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アジアが日本に期待すること―NGO活動を通じて見えてきた私たちの役割

ダイワJFS・青少年サステナビリティ・カレッジ 第4期・第6回講義録

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鈴木真里氏
アジア・コミュニティ・センター21事務局長、理事

企業調査会社、(特活)国際協力NGOセンター(JANIC)を経て、2005年4月よりアジア・コミュニティ・センター21(ACC21)。2001年よりアジア現地NGOへの資金助成を行う日本初の募金型公益信託「アジア・コミュニティ・トラスト」事務局を担当し、アジア各国で事業発掘調査、モニタリング、評価を行う。ほかにも、マイクロファイナンス普及、自然農業普及、カンボジア・コミュニティ幼稚園プロジェクトなどを担当。

◆講義録

私の所属する「アジア・コミュニティ・センター21」は、アジア地域で平和で公正かつ創造的な社会を実現するために、新しい「流れ」をつくり、市民社会の協働ネットワークを構築するというミッションを掲げているNGOだ。その一環として私たちが運営する「アジア・コミュニティ・トラスト(ACT)」の事業を中心に、アジアにおける日本の役割を考えてみたい。


公益信託という仕組みでアジアを支援

ACTとは、アジアの発展途上国に対する草の根レベルでの援助を目的として、1979年に設立された、日本で最初の募金型公益信託だ。公益信託とは、寄付金を信託銀行や銀行に信託し、その運用益または元本を社会貢献に役立てる制度である。現在日本には、500以上の公益信託があり、そのほとんどが奨学金など、日本国内を対象としたものが多い。国際協力などに使われている公益信託は非常に少ないのだが、ACTはその一つだ。

公益信託にもいくつか型があるが、ACTのような募金型(コミュニティ型)公益信託は、広く一般の方から寄付を募り、社会貢献のための活動を行う仕組みを取っている。例えば、鈴木さんという人が、「自分の名前で、親のいないベトナムの子どもの奨学金支援をしたい」と寄附を申し出れば、ACTの中に「鈴木国際協力基金」などという特別基金をつくることができる。ACTという大きな箱の中に、いくつもの特定基金が設定できる仕組みで、2009年12月末現在、20の基金がある。ACTではこれまで、開発や教育分野でアジア10カ国の400件以上の事業に総額3億7,000万円あまりを支援してきた。現在は、アジアの7カ国で現地のNGOを通して、18のプロジェクトに資金援助をしている。


社会企業化するアジアのNGO

実際に行われているプロジェクトを、フィリピンからいくつか紹介しよう。

フィリピン群島のちょうど中央にあるサマール島は、とても美しい島であると同時に、最も貧しい島の一つだともいわれている。第二次世界大戦当時、日本軍によって占領された歴史を持ち、日本とのかかわりが深い島でもある。かつて、天然資源の豊富だった島西部では、1970年代からダイナマイト漁法といわれる魚の乱獲などにより、漁獲高が激減した。さらに高地では、違法とされる焼き畑農業で環境破壊が進み、海沿いではマングローブ林の伐採により、自然と共生してきた多くの人々の暮らしに深刻な影響を与えている。

フィリピンの農民の大多数は小規模農民で、その生産性は低く、今なお多くの人が貧困状態に置かれている。その生産性を向上させるには、適正な農業技術の普及が必要だ。そこでACTでは、「農村技術開発センター(CRTD)」という施設を支援し、東京ドームおよそ2.5個分の広大なモデル農場で、農業従事者を対象にした適正技術支援や融資事業を支援してきた。

ここは、Philippine Business for Social Progress (PBSP)というフィリピンで最大規模のNGOのプロジェクトのプログラムの1つとして運営されている。こうしたNGOのスタッフには、社会学や開発学を学んできた比較的学歴が高い人たちが多い。彼ら自身は、貧困問題などの当事者ではなく、あくまで仲介者だ。私が10年近く見てきた中で、現在のNGOの限界と課題の一つはここにあるように思える。NGOがトレーニングを提供しても、それを当事者たちが職業として身につけることができるか、実践に移せるかは分からない。NGOがどこまでフォローできるかが非常に課題だと思う。

そうした課題を乗り越える手段としても有効と思える仕組みがマイクロファイナンスだ。融資を受けた人が、そのお金を元手にして、自分でビジネスを行い、元本を増やして返済に当てていくという仕組みだ。

ルソン島にある「農業農村開発センター(CARD)」は、ACTが設立の準備段階から携わった団体で、女性を対象にした融資機関、いわゆる銀行である。土地のない農民や貧困層向けに、さまざまな研修も行っており、今ではフィリピン最大の個人・零細企業向けの金融機関となっている。去年には女性顧客が100万人を突破した。

最近、アジアの現地NGOの中には、このようにソーシャル・アントレプレナー的な活動を行う人が増えている。最初は非営利のNGOとして活動していたものの、財政的にも持続可能に運営をするため、ビジネスに非常に近い手法で事業を拡大させていっている団体・機関が数多くある。


住民組織との連携がカギ

ここで改めてNGOの役割を考えてみたい。日本国内か途上国かにかかわらず、NGOの役割というのは、住民のニーズを正確に吸い上げて、必要とされているリソースを、必要としている人々に行きわたされる仲介役であるべきだ。

