ニュースレター

2003年04月01日

 

<工業用水道の果たしてきた役割>

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JFS ニュースレター No.7 (2003年3月号)

前回に続いて、水について今月もご紹介したいと思います。

日本には、産業活動に欠かせない水を安定的・ 計画的に供給するための水供給システムがあります。世界にもあまり類を見ない「工業用水道」です。工業用水道とは、工場などで工業用に使用される水を供給する水道で、上水道に比べると簡略な浄水処理で供給しているため、その分安価に水を提供できます。

工業用水道は、昭和30年代以降の高度経済成長の大きな原動力となるとともに、地盤沈下や地下水塩水化対策としても、重要な役割を担ってきました。

1998年現在、工業用水の水源別構成比を見ると、工業用水道が38.5%で最大に水源となっており、地下水の27.5%、河川水25.7%、上水道7.2%となっています。現在、全国で137事業体(うち2つは民間)が243の工業用水道を運営しており、毎日3259万2,000立方メートルの工業用水を供給しています。

工業用水を供給する事業体は、都道府県をはじめ市町村など地方自治体が多く、湖やダム、河川などから取水した水を簡易処理して、工業地帯に送っています。水質は、濾過と滅菌としないことをのぞけば、飲料用の上水とほぼ同じです。

1937年に川崎市が地下水位の低下対策のためにはじめての公営工業用水道で水供給を開始して以来、多くの自治体が工業用水道を建設するようになりました。1956年には工業用水法が制定され、工業用水道事業に対する国庫補助制度が創設されました。1958年には工業用水道事業法が制定され、その基盤整備が進められました。

日本では昭和20年代後半から、盛んになった工業用に地下水を過剰に揚水した結果、地盤沈下が日本各地で問題になりました。そこで、工業用地下水の採取規制をおこなうとともに、工業用水道の整備が進められました。

たとえば、東京都では昭和30年代後半には、年間10-13cmも地盤沈下が進んでいましたが、工業用水道の水供給量の増加とともに、地下水揚水量が激減し、昭和50年代にはほぼゼロとなるのにつれて、地盤沈下もおさまりました。各地でも同様に、大きな社会問題だった地盤沈下の問題が、昭和50年代に緩和されました。

このように地盤沈下を抑えながら工業発展に役立ってきた工業用水道ですが、現在では、その需要が伸びていないため、工業用水のほかに、雑用水として、ビルや集合住宅のクーリングタワーの冷却用水やトイレ用水、公園や緑地、ゴルフ場への散水、タクシーや清掃作業車等の洗車用水などとしても使われるようになってきました。

工業用水道の需要が伸びていないのは、工業用水における回収率(工業用水使用水量に対する回収水量の割合)が、昭和40年の36%から、平成9年には78%にまで上昇しているため、工業用水として新しく淡水を取水して補給すべき量が増えていないためです。

昭和40年から現在まで、日本の工業生産高は5倍にもなっていますが、この間、工業用に新しく取水する淡水使用量は増えていません。工業生産高あたりの淡水使用量は5分の1に減っている(ファクター5)ということなのです。日本の高度成長は、工業用水の点からいえば、「より少しのもので、より多くを生み出し」ながら、遂げることができたのです。

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