ニュースレター

2011年03月22日

 

「つなぐ」役割を生かして社会に貢献する ~ 株式会社 電通

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JFS ニュースレター No.99 (2010年11月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第97回
http://www.dentsu.co.jp/


2010年10月に名古屋で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)。ここに向けて環境省と協力し、生物多様性の普及・啓発に向けたコミュニケーション支援をしてきたのが、国内最大手の広告会社・電通です。生物多様性を端的にわかりやすく表現する標語「地球のいのち、つないでいこう」の考案や、COP10のロゴマークの制作などを通して、メディアに働きかけながら国内の動きを盛り上げてきました。

電通の創業は、まさに20世紀が幕を開けた1901年に遡ります。日清戦争の従軍記者だった光永星郎氏は、「素早く不偏不党の報道」を志し、日本広告株式会社を創設。通信社の経営基盤を強固にしようと広告業を立ち上げ、新聞社に広告とニュースを提供したのが始まりです。

その後110年、現在では従業員6,724名を擁し、「Good Innovation.」をスローガンに、6,000社以上のクライアントの経営課題・事業課題の解決から、マーケティング・コミュニケーションの実施まで、多岐にわたるコミュニケーション関連の統合的ソリューションの提供とコンサルティングを主要な事業分野としています。


高まるソーシャル・コミュニケーションのニーズ

クライアントの数では日本一といわれる電通では、さまざまな業界の企業のブランディングに携わる一方で、公共性の高い広告やコンテンツの企画制作、キャンペーンの企画立案、戦略立案に携わる事業も増えてきました。環境問題だけでなく、国際貢献や地域活性化など、あらゆる社会課題を扱うコミュニケーションへのニーズが高まってきたのです。そこで2009年4月、公共分野に特化したコミュニケーションの専門プランニング・ユニット「電通ソーシャル・デザイン・エンジン」の活動を開始しました。広告クリエーター、戦略プランナー、プロデューサーなど、この分野に強い従業員をこのタスクフォースに結集し、効果的な企画提案をワンストップで行いやすい体制を整えました。

同ユニットのスタッフがこれまで手がけたプロジェクトには、前述の生物多様性以外にも次のようなものがあります。途上国の飢餓と先進国の肥満・生活習慣病の解消に同時に取り組む「TABLE FOR TWO」の活動支援、先進国でもずば抜けて低い食料自給率を高める「FOOD ACTION NIPPON」(農林水産省)、子どもを病気から守る「世界手洗いの日」プロジェクト(日本ユニセフ協会)などです。NGO/NPOや国際機関、各種行政機関などとも積極的に連携し、「ソーシャル・コミュニケーション」へのニーズの高まりに応えようとしているのです。

JFS関連記事:
食料問題に取り組み世界を健康に ~ TABLE FOR TWO
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日本の食料自給率――現状と向上のための各地の取り組み
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/030004.html

幅広いクライアントに環境・社会問題の解決を目指したコミュニケーションを提案するには、まず社員の意識を高める必要があることは言うまでもありません。環境問題に関してそうした契機となったのが、グループ全体の環境戦略を推進するために2008年7月に設置された「環境戦略会議」です。

ビジネス推進局ECOプロジェクト事務局長の鎌倉雅さんは、「とにかくトップが熱心に語ることで、会社全体の空気が着実に変わってきました」と、この数年の変化を振り返ります。「『環境をネタに稼いでいる』と見られかねない業態だけに、社員一人ひとりの意識を高め、企業市民として襟を正して取り組もうと社長も常々言っています。そうすることで初めてクライアントのお手伝いができるということです」

さらに同年11月には、その取り組みを「エコ・ファーストの約束」として環境大臣に提出し、「エコ・ファースト企業」に認定されました。この「約束」の骨子は、地球温暖化防止と循環型社会形成に向けた取り組み、そして環境ソーシャル・コミュニケーションの3点です。なかでも、コミュニケーション関連の統合的ソリューションをビジネスの中核に据える電通にとって、力を入れているのが環境ソーシャル・コミュニケーションです。

JFS関連記事:環境省と企業 環境への取り組みを約束「エコ・ファースト制度」
http://www.japanfs.org/ja/pages/028504.html


