ニュースレター

2008年07月01日

 

自治体の温暖化への取り組み - その目標と手法

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JFS ニュースレター No.70 (2008年6月号)
シリーズ:地方自治体の取り組み 第21回

日本の温室効果ガス排出量は増加傾向にあり、2006年には1990年比6.4%増となっています。京都議定書で約束した「マイナス6%」の達成には12%以上の削減が必要なのです。

この分野で何年も活動をしてきて、「地方自治体こそが日本の温暖化対策をリードする!」との思いを強くしています。思い切った目標を掲げ、その実現に向けてしっかり動き始めているところが出てきているからです。

このような地方自治体への期待から、地方自治体の温暖化対策についてその目標と政策に焦点を当てて、3月に調査をおこないました(有限会社イーズ実施)。まずは現状把握のために、90年(基準年)と比較して、都道府県別にどれだけ排出量の増加率に幅があるかのランキングを作成しまし。また、将来の削減目標と独自の政策については、ウェブ検索をベースに、47都道府県17政令指定都市34県庁所在地(政令都市以外)については自治体への郵送によるアンケート調査もおこないました。
(調査結果は、こちらからダウンロードできます:http://daily-ondanka.com/

この調査から、思い切った目標を設定し、取り組みを進めている自治体を紹介しましょう。

まず、2010年という短期目標を見てみると、
静岡市「温室効果ガスを2010年度に90年度比マイナス37%」
名古屋市「温室効果ガスと二酸化炭素を、2010年度に90年度比マイナス10%」京都市「温室効果ガスを2010年度に90年度比マイナス10%」
大阪市「温室効果ガスを2010年度に90年度比マイナス7%」
堺市「二酸化炭素を2010年度に90年度比マイナス8%」など。

意欲的な長期目標を掲げている自治体もあります。
柏市「温室効果ガスを2030年度に2000年度比マイナス25%以上」
千代田区「二酸化炭素を2020年度に90年度比マイナス25%」
横浜市「市民1人当たり温室効果ガスを2025年に2004年比マイナス30%以上、2050年に2004年比マイナス60%以上」
広島市「温室効果ガスを2030年度に90年度比マイナス50%、2050年度に90年度比マイナス70%」

現在の地球が吸収できる二酸化炭素は31億トン/年といわれており、化石燃料の燃焼で人間が排出している二酸化炭素は72億トン/年です。人間の排出量を自然の吸収量の範囲内に抑えるには、世界全体で60-70%の削減が必要ですが、横浜市や広島市は、その線に沿った削減目標を立てているのです。

高い目標設定だけでは、実際の排出削減にはつながりませんが、高い目標を設定している自治体の多くが、啓発やモデル事業にとどまらず、具体的な排出削減・脱温暖化に結びつく工夫をこらした政策をおこなっています。政策は、「1.脱温暖化行動へのインセンティブの付与」「2.各主体間のパートナーシップ構築」「3.規制的手法による実効性の担保」という3つのカテゴリーに分けることができます。

「1.脱温暖化行動へのインセンティブの付与」の例として、環境配慮行動や省エネなどを行った個人やグループに、その達成度合いに応じてポイントや景品等を付与する仕組みを構築しているところがあります。

たとえば、名古屋市では「はじめよう! つづけよう! EXPOエコマネー」:「レジ袋を断る」「公共交通機関を利用する」などの環境にやさしい行動をした人にエコマネーというポイントを付与しています。貯まったポイントに応じてエコ商品と交換したり植樹に寄付できます。

筑後市の「省エネ生活支援事業」は、1グループ(3世帯)で電気使用量を前年同月比-5%以上削減した場合、削減率に応じて地元商店街の商品券等をプレゼントするというものです。香川県では、10世帯以上のグループまたは団体が自主的に参加し、8月の1ヶ月の電力消費量を前年比6%以上削減で図書カード、優秀な団体には公共交通機関ICカードを贈呈するという「夏のエコチャレンジ」を、三重県でも家庭での電気の使用量を減らすなどの省エネ行動によって協賛企業からの特典が受けられる「みえのエコポイント」制度をおこなっています。

