ニュースレター

2015年06月30日

 

違法伐採問題に対する取組の意義と課題 ― 日本を含むすべての森林の森林管理のガバナンスにも関連して

Keywords:  ニュースレター  政策・制度  生態系・生物多様性 

 

JFS ニュースレター No.154 (2015年6月号)

写真:違法伐採の材木
イメージ画像: Photo by Maky Some Rights Reserved.

1980年代に地球規模での熱帯林の減少が懸念されるようになってから、木材輸入国では、違法伐採をなくし森林を適切に管理するための、木材輸入・調達の枠組み作りに取り組んでいます。今回のニュースレターでは、一般社団法人ウッドマイルズフォーラム理事長・藤原敬氏の快諾を得て、「森林技術」No. 876(2015年3月発行)に掲載された、「違法伐採問題に対する取組の意義と課題―日本を含むすべての森林の森林管理のガバナンスにも関連して-」より、違法伐採問題への日本の対応についてお伝えします。


はじめに

日本政府が国際的な違法伐採問題に対処するため、2006(平成18)年に、調達する木材製品や建築部材に合法性が証明されたものを優先調達することを決め、その証明のために、林野庁が「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」(以下、林野庁ガイドラインという)を発表してから来年の2月で10年となります。

11,000を超える事業者が参画し運用している林野庁ガイドラインによる合法性証明のシステムは、「Gohowood」として海外でも知られています。違法伐採に対する対応は米国やEUなどでも進展しており、日本の取組との比較をされる機会が多くなっています。このシステムの運営に当初からかかわっていた筆者としては、本稿で、グローバルな視野で現時点での日本のシステムの意義と課題について議論し、10周年という時点でこの大切なシステムに、あらたな地平が開かれることを期待するものです。

違法伐採問題対応の背景

1980年代に地球規模の熱帯林の減少が明らかになり、森林の管理が地球環境問題として意識されるようになったことを背景に、1992年リオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット)では国際森林条約の合意が模索されましたが、途上国の反対によって実現しませんでした。この問題は途上国を巻き込んだ地球環境のフレームワークづくりという困難な課題ですが、その後、政府間の協議や市場と通じた取組など官民にわたる様々な努力が行われています。

森林管理の義務と支援を直接対象とした国際約束をめざした国際森林条約の不調を背景に、市場を通じたアプローチが1つの方向性を示すものとなりました。

熱帯木材のボイコット運動などを主導していた環境NGOと産業界が中心となって、FSC、PEFCなど適切な森林管理の確保を、サプライチェーンの管理を通じて実施する動きが広がりました。このような,消費国の民間ベースの取組に対して、消費国の政府ベースの市場を通じた取組が違法伐採問題の取組といえます。

政府による違法伐採対策の展開

先進国間の経済政策の調整を図る場として始まった先進国サミットは、1980年代後半から環境政策が重要な位置づけを与えられ、地球サミットに向けて国際森林条約の提言をしたのは前述のとおりですが、この中で、2005年のグレンイーグルスサミットでは環境関係の行動計画の中で「違法伐採に取り組むことが森林の持続可能な経営に向けた重要な一歩であることに合意する。この問題に効果的に対処するためには、木材生産国及び消費国双方の行動が重要である」とされました。

1.日本政府の取組
これを受けて日本としては、翌年にグリーン購入法による合法性が証明された木材の優先購入、その証明のための林野庁ガイドラインの発出という措置が取られました。

ガイドラインでは、1)森林認証制度及びCoC認証制度を活用、2)森林・林業・木材産業関係団体の認定を得て事業者が実施、3)個別企業等の独自の取組、と3種類の証明方法が例示されていますが、2)がオリジナルで大きな役割を果たしました。150を超える団体が11,000社を超える事業者を認定し、全国どこでも合法性が証明された木材を供給する体制がとられています。

2.米国の取組
その後、米国は2008年「レーシー法」を改正し、違法伐採問題に対応しました。

1)外国法に違反して捕獲、所持、搬送または販売された木材製品を輸入、輸出、搬送、販売、受領または購入することが違法とされ(3372条・違法行為(a)(2))、2)知りながら故意に、ないし知るのに必要な注意を払うべきもので1)を行ったものには刑事罰(罰金)が科せられる(3373条・罰則及び制裁(d)刑事罰)、没収される(3374条・没収)、3)輸入時に、輸入品に含まれる一切の植物の学名、輸入品の量と価格、伐採された国名の申告義務が生じる、こととなりました。

