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半農半Xがひらく地域と人の豊かな関係

ダイワJFS・青少年サステナビリティ・カレッジ 第2期・第11回講義録

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塩見直紀(しおみ なおき)
半農半X研究所 代表

カタログ通販会社を経て、2000年4月「半農半X研究所」を設立。21世紀の生き方、暮らし方として、「半農半X(=天職)」というコンセプトを提唱している。「半農半Xデザインスクール」などを通して、市町村から個人までの「エックス=天職」を応援するミッションサポートとコンセプトメイクがライフワーク。著書に『半農半Xの種を播く』など。京都府綾部市在住。

◆講義録

環境問題と、「自分の天職は何か、自分は何のために生まれてきたのか」(天職問題と命名)という2つが、僕は「21世紀の二大問題」だと思っている。この2つを解決できるような生き方を模索する中、故郷である京都府綾部市で、「半農半X」という生き方、暮らし方を実践・提唱している。半農半Xとは、持続可能な「小さな農」と「天与の才(X)」を生かして、社会の問題を解決していこうというコンセプトだ。

農業をしながら大好きなことを仕事に

半農半Xというコンセプトが僕の中に生まれたのは、30歳、1995年の阪神大震災のころだ。元々は、屋久島在住(当時)の星川淳さんという作家・翻訳家の方が、農業をしながら著述業を営むライフスタイルを「半農半著」と言っていたことにヒントを得ている。その生き方に出会った20代の後半、「これこそがこれからの生き方だ」と確信した。当時は、自分は何もできないし、大好きなこともないし、特技があるわけではない、と思っていたので、Xが何かは分からない。それでも、半農半X的な方向で間違いないだろうという気持ちが自分の中にはあった。

このコンセプトは、最初は知人に話すくらいで注目されることはなかったが、2000年にホームページを立ち上げたころから、時代が変わったのか、メディアに取り上げられるようになってきた。環境問題に対する危機感が迫ってきたことと、特に30歳前後の人は生き方に迷っているという背景があったと思う。会社に勤めて数年経ち、「これからどうしようか、自分が描いていた夢は何だったのか」、そういうことを再考する人がたくさんいるのかなと思っている。

半農半Xの8つのキーワード

半農半Xが重視する8つのキーワードを紹介しよう。

情報発信
(ジャーナリスト、出力、シェア)
天職、ミッション、役割
(自己定義、貢献の舞台)
手仕事、アート
(アーティスト、表現)
瞑想、散歩、思索
(アイデア、インスピレーション)
半農半X 小さな農、採集
(身体性、汗)
コミュニティ、地元
(終の住処、修行の舞台)
地球環境、持続可能性
(エコロジスト、感性、生命性)
家族
(だんらん、人間関係)


下段の3つは場所、根っこを表すものだ。まず「地球環境・持続可能性」。例えば、江戸時代は幕藩体制で、自分の藩のことだけ考えていればよかった。黒船来航で、外国人の視点が入ると、日本という単位で考えるようになり、アポロの時代になると、初めて地球から飛び出して外から地球を顧みた。今の私たちは、昔の人とは確実に意識が違っていて、地球環境という見方が大切だ。

一方で、「コミュニティ」や「地元」という視点も欠かせない。場所というのはとても大事で、「場所が見つかればミッションが見つかる」という人もある。マザー・テレサを慕ってインドに渡った日本人が、「日本でやることがもっとあるはず」と追い返されたという伝説的な話もある。自分の活動の舞台、表現の舞台がどこなのかは、とても大事なことだ。

もう一つの場所が「家族」だ。家族とはいわば登山における「ベースキャンプ」ではないかと思う。つまり、それぞれがそれぞれの山頂に向かう途中で、休息し、ミッションを果たすために英気を養う場所だ。お互いの人生の目標である山頂に登るための知恵を分かち合ったり、ときには癒しを与え合う場所ではないかなと思う。

