ニュースレター

2003年02月01日

 

質・量・利用方法ともに広がる環境報告書の動き

Keywords:  ニュースレター 

 

JFS ニュースレター No.5 (2003年1月号)

日本では近年、大企業から中堅企業まで、環境報告書を発行する企業が増えています。また企業だけではなく、自治体や大学などでも環境報告書を出すところが出てきています。

環境報告書とは何かの定義があるわけではありません。ただ、通常は企業等の事業者が、経営責任者の緒言、環境保全に関する方針・目標・計画、環境マネジメントに関する状況(環境マネジメントシステム、法規制遵守、環境保全技術開発等)、環境負荷の低減に向けた取り組みの状況(CO2排出量の削減、廃棄物の排出抑制等)等について取りまとめ、社内外に公表するもので、宣伝パンフレットのようなイメージアップのためのツールとは異なります。紙媒体が普通ですが、最近はウェブ上でのみ発行している企業もあります。

日本における環境報告書は、ISO14001認証取得が増加した90年代の中頃から、急速に作成者が増えました。特筆すべきは、この初期の段階では、バルディーズ研究会や環境監査研究会といったNPOが、日本における環境報告書の普及、教育に大きな役割を果たしたことです。
バルディーズ研究会 → http://www.geocities.co.jp/Milkyway/4189/
環境監査研究会 → http://www.earg-japan.org/

環境報告書を作成し公表する目的は、事業者の環境保全に向けた取り組みの自主的改善、および利害関係者との環境コミュニケーションの促進です。最近では事業者は環境に関する情報を公開していく社会的責務があるという「説明責任」の考え方も広まりつつあります。
http://www.env.go.jp/policy/j-hiroba/04-4.html

上場企業2644社、従業員500人以上の非上場企業3716社を対象に行われた、環境省の「2001年度環境にやさしい企業行動調査」の結果によると、環境に関する情報を「一般向けに公開している」企業は、前年年度調査の28.1%から31.3%へと3.2ポイント増加しています。特に上場企業では、27.7%から38.9%へと11.2ポイントの増加です。
http://www.japanfs.org/db/58-j

環境報告書を作成している企業数は年々増加しており、上記のアンケート回答企業の中では、2001年度には作成している企業が20.0%、579社。さらに、来年度作成予定とした企業も12.0%、347社あり、今後さらに増加するものと予測されます。
http://www.japanfs.org/db/58-j

環境省では、環境報告書の作成に取り組む企業への手助けとして、2001年2月に「環境報告書ガイドライン(2000年度版)-環境報告書作成のための手引き-」を発表しています。
http://www.env.go.jp/policy/report/h12-02/

このガイドラインには、環境報告書を作成し公表する必要性とメリット、受け手と利害関係者、対象範囲と公表媒体、基本的要件や原則、信頼性の確保に向けての仕組みなどのほか、記載内容の基本項目などについて、掲載されています。このガイドラインが出されたことにより、日本企業の環境報告書作成の動きが大きく加速されました。
http://www.env.go.jp/en/policy/economy/erg2000.pdf

また、環境報告書に記載される情報の中でも、非常に重要な環境パフォーマンス指標についても、環境省がガイドラインを公表しています。
http://www.env.go.jp/en/policy/economy/epi2000.pdf

環境報告書の要件のひとつに「比較可能性」があります。たとえ、多くの企業から報告書が出されても、環境負荷に関する数値情報の計算の仕方や根拠がまちまちだと、読者はそれらを比較したり分析したりすることが困難です。

こうした一つのガイドラインに沿って環境パフォーマンスが報告されれば、数値情報が比較可能であり、その意味で、このガイドラインは環境報告書のさらなる質的向上のために重要な役割を担っています。なお、現在改定作業が行われています。

また、経済産業省もステークホルダーを意識したガイドラインを発表しています。http://www.meti.go.jp/english/report/downloadfiles/g02EnGuie.pdf

環境省ではさらに、環境報告書に取り組む企業数をいっそう増やすための方策検討のため、環境報告書の作成者、利用者、有識者等からなる「環境報告の促進方策に関する検討会」を設置し、2002年度末のとりまとめをめどに、検討会を開催しています。
http://www.env.go.jp/policy/j-hiroba/sokushin/index.html

また、環境報告書データベースも公開し、作り手のみならず、読み手の意識啓発や利便性をはかろうとしています。
http://www.japanfs.org/db/118-j

環境省が中心となって運営している地球環境パートナーシッププラザ(東京)には、環境報告書のライブラリーがあり、だれでもさまざまな環境報告書の実物を見られるようになっています。

前号で、グリーン購入の動きを大きく支え、促進してきた日本独自の団体として、グリーン購入ネットワークをご紹介しましたが、環境報告書の分野では、環境報告書ネットワーク(NER)があります。

