ニュースレター

2003年04月01日

 

食べ残しも食べたあとも、すべて循環 - 宮崎県綾町

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JFS ニュースレター No.7 (2003年3月号)
シリーズ:地方自治体の取り組み 第2回 

宮崎県綾町は、清流綾北川と綾南川に挟まれた扇状地と、北西に広がる照葉樹の自然林からなる総面積 9521haの町。森と清流の美しい自然があり、宮崎市内から車でわずか40分という身近さから「宮崎の奥座敷」ともいわれ、日本の自然百選、森林浴の森百選にも選定されています。

綾町には、これだけ残っているのは日本でもここだけ、という素晴らしい照葉樹林があります。町の80%は森林で、中心地から3km以内に約7,600人の人口の80%が住んでいます。

ここ綾町は、農業従事者の多い町ですが、町という小さな単位で「農作物」→「生ごみ」→「堆肥」→「農作物」と、栄養素を循環している珍しい町です。農家では昔から、自家の生ごみから堆肥を作っていましたし、昔から地元の養豚業者が飼料用に家庭からの生ごみを回収していたそうです。そのような背景もあって、1973年に、町の収集車で生ごみを回収し、豚の飼料にする「生ゴミリサイクル」のしくみができました。

いまでは、年間500トンほどの生ごみを一般家庭や食堂などの商店から回収して、町営の堆肥生産施設に運び込んでいます。近くの農家から出る牛糞を加えて発酵槽に送り、堆肥を作ります。これを1トン3000円(化学肥料の10-15分の1の値段)で町の農家に販売しています。農家はこの堆肥で作った農作物を町の人などに販売しています。

綾町では「農業が自立するには、生産者と消費者が一体になるべきだ」と、時代を先行すること約15年、1988年に「綾町自然生態系農業の推進に関する条例」を制定しました。そして、町で独自の認証基準を定め、堆肥生産施設を設け、農家が直接消費者に販売できるセンターを作り、この条例を実際の形にしました。

センターの野菜コーナーの壁には、認証された農家の名前と番号が張り出されており、野菜の袋に打ってある番号を見ると、だれが作った野菜か、すぐにわかります。農家は誇りを持って農作物を作り、消費者は安心して食べられるしくみです。

また、綾町では、江戸時代の日本のように、人間の排泄物も回収し、液肥にして、土に戻しています。食べ残しも排泄物も、同じように循環しています。生ごみを堆肥化して域内の農家で使う地域の試みは何ヶ所かで進められていますが、排泄物も回収して循環する取り組みは、日本でも珍しいものです。

綾町の照葉樹林は、日本文化のルーツともいわれ、それはそれは美しく素晴らしいものです。ところが、九州電力がこの地に原子力発電所を支えるための揚水発電所からの高圧送電線鉄塔を建てることを決め、今年に入ってその工事を始めました。まず機材搬入のための林道を造るのでしょう。綾の照葉樹林とそれが守ってきた生態系が傷つくことを多くの人々が恐れていますが、工事は止まるきざしがありません。

一方、照葉樹林を守ろうという住民が中心となって、「綾の森を世界遺産にしよう」という運動が展開され、短期間に遺産登録推薦を求める約14万人の署名が集まりました。3月25日に開催された「世界自然遺産候補地に関する検討会」では、国内約1万7千の候補地から17の候補地域を選びましたが、そこに綾町の照葉樹林も残りました。これは明るいニュースです。

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