この3つがベース、根っことしてあって、その上にあるのが心身のことだ。僕は小学5年生の娘と一緒に、夜9時に寝て、毎日、朝3時に起きている。家族が起きてくるまでの3時間を、新しいコンセプトを考えたり、エッセイを書いたり、本を読んだり、思索の時間にしている。皆さんが将来、結婚して子育てに追われるようになっても、早起きしてでも、自分一人と向き合う静かな時間をつくってもらえたらと思う。

僕は畑や田んぼに出るときは必ずメモ帳を持っていく。そこでもらったインスピレーションをメモして持ち帰り、企画を立てたり、原稿などエックスに活かすためだ。田んぼでなくても、瞑想とか思索とか散歩とか、心にとってはとても大事な時間なのかなと思う。

もう1つ大事なのが身体の面だ。今、自分の身体が自分ではないと感じる人がとても多い。身体性を取り戻すのがとても大事なキーワードだ。若い女性を中心にヨガなどが広がっているが、これも身体性を取り戻そうという動きだろう。

僕は、例えば田んぼに入るときは、長靴などは履かずに素足で入ることにしている。素足で入ったほうが、インスピレーションをもらいやすい状態、天地とつながった状態になる。足への刺激が脳に思いがけないアイデアという贈り物をもたらす。また感性豊かに、敏感にもなれる。

この身体性と心の面の2つはとても大事なキーワードで、半農半Xというスタイルを実践することによって、これを取り戻すことができる。この2つが充実することで、地域(人や自然など)との豊かな関係を築くことができるような気がしている。

この心身の上にもたらされるのが「表現」の部分、詳しくあげると、「手仕事、アート」「天職」「情報発信」の3つだ。アートというのは、何もアーティストだけがするものではなく、人は本来みんなアーティストだと思う。綾部の村人の中にも、晴れた日は農業、雨の日は仏像を彫っている、といった暮らしぶりのおじいちゃんがいたり、よく探せば周りにもすごい里山アーティストがたくさんいる。

それから「天職」。「ライフワーク」と呼んでもいいし、「役割」「ミッション」「天命」でも何でもいいが、何のために私たちは生まれてきたのかという意味、訳を見つけること、気づくことはとても大事なことだ。見つからなかったら不幸になるというものではないが、これを見つけた人は幸せだろう。

最後の「情報発信」は、特に若い世代に取り組んでほしい。情報を発信することで解決していく問題がたくさんあると思うからだ。大学生と話すと、環境問題でどんな新しいことがあるのか、何が今語られているのか、本当によく知っている。ただし、それを人に伝えているかというと、意外と発信していない人が多くて、それではもったいない。情報発信している人は2割で、8割の人は受信中心だという。僕たちのなかには発信可能なことが眠っている。長く半農半Xを考えてきたが、情報発信が大事だということがよく分かってきた。僕もはじめは、地元の人にとって理解しにくい面があったと思うが、自分で発信して、新聞などで取り上げてもらうことで、「あなたの目指している社会、未来はそういうことなのか、よく分かりました」と言ってくれる村人がとても増えた。

自給率という言葉は、食糧やエネルギーに使われることが多いが、「メディアの自給」もとても大事なことだと思う。地域の情報発信をしていくこと、一人ひとりが持っている「X」を引き出していくためにも、もっと情報発信をしてほしい。豊かに表現すると地域も豊かになる。

天職の見つけ方

半農半Xの「X」とは、天職、つまり天が与えた仕事という意味だが、若い世代からこれが分からないという相談を受ける機会がよくある。「どうしたら大好きなことが分かるんですか?」「Xのヒントはどうしたら見つかりますか?」と聞かれるのだが、ひとつヒントとして言えるとしたら、長く続けてきたこと、お金や時間をかけてきたこと、なぜだか気になって何度も思い返すことを振り返ってみてはどうだろう。子どものころに大好きだったことがヒントになるかもしれないし、今やっている仕事やアルバイトとか、趣味にもヒントがあるかもしれない。

