ニュースレター

2008年08月01日

 

低炭素社会日本へ向けて:2050年までに温室効果ガスを60-80%削減

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JFS ニュースレター No.71 (2008年7月号)

『国際社会の努力で炭素の排出もようやく地球の吸収力の範囲内に収まり、温暖化の脅威は事実上消散している。未来世代へ安心して地球を引き渡すことができる安堵感で満ちている。

人々の生活を見ると、地産地消が広がり、将来の食糧への不安もやわらいでいる。再生可能エネルギーが飛躍的に利用され、エネルギーの安全保障に関する心配も遠のいている。リサイクルが徹底的に実施され、住居も最高の省エネが実現され、生活空間も快適そのものである。どこでも電車・バス・LRTなどの公共交通や、化石燃料に頼らない自動車が走り、多くの人々が自転車を安全に利用している。

長い間苦労してきた日本の農村や漁村、山村にも活気がよみがえり、人々に笑顔が戻っている。地方と都会との間にもお金や人の交流が盛んだ。日本列島が本当に一体となったようである。そして、世界にもかつてない連帯感が広がっている。文字通り宇宙船地球号の乗組員になったのである。

孫の世代に、「大変だったと思うけど、よくやってくれたね。ありがとう」と言ってもらえるか、「なぜ、わかっていたのにやってくれなかったの? 私たちより大切で優先すべきものって、何だったの?」と問いただされることになるのか。その選択肢は、いま私たち一人ひとりの手の中にある。

こうした理想を実現すべく、私たちは今こそ動くべきである。』

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洞爺湖でのG8サミットに対して、日本のマスコミ・NGOなどは、「長期目標にしっかり合意できず、中期目標も出せなかったのは遺憾」「しかし、米国へのねばり強い働きかけのおかげで、最悪の事態は避けられた」といった評価を下しています。

福田総理はこの洞爺湖サミットで議長国としてのリーダーシップをとるため、足元をしっかり固めるべく、サミットの1ヶ月前の6月9日に、「2050年に60-80%削減」を掲げた「福田ビジョン」を発表しました。

この福田ビジョンに至るプロセスの一つとして、今年の2月に総理直轄の「地球温暖化に関する懇談会」を招聘し、学術界・シンクタンク・産業界の代表など12名の委員が福田総理とともに5回の議論を行ってきました。冒頭の文章は、この懇談会が最終的に総理に提出した提言の最後の部分です。

日本でのこの種の委員会にNGO代表が選ばれることは珍しい中、私(JFS共同代表:枝廣淳子)も委員に選ばれ、議論に参加しました。通常、提言や報告書は事務局(政府役人)が素案を作るそうですが、私が「有志で作りませんか?」と呼びかけ、有志で草案を作りました。そのため、こういう委員会の提言としては異色のものとなったようです。

提言の全文はこちらにありますので、ぜひよろしかったら読んでみてください。地球温暖化問題に関する懇談会提言 -「低炭素社会・日本」をめざして-
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai05/05siryou1.pdf

「この提言を今後の行動指針にしていく」と総理も述べたように、しっかりした認識と今後の方向性を打ち出したものになっています。全体の構成と部分的な抜粋を紹介します。

1.私たちはどのような時代に生きているのか

このまま手を打たずに温暖化の進行を許し、使えば使うほど減っていく資源や化石エネルギーへの依存を続けるならば、未来世代を危機的状況に追いやることになる。そうではなく、今行動を起こせば、現代世代も未来世代も幸せな暮らしを営むことができる。私たちは今大きな分岐点に立っている。

2.目指すべき低炭素社会とはどのような姿か

一言でいえば「私たちの出すCO2量が、地球が自然に吸収できる範囲内に収まり、私たちが一層豊かな暮らしを送っている」社会である。

換言すれば、温室効果ガスの大部分を占める二酸化炭素を大量に排出する経済活動や生活様式と決別し、だれもが自らの二酸化炭素の排出に責任を持ち、世界的なエネルギー需給問題が緩和される持続可能な社会こそが人類の望む低炭素社会である。

3.世界が共有すべきもの

低炭素社会の実現には温室効果ガスの大幅な排出削減が必須である。そのために世界は大きな削減目標を掲げなければならない。その中で生まれたのが「2050年、世界で排出量半減」である。

4.日本の決意

日本は2050年までの長期目標として、総理が表明されたように、現状から60-80%の削減を目指すとともに、その実現に向けて、計画に基づき、革新的な技術開発を着実に実行していくことが必要である。中期目標も、公平で実効性のあるものとするため、セクター別の積み上げ方式を用いつつ志の高いものとしなければならない。

5.低炭素社会づくりに向けた基本的な考え方

もとより、温暖化問題は単なる炭素政策に限られる問題ではない。それは環境、資源、エネルギー、食糧、水、未来産業を含む産業構造など、日本の経済・社会の基盤に関わる問題である。すなわち、この問題を考えることは、21世紀の日本のあり方、新しい国づくりを考えることである。

低炭素社会への移行には、新しく膨大な社会的コストがかかることも想定される。この新たなコストは、もっぱら産業界のみが負担するのではなく、広く国民レベルにおいても応分の負担をする日本らしい制度設計が考慮されるべきである。

国民も、目指す低炭素社会は日ごろ慣れ親しんだ暮らしの延長線上にはないことをよく認識しなければならない。移行過程で発生するライフスタイルの変化を皆で受け入れる覚悟が求められることになる。

6.低炭素社会の実現を目指して

(1)「技術」、「エネルギー」、「資金」、「社会」:それぞれのイノベーション
1. 技術のイノベーション
2. エネルギーのイノベーション
3. 資金のイノベーション
4. 社会のイノベーション

その際、重要となるのが「炭素への価格付け」である。社会のあらゆる構成員に低炭素社会づくりに協力してもらうには、動機付けのための「しくみづくり」、すなわち多くの国民や企業にとって、これまで「タダ」と思ってきた炭素排出がこれからは環境コストとして掛かってくることを理解してもらうしくみが必要となってくる。それは新たに生まれる炭素コストが商品やサービスの価格の中に含まれることを意味する。この炭素コストの負担を通じて、自ら排出する炭素に自ら責任を果たすことが求められるのである。

(2)低炭素社会づくりに向けたそれぞれの取組

1. 国の取組
2. 地域の取組
(ア)環境モデル都市
(イ)農漁業や森林の果たす役割
3. 企業、家庭、個人の取組

企業や家庭や個人は、ビジネススタイル、ライフスタイルを低炭素社会に合うように変えていくことが求められる。「もったいない」を形にし、エネルギーや資源の消費を、「減らして」「換えて」「オフセット」することが大切である。そのためには、こまめな省エネに加え、ITの積極的な活用、公共交通機関やカーシェアリングの利用、リデュース・リユース・リサイクルといった3Rの推進、太陽光パネルの設置やグリーン証書の活用など、一人ひとりの知恵と工夫で様々な努力が必要となる。

7.国民の意識改革と政治の責任

低炭素社会への移行には、国民の意識改革が不可欠である。「有限な地球の限界と折り合いをつけながら生きていく」という原則の下、必要な社会の変革や暮らしの変化を受け入れる新しい意識が必要となる。

低炭素社会への道筋をつくるのは政治の責任である。国や国民や企業がどこを向いて動けばいいのか、その方向をはっきりと示すのが政治の役割である。そうなれば皆が安心して行動を起こせるからである。一年後に政策が変わるのであれば、誰も真剣に取り組まない。

国民に夢を与えるのも政治の責任である。社会に活力を与えるのも政治の大切な役割である。


(枝廣淳子)

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