日本には国際NGOが400~500団体くらいあるといわれており、7~8割ぐらいはアジアを対象地域として活動している。もちろんアジア各国にも現地のNGOが多数ある。あまり正確なデータはないが、フィリピンの場合は、開発問題にかかわっているNGOは3,000~5,000団体、インドネシアでは8,000団体ぐらい、カンボジアでも恐らく1,000団体を超えると言われている。インドのような大きな国では、万単位のNGOが活動していると思われる。

途上国のNGOは、政府や自治体に次ぐ公共サービスの提供者となっていることが多い。もっともNGOだけでは大きなことはできないため、現地のNGOのほとんどが、農民組合、信用組合、その他の自助グループなど、さまざまな地域の住民組織と連携して活動している。

イギリスのサセックス大学で開発学を教えていたロバート・チェンバース先生は、著書『第三世界の農村開発(Rural Development: Putting the Last First)』で、副題にあるとおり、途上国支援においては、主体となる人々を優先順位のトップに置くべきだと提言している。だが、その後の著書では、「Putting the First Last」というふうに、ちょっと順番を変えている。実は、優先順位の一番上に置かれていた人を後ろに持っていくことのほうが難しいことを物語っているのだ。

どんなプロジェクトにもさまざまな利害関係がある。例えば、農業技術を移転するプロジェクトがあったとする。住民を集めてニーズを聞く場合も、住民グループの代表だと名乗る人が、本当にほかのメンバーの希望を代弁しているのか、自分に有利な発言をしているだけではないのかなど、常に気を配らなければならない。その段階で間違ってしまうと、便益を受けるべき人に役に立たないプロジェクトになってしまうかもしれない。だからこそ、NGOと住民組織の連携が欠かせないのだ。


歴史を知り、未来を展望する

最後に、アジアの国々と向き合う仕事を通して、私がよく感じることをお伝えしたい。日本にもアイヌや琉球などの民族がいるわけだが、日常生活の中で私たち自身が民族を意識する場面は非常に少ないのではないか。しかし、アジアの多くの国々では、先住民族がいるのはもちろん、イスラム教徒やキリスト教徒など宗教も多様で、違う言語を話し、さまざまな多様性の中で共存している国がたくさんある。日本もアジアのメンバーとして、一緒に活動しようというときに、人々の多様性を認めることが必要だ。

そのためにもまず歴史を知ることだ。私もそうだが、日本の学校ではきちんと歴史を勉強してこなかった人も少なくないだろう。たとえばフィリピンの農村地域に行けば必ず戦争の話が出る。その話が戦争責任の問題云々ではなくても、自分が日本から来た、日本人であるということは事実である。過去の事実をきちんと認識してこそ、初めて現地の人たちとの対話が生まれ、未来を一緒に展望していくことができるのではないかと思う。

それと同時に、既存の概念や考え方に対する「なぜ?」という問いかけが必要だ。例えば、フィリピンのミンダナオ島で、キリスト教とイスラム教との間の紛争が時々ニュースになっているが、現地では「これは宗教戦争ではない」と言う人が非常に多い。先住民族が古来住んでいる地域の地下に、非常に豊かな鉱物資源があるのだが、それを政府や企業がねらって、先住民族を追い立て土地を収奪しようとしている、という見方だ。実際には非常に複雑な事情があるのがだが、メディアでは、民族間や宗教間の対立と単純化されて報じられてしまうこともある。

自分が見聞きした情報だけを鵜呑みにするのではなくて、「なぜそれが起こっているのか」という問いかけを常にすることによって、さまざまな問題に関心を持ち、自ら何かしら取り組める人が出てくることを期待している。


「私が考えるサステナブルな社会」

日本では、日常生活において民族の多様性や宗教、文化の違いを意識する場面は少ないかもしれませんが、アジアには、同じ国のなかで多様な民族、宗教、言語、文化を持ち、人々が共存している国がたくさんあります。日本がアジアの真のメンバーとなるには、多様性を認識し、共存していくための経験と理解を深めることが必要です。


「次世代へのメッセージ」

アジアの国々、人々と付き合っていくなかでは、過去に起きたこと(戦争)の話は必ず出てくるでしょう。過去の事実を自分なりに理解・認識し、他の国の人々の視点を学んでください。そして、ときには見聞きした情報を鵜呑みにせず、疑問を持つことも必要です。自らの意見を持ち、行動を起こせる人になってほしいと思います。


◆受講生の講義レポートから

「アジアで活動するときには、戦時中からの反日感情もあり、文化的・歴史的に受け入れられるのか、ということが重要なポイントで、プロジェクト遂行には多くのハードルがあるのだろうと感じました」

「歴史を学ばなければいかないという点、とても考えさせられました。大きなことを言うのは簡単ですが、社会における『私』が何をすべきか、これからも考えていきたいと思います」

「小さな子どもたちが一日中働いて、わずかなお金を稼いでいる映像が衝撃的でした。自分はなんてラクな生活をしているんだろうと。世界の人たちとのかかわり方を深く考えさせられました」

「『真の豊かさ』という言葉が、とても考えさせられました。日本には失われてしまった豊かさがアジア地域には残っていたりと、経済的な1つの尺度では測れないものがあるのだと感じました」


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