農の部分については、「どのぐらいの規模でやるのがいいのか?」と思うかもしれないが、面積は関係ないと僕は考えている。大規模にやってもいいし、市民農園や家庭菜園、屋上菜園でもベランダ菜園でもいい。時間配分についても、「半農だから1日4時間」と厳密に考える必要はなく、例えば週末だけでも月1日でも構わない。時間や面積には関係なく、少しでも植物に触れていく生き方、暮らし方を取り戻すことがとても大切だ。

皆さんもご存じの『沈黙の春』を書かれたレイチェル・カーソンさんという人は、今から40年ほど前に「センス・オブ・ワンダー」という言葉を残している。これは「神秘さや不思議さに目を見はる感性」を表す言葉だが、半農を別の言葉で表すとしたら、この「センス・オブ・ワンダー」という言葉が近いかもしれない。

今すぐアクションを

2003年に最初の本『半農半Xという生き方』」を出したが、特に20~30代の若い世代が読んでいてくれているそうでうれしく思っている。若い世代に半農半Xという考え方を何とか伝えていくのが僕のミッションだと思う。なぜかと言うと、もしも皆さんが、「定年退職後から人生を楽しもう」と思っていたとしたら、それでは遅すぎる。そのころの東京は沖縄ぐらいの気候になっている可能性もあり、何がどうなっているか分からない。それぐらい、環境の大きな変化を肌で感じている。

若い世代に一番言いたいのは、できるだけ早く、5年以内ぐらいにアクションを起こしてほしいということだ。そのほうが、10年後のアクションより、いい結果が出るだろうと思う。

例えば、今の農家の方の中心的な担い手は、70歳とか75歳ぐらいと、かなり高齢化している。このままでは、日本の農業はあと5年ぐらいしか持たないだろう。5年以内のアクションを起こしてほしいというのは、そういう意味でもある。皆さんのおじいちゃん、おばあちゃんや親戚が、農的な暮らしをされているなら、今のうちに知恵を授かってほしい。

これから環境問題が深刻化する大変な時代を生きるためには、少しでも自給していく必要がある。国に向かって「食料自給率をもっと上げよう」と言うよりも、まずは自分で1粒の種をまいてみる、田んぼに入ってみる、畑に行ってみる。それがとても大事なことではないかと思っている。


◆私が考える「サステナブルな社会」

一人ひとりが天の意に沿う持続可能な小さな暮らしをベースに、天与の才を世のために生かし、社会的使命を実践し、発信し、全うしていく生き方。そうした半農半Xという生き方が、天の才を発揮し合う、持続可能な社会をもたらすのだと思っています。

◆次世代へのメッセージ

若い世代に一番言いたいのは、できるだけ早く、5年以内ぐらいにアクションを起こしてほしいということです。例えば、今の農家はかなり高齢化していて、このままでは、日本の農業はあと5年ぐらいしか持たないだろう。皆さんのおじいちゃん、おばあちゃんや親戚が、農的な暮らしをされているなら、今のうちに知恵を授かってほしい。

◆受講生の講義レポートから

「食糧自給率だけでなく、『心の自給率』を上げるには『センス』や『インスピレーション』も高めなくてはと思います。そのためには、森の中に入ったり、いろいろな詩集を読んでみようかなと思います」

「まるで自分がアンテナを張っていない知恵・生き方を知りました。これって視野が『パーッ』と広がることかと、ホクホクした気分になりました」

「講義前は『環境のために○○せねばならない』という硬い内容を想像していましたが、ミニワークで同じテーブルの人と夢をシェアできたことがとても楽しく、改めて自分の原点を見つめ直した気がしました」

「希望する会社から内定をもらい、就職を目前にした今、将来については『働くこと』にしか目がいかなくなっていましたが、家族や環境など、ほかの大切なことにも目が向くようになりました。気づくだけでは足りなくて、それを行動に起こす、0を1にする『起』のアクションをぜひ起こしたい」


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