPDCAを回す各事業所のインセンティブという観点からは大きな課題を抱えることになります。

つまり、事業所名には登録証は発行されないため、工場長の元に一丸となって環境活動に取組むやる気は低下します。また、各事業所や工場で製品、工程、さらに化学薬品などそれぞれ扱っているものは異なるにも関わらず、環境方針に独自性を入れる余地はなく本社の定める最大公約数的なものに従わなければなりません。

その上、本社の指導は一番活動が遅れている工場に合わせられるので、活動レベルが高い事業所にとってはモチベーションを維持することができにくくなります。つまり、マネジメントの合理性を重視するあまり、社員ひとりひとりのモチベーションを下げてしまうという状況になってしまいます。

そこでJACOが現在推奨しているのが、「グループ審査」という方法です。これは、方針や目的、組織、評価に対して、本社は「作り方はこうしましょう」という大本の方針だけを作り、後は各事業所が自らの独自性を考慮して作るやり方です。

審査は一括して行うことができ、登録証は個別に発行されます。こうすることにより、外部審査が入る前の内部審査も、各事業所の担当者が相互にチームを組みかえながら、お互いのノウハウを共有しつつすすめられることになります。

パフォーマンスも本社が一括して管理できるようになります。例えば松下電器の関連会社や協力会社はこの「グループ審査」を実施しています。

最後に、3)小規模版の普及についてです。大企業では普及したEMSですが、中小企業への普及はまだまだです。例えば20から30人の組織にとって、EMSの構築に専従できる人員的余裕がない他、要求事項が多すぎるのがネックになっています。

そこで、文書化などを最低限にしたスモールマネジメントシステムを国際規格として作ることが、EMSの底辺を拡大するための急課題となっています。

環境経営は、18世紀に現代企業が誕生したときからの「良い企業とは何か」という絶え間ない問いかけに対する、一つの過渡的な状態だと、福島さんは語ります。つまり、財務だけ優れていれば良いという考えから脱皮し、環境性を内部コストに折り込み、それを効率よく行っていくということが環境経営となりましたが、今後はさらに、従業員の幸福や、商品の公正、事業の倫理性を含めて問いかけは続いて行きます。そのためのツールとして、マネジメントシステムは限りなく発展していく必要があるのです。

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