環境報告書を中心とした環境コミュニケーションの普及と発展を図ることを目的として、環境報告書に関心を持つ事業者、団体、自治体、大学、市民等が1998年に設立した組織です。さまざまな参加者のパートナーシップの下で、環境報告書に関する研究会やシンポジウムなどの開催、様々な媒体による情報交換や情報発信を行っています。
http://www.gef.or.jp/nsc/

日本には現在、環境報告書の表彰制度が2つあります。ひとつは、財団法人地球・人間環境フォーラム主催、環境省後援の「環境レポート大賞」です。
http://www.gef.or.jp/activity/economy/environment_prize/index.html

「環境レポート大賞」は優れた環境報告等を表彰することにより、環境情報の開示と環境コミュニケーションを促進し、事業者の自主的な環境保全の取り組みを促進することを目的として、1997年度から実施されています。

2002年度は、293点の応募があり、計28点が表彰されました。環境大臣賞を受賞したのは、松下電器産業の「松下電器グループ 環境報告書2002」です。

11点が受賞した優秀賞は、アサヒビールの「環境コミュニケーションレポート2002」、損害保険ジャパンの「損保ジャパン 社会・環境レポート2002」などです。

もうひとつの表彰制度は、グリーン・リポーティング・フォーラムと東洋経済新報社が共催する「グリーン・リポーティング・アワード」です。2002年に発表された第5回で最優秀賞を受賞したのは西友でした。

環境報告書は、主に企業が、顧客や株主、投資家、社員、地域住民などの利害関係者に向けて発行するものですが、地域住民に焦点をあてて、企業全体ではなく、工場や事業所単位で発行されるサイトレポートを作成する企業も増えてきました。地域の人たちの「地域環境の保全」に対する関心に応えるために編集されるもので、ソニーやNECなどが早くから取り組んでいます。

また、子どもを対象にしたものや企業以外が発行するケースなど、ユニークな事例もあります。

たとえば、東芝研究開発センターの「こども向け環境報告書」

早稲田大学の「大学の環境報告書」
http://www.waseda.ac.jp/ecocampus/rindex.html

行政も環境報告書を出しています。たとえば、東京都水道局

東京都では、化学物質に的を絞った「ミニ環境報告書」の枠組みを作り、中小企業や商店街ごと、数社共同での作成などを呼びかけています。

エコファンドやSRI(社会的責任投資)などの流れの中で、環境報告書の位置づけはさまざまな意味で重要になってきました。SRIファンドのスクリーニングや、企業格付け・企業評価の主要な情報源として使われています。

また、多くの発行企業が、自社の社員向けの環境教育テキストとして用いています。さらに、NECが、東京都の協力を得て府中事業場において府中市と共催で「NEC府中の環境報告書を読む会」をおこなうなど、地域住民との対話・理解を深めるためにも用いられています。

興味深い動きとして、より幅広い利害関係者と率直な意見交換をすることを目的に、異業種の企業が共同で環境報告書を読む会を開催する例があります。

2001年12月に、サントリーと松下電器は、「環境報告書を読む会」をはじめて共同開催しました。それぞれの環境報告書を制作担当者が解説し、利害関係者から直接質問や意見をもらい、双方向コミュニケーションを深める試みです。2002年には、トヨタ、リコー、エプソンなども実施しています。

2003年2月には、損害保険ジャパンと日産自動車が「環境・社会レポートを読む+質問する -発行者との協働ワークショップ-」を共同開催する予定です。非製造業と製造業のサスティナビリティ・レポートを読み比べてもらい、率直な意見を得ることがねらいです。

また、発行企業数の増加や、その利用法の広がりのみならず、報告書そのものの方向性も大きく変化しています。特にこの1-2年、「サステナビリティ報告書」へ向かう動きが明確になってきました。サステナビリティ報告書とは、環境だけでなく、経済や社会責任も含め、より広範な概念で、企業の持続可能性を定義し、これをステークホルダーに情報開示するための媒体です。

環境報告書ネットワークが2002年6月に実施した企業意識調査によると、回答企業の3分の1は「サステナビリティ報告書をすでに発行している」と答え、「計画中」「検討中」とした企業も4分の1以上ありました。

2002年秋には、国際的なサステナビリティ・レポーティングのガイドラインであるグローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)ガイドラインの日本への普及、および日本からの提言発信を目的とするGRI日本フォーラムが設立されました。
http://www.sustainability-fj.org/

このように、日本では、環境報告書をめぐってとても活発な活動が展開されています。JFSでは、今後とも新しい動きをお伝えしていきます。

また、世界の方々がいろいろな日本企業の環境報告書を読めるよう、日本企業の英語版環境報告書のリンク集を構築中です。お楽しみに!

English  

 


 

このページの先頭へ