宇部市では、市立小中学校で省エネ行動によって節減された光熱水費等の一部を実施校に還元する「フィフティ・フィフティ事業」をおこなっており、2007年度は約880万円が節約されたとのこと。

また、国ではやっていませんが、再生可能エネルギーによる発電の「買い取り補助」的政策を独自に進めている自治体もあります。佐賀県では、「太陽光発電トップランナー推進事業として、自家消費分1kWhあたり40円を支払い、グリーン電力の「環境価値」を県が買い取っています。日本では、電力会社による太陽光発電の余剰電力買取による環境価値は約10-15円のため、環境価値を高く評価していることが特徴です。滋賀県でも、売電量に応じて、1年目は10円/kWh、2年目は7円/kWh、3年目は5円/kWhを支払う「太陽光発電設置促進モデル推進事業」を実施しています。

「2.各主体間のパートナーシップを構築している例」としては、掛川市が「市民力による環境ISO支援事業」をおこなっています。これは、環境ISOなどの環境配慮行動を実施する、または実施する予定のある事業所へ、市が専門知識を持ったボランティアを紹介し、より少ない負担での環境配慮の取り組みを支援するものです。これまで認証取得のコストがハードルとなっていた中小の事業所にも、環境配慮への取り組みが広がることが期待されています。

宇部市では、宇部市地球温暖化対策ネットワークというパートナーシップ組織が主体となって、地元電器商組合およびFM局と「地域連携による省エネ電球促進事業」に取り組んでいます。電器商組合の加盟店で、省エネ電球を購入すると50%割引で購入できるというもので、マスコミによる広報と地元電器店の経済メリット提供により、電球から省エネ電球という実行性ある温暖化対策の広がりが期待されています。

和歌山県や高知県では、企業パートナーが労働または資金を提供することで森林整備を行い、県がそれによる二酸化炭素吸収の証書を発行する取り組みを進めています。高知県では、アーティストとのコラボレーションによって、高い広報効果も期待されています。

東京都新宿区は伊那市と、新宿区が伊那市の森林を整備することで新宿区の二酸化炭素排出削減とする協定「長野県伊那市の森林整備によるカーボンオフセット」を結びました。これは自治体間のカーボンオフセットの取り組みとも捉えられ、自治体の異なる資源を共有することで、お互いに負担少なく二酸化炭素を削減できる可能性があります(2008年2月協定締結、2009年度より本格実施)。

「3.規制的手法による実効性の担保」の例としては、京都府の「計画書制度」「エコマイスター設置」があります。これは、大規模排出を行う事業者や大規模建築主に、削減計画の策定と提出を義務付け、家電販売店や自動車販売業者などに「エコマイスター」の設置を義務付けるものです。

また、東京都では、2020年に2000年比マイナス25%という目標に掲げ、その達成には計画書制度だけではなく、より踏み込んだ取り組みが必要だとして、2010年にキャップ&トレード型の排出量取引制度を導入する方向で準備を進めています。

また、意欲的な長期目標を掲げる広島市では、「市民参加型排出量取引制度」を導入する予定です。「2030年度に90年度比マイナス50%、2050年度に90年度比マイナス70%」という目標の達成に向けて、計画書制度と、それを事業者の排出枠(キャップ)の設定に生かした排出量取引の仕組みを2009年度に導入する予定です。これは、市民が削減したCO2排出量を第3者機関が買い取り、排出量取引市場を通じて、大規模事業者に販売するという新しい試みで、規制によって市場を創り出し、大規模事業者のみならず市民をも温暖化対策に関与させようという意欲的な取り組みといえるでしょう。

日本政府では、福田総理の肝いりで設置された「地球温暖化問題に関する懇談会」に「環境モデル都市」の分科会を設けました。先進的な取り組みを進める10ほどの都市を選んで、モデル都市として支援し、日本の低炭素社会づくりをリードしてほしいと考えています。

市民にいちばん近い地方自治体の野心的な目標と既成概念を超えた新しい取り組みに、大きな期待が寄せられています。


(枝廣淳子)

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