イベントを適正な環境コミュニケーションの場に

その一環として、2008年8月、イベント業務における環境マネジメント強化のチェックポイントを示す「DENTSU グリーンイベントガイド」を作成しました。CO2排出削減を中心とした環境配慮、できることから始められるアクションプログラム、PDCAの手順と環境配慮のポイントを示す、という3つの指針に基づき、各種イベントの企画・運営から終了後の環境負荷検証にいたるまで、フェーズごとに具体的な環境配慮のチェックポイントを示したものです。

「例えば、クライアント企業が工場の環境負荷低減にはとても気を配っていても、不慣れなイベント開催に関しては、環境配慮の基準をお持ちでないこともあります。その一方で、イベント型のコミュニケーションは不特定多数の目に留まるものですから、こういう場でどういう企業姿勢を示すかは、よくも悪くも大きな影響力があります」(鎌倉さん)

各クライアントに、このガイドを基にした環境配慮型のイベントを提案することで、イベント自体の環境負荷を低減するのはもちろん、イベントを通じて広く社会に対しても、環境に関する意識啓発・行動喚起のきっかけとなることをねらっています。

発行当初は、適宜新しい情報を加えて更新する予定で「Ver. 1.0」と銘打っていましたが、煩雑な更新は行っていません。具体的な状況はクライアントや現場ごとに違うため、このガイドでは基本的な考え方を示すだけで十分だと気づいたといいます。あとはそれぞれの担当者が、クライアントと話し合いながら、ベストなソリューションを探るしかありません。

実際、どんなに環境配慮をしたくても予算や会場の制約でできないこともあります。それでも、さまざまな手法を提案し、最大限検討した上でできない場合と、はじめから検討しなかった場合では、社会の受け取り方も変わってくるでしょう。「環境配慮型イベントの考え方を共有することは、適正な説明責任を果たすことにもつながるのです」と鎌倉さんは取り組みの意義を語ります。


「広告」の持つ力を生かす

一方、広告事業においても、環境配慮の視点を取り入れることがますます重要になってきました。そこで、2009年から「広告電通賞」に「環境広告賞」という部門を新設しています。

広告電通賞は、広告界の社会的・文化的水準の向上を目指して1947年に創設された、日本で最も歴史のある広告賞です。当初は新聞広告だけが対象でしたが、その後メディアの急激な発展と共に対象種目も次々に増え、現在では新聞、雑誌、ポスター、ラジオ、テレビ、セールスプロモーション、インターネット、ダイレクトの8種目41部門になっています。世界各国にも数多くの広告賞がありますが、これほど広い広告媒体を網羅した賞は多くないでしょう。そうした点でも、日本の広告界を代表する総合広告賞として高く評価されています。

第1回の環境広告賞には、大手総合電気メーカーの東芝による「一般白熱電球製造中止広告」が選ばれました。この広告は、同社発祥事業の一つとして120年間にわたり継続してきた一般白熱電球の製造を中止し、生産ラインをすべて廃止することを伝えるもの。同時に、白熱電球と比べてCO2排出の削減効果が期待されるLED電球の広がりを期待させるものとして、LED市場の拡大にも貢献したと見られています。

受賞企業からは「環境コミュニケーションの重要性を改めて再認識した」という声もあったといい、あえて「環境広告賞」という部門を設けることで、「伝える」ことを通して環境問題の課題解決に向けた動きを促す役割を果たしているようです。

電通総研グローバル・インサイト部長の渡邊竜介さんは、「電通の強みは、さまざまなメディアを通じて、クライアントと生活者を『つなぐ』こと」だと言います。「そのユニークなポジションをうまく活用して、企業のブランディング・サポートを通して、生活者には環境や社会によい消費行動の選択肢を提案していくことが、広告会社の真の社会貢献ではないでしょうか」

インターネットなどメディアが多様化し、環境に関する情報量も飛躍的に増えている今だからこそ、この「つなぐ」役割を担う電通の役割はますます大きくなっているといえるでしょう。コミュニケーションの力を最大限に発揮して、サステナブルな社会づくりに向けた機運を盛り上げてくれるよう期待しています。

(スタッフライター 小島和子)

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