3.EUの取組
EUは2003年より森林法の施行強化などに関する二国間合意を途上国との間で求めてきましたが、その対策を強化する意味で、2013年より「EU木材規則」を成立施行さています。

本規則により、1)違法に伐採された木材や違法伐採木材を用いた製品のEU市場への出荷が禁止される(第4条1項)、2)EU市場に最初に木材製品を出荷するEU内の取引業者に対し、「デューディリジェンス(適切な注意)」を行使するよう義務付け(同2項)、3)域内取引業者は自社の供給業者および顧客について記録し保管する(第5条)ことが規定されました。

緑のサプライチェーン管理

原材料の供給者から最終需要者に至る全過程の個々の業務プロセスを1つのビジネスプロセスとしてとらえ戦略的な経営の基礎とする「サプライチェーンマネジメント」の発展形として、環境サプライチェーンマネジメントが提唱され、サプライチェーンを通じた原料採取地点から始まる環境情報を需要者・消費者に伝達する役割を果たしています。

木材のサプライチェーン管理による森林管理のガバナンス確保のアプローチもこの一形態といえます。天然資源の採取地点の社会問題をサプライチェーンの管理を通じて解決しようという取組は、紛争ダイヤモンド、紛争鉱物、認証水産物など幅広く行われていますが、多くの場合サプライチェーン管理の効率性はサプライチェーンの中心にいる大企業の社会的責任に依存しています。その点、「森林から木材製品」のサプライチェーンは中小の数多い事業者によって、きめ細かなネットワークに依っていることが多く、管理のための工夫が必要です。

この点で、森林認証は比較的規模の大きな企業に依拠して信頼性を担保し、その上下のサプライチェーンに管理を拡大する形になっていますが、北欧や北米のようにグローバル企業が市場をカバーしている地域は別にして、この手法が中小企業主体の市場全体をカバーするにはコストの障害があります。レーシー法やEU木材規則などの手法はサプライチェーンの中で国境を超える時点で関係者に注意義務を課し、罰則を科するという手法をとっています。

国境を超える貿易は比較的規模の大きな企業によって担われていること、ネットワークの公的管理に既存の通関手続きを効率的に利用することができるという点で、合理性をもっています。信頼性の根拠に罰則規定を組み入れるためには、輸入過程の管理は必須の条件と考えられるでしょう。ただし、この手法は、例えばEU域内に流通する木材製品の管理のように、国境を超えない多数の木材製品の管理をする機能はもちません。

日本のガイドラインはこれに対して、中小企業が中心となったネットワークの信頼性を、「業界団体の社会的責任」においてカバーしようという意味合いをもったものです。それぞれの特質を考えて組み合わせて展開することが必要でしょう。

我が国の森林管理と林野庁ガイドライン

2001年、06年、11年と3回の森林・林業基本計画で違法伐採についての記載の内容を比較すると、前2回では、「国際的な協調及び貢献」、「林産物の輸入に関する措置」といった国際問題としてのみ記載されていましたが、現行計画では、「適切な森林施業の確保」という国内森林のガバナンスに関連する文脈で「伐採に係る手続が適正になされた木材の証明等の普及を図り、適切な森林施業の推進に資する」と記載されていることが特徴です。

途上国、先進国を含めた「すべての森林」のガバナンス強化は、すべての国の抱える課題ですが、林野庁ガイドラインが、行政と業界、市民(消費者)が一体となって森林施業のガバナンス向上に取り組むツールとしての大切な役割をもっていることを提示しているものです。ガイドライン形成期では認識されていなかったこのシステムの普遍性や重要性が執行過程で認識されてきたということだと思います。

おわりに

ガイドラインが、このような役割を果たしていくためには、実施過程の自主的なモニタリング体制、制度の説明責任を果たすコントロールタワーの形成などのステップアップが必要です。また、そのためには、住宅政策などと協同した市場からの応援体制の確立が不可欠です。10周年という時期がこれらの課題に取り組む絶好の機会であり、日本が生み出したこの大切なツールがもう一段階成長し、グローバルな社会に広がっていくことを期待します。

一般社団法人ウッドマイルズフォーラム理事長 藤原敬

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