ニュースレター

2014年07月15日

 

「うどんからうどんを作る」「うどんでうどんを茹でる」 ~ うどんまるごと循環プロジェクト

Keywords:  ニュースレター  3R・廃棄物  再生可能エネルギー  食糧 

 

JFS ニュースレター No.142 (2014年6月号)

四国に位置する香川県は、「うどん」がとても有名です。県民1人あたりの年間うどん消費量は230玉といわれるほど、地元でも毎日のようによく食べます。香川県内にさぬきうどんを食べさせる店は800軒以上あるといわれ、おいしいうどんを食べに、全国から人がやってきます。

一方で、「客を待たせずにおいしいうどんを提供したい」「讃岐うどんはコシが命で、時間を置いたうどんは出さない」「工場でうどんを製造する工程で、切れ端などの部分が出てしまう」などの理由から、廃棄うどんの量も多く、年間3,000トン以上ものうどんが廃棄されています。

うどん店から日々捨てられているうどんを、厄介な生ごみとして廃棄処分するのではなく、循環サイクルの環の中に組み入れてリサイクルすることで、さぬきうどん店から廃棄物を減らし、持続可能な循環型社会のシステム・モデルを構築しようという素敵な取り組みをご紹介します。

NPOグリーンコンシューマー高松の代表である勝浦敬子さんが呼びかけ、「もったいない」を合言葉に、NPOや企業、行政、ボランティアなどが関わる「うどんまるごと循環コンソーシアム」が2012年1月に結成されました。産学民官の協働プロジェクト「うどんまるごと循環プロジェクト」の立ち上げです。

このプロジェクトの設立までに、大きく2つの流れがありました。1つは2009年から、高松市の産業機械メーカー「ちよだ製作所」が、産業技術総合研究所四国センターや香川県産業技術センター食品研究所と共同で、冷凍うどん工場から出る残渣の活用を検討し、研究を進めてきたことです。2011年には、廃棄うどんからバイオエタノールを製造するプラントを開発し、その後改良を重ね、2012年に、NEDOの補助を得て現在のプラントができました。プラントは、バイオエタノール発酵装置、蒸留塔およびメタン発酵槽、メタンガス発電設備等を組み合わせたもので、1,500kgの廃棄うどんから、200リットルのバイオエタノールが生成できます。

もう1つの流れは、環境団体「NPOグリーンコンシューマー高松」が、従前からうどん店や飲食店から出る割りばしのリサイクルをしており、その割りばしを和紙やパーティクルボードに再生するという活動をしていたことです。この2つの流れに、他のNPOや高松市、大学教授、ボランティア等の方々が集まり、うどんまるごと循環コンソーシアムが結成されたのでした。

同プロジェクトは、廃棄処分されるうどんを「資源」として有効活用するとともに、新しい協働の循環型社会づくりをめざして活動を始めました。また、「うどんをまるごと循環させる」ことを通じて、化石燃料の代替燃料としてバイオマスエネルギーを利用し、地球温暖化防止にも貢献したいと考えています。

当初は、うどん残渣でバイオエタノールを作り、うどんを茹でる燃料として活用したり、うどんから出来た液肥でうどんに添えるネギを栽培するなどの取り組みを行ってきました。さらに立ち上げから1年半後の2013年7月からは、うどんまるごと循環プロジェクトIIとして、「うどん県。さぬき油電化プロジェクト」を展開してきました。廃棄うどんで作ったバイオガスで発電し、その電力を売って採算性を向上させるという試みです。

このように、「うどんからうどんを作る」「うどんでうどんを茹でる」を合言葉に、「うどん残渣からバイオエタノールを生み出して、うどん店でうどんを茹でる」「うどん残渣からのバイオガスでうどん発電を行う」「さらに、そこで出た残渣を液肥にして小麦畑の栽培に使って、うどんを作る」という、うどんまるごとの循環を創り出したのです。

このプロジェクトが素晴らしいのは、さまざまな企業、NPO、大学、行政等が参画・協働して進めていることです。主なプレーヤーとその役割分担としては、

  1. 中心となる「ちよだ製作所」は、バイオエタノールやバイオガス、液肥の製造、プラントの運営管理
  2. うどん製造工場や店舗を有する「さぬき麺業」は、うどんの廃棄や分別、エコツアーなどでの手打ち体験など
  3. 「NPOグリーンコンシューマー高松」は、環境教育
  4. もう一つのNPO「Peace of New Earth実行委員会」は、事務局業務や企画運営など
  5. 高松市は、廃棄物行政ヘのアドバイスや高松市主催の「ストップ!地球温暖化展」への協力など
  6. 2013年から正式に参画した香川県は、2014年度から本格的に全県的な環境教育での普及啓発(DVDや冊子の制作や小中学校への全校配布)
  7. ボランティアの皆さん

などで、それぞれの得意分野で活動しています。また、プロジェクトのメンバー以外でも、農家、福祉施設、県農業試験場、大学教授や大学生など、多方面の人々の協力があるそうです。

この取り組みを、ひろく県民に知ってもらおうと、うどん残渣からできる「うどん液肥」を使っての教育など、小中学生への環境教育や食育の分野での普及啓発にも力を入れています。3年後には、香川県下のほとんどの小中学校でこのような授業を実施して、香川県の誇るさぬきうどんがどのように循環して生まれ変わるのか、また、食品廃棄物をエネルギーに変えていくという意識の醸成を図りたいと考えています。

「Peace of New Earth 実行委員会」の代表で「うどんまるごと循環コンソーシアム」の事務局長を務める久米紳介さんに、さまざまなプレーヤーによるコラボレーションの苦労について尋ねたところ、「立ち上げ当時はプロジェクトの趣旨がなかなか浸透せず、議論が噛み合わないこともありましたが、運営委員会や専門部会などで合意形成を図るうちに統一感が出てきました。これまでのところは合意形成が上手くいっている方だと思いますが、その理由として、プロジェクト結成前から割りばしプロジェクトなどで、ある程度の信頼関係が醸成されていたことが現在の活動の円滑化につながっていると考えられます」。

「例えば企業であればうどん発電や廃棄物のリサイクルといった側面、NPOや行政であれば環境教育や農業、食育といった側面、香川県独自のうどん文化と環境の融合など、それぞれの方に応じた面からアプローチできるようになっています」とのことで、協働型プロジェクトが、多くの人々に伝え広げていく上での強みになっていることがわかります。

ちよだ製作所のプラント見学に訪れる人は年間数百人規模に上っており、同プロジェクトが主催するエコツアーにも多くの参加者が集まります。2014年度からは、太陽光発電のうどん県電力や間伐材ボイラーを設置している事業者らとエコツアーを行い、「香川県を"環境の聖地"にしてしまおう!」という企画を連携して進めているそうです。

また、香川県下の数か所にプラントを設置してうどんまるごと循環プロジェクトを進めたり、うどん以外の食品廃棄物についても多くをエネルギーに変えていけるような未来にしたい、将来的には、香川県では「うどんはエネルギー・資源である」「うどんは環境にやさしい」「香川県は環境先進地」といったビジョンを一般市民と共有できたら、と考えているそうです。今後のさらなる展開を楽しみにしています!

(スタッフライター 飯島和子、枝廣淳子)

English  

 


 

このページの先頭へ