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持続可能な社会に果たす金融の役割

ダイワJFS・青少年サステナビリティ・カレッジ 第1期・第12回講義録

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足達英一郎(あだち えいいちろう)
株式会社日本総合研究所 創発戦略センター上席主任研究員
環境問題対策を中心とした企業社会責任の視点からの産業調査、企業評価を担当。SO/SR規格化日本エクスパート。アジア太平洋持続可能な消費と生産円卓会議運営理事。主な共著書に、『SRI社会的責任投資入門』(2003年、日本経済新聞社)、『CSR経営とSRI』(2004年、きんざい)など。


◆講義録

今日は、「持続可能な社会」と「金融」とのあいだの関連性についてお話ししたい。最近まで、とりわけわが国では、この関連性について、積極的に議論されることは少なかった。国内の金融関係者に話をしても「自分たちは煙をモクモクと出したり、有害な化学物質を使っているわけではない」、「環境問題に気を使えといわれても、商売が厳しいときに、そこまで手が回らない」といった意識の人がほとんどだった。

しかし、海外に目を転じると、「環境問題」と「金融活動」は密接に関連しているという考え方が一般化している。2002年に刊行された"Environmental Finance"(Sonia Labatt・Rodney R. White著、John Wiley & Sons, Inc.)という書籍は、「Environmental Financeという新たな金融活動の概念は、利益確保と両立させるかたちで、近代産業社会の環境問題への挑戦を実現する重要な鍵を握っている」ということを体系的にまとめている。

私はこのギャップを何とか埋めたいと考えてきた。もちろん、一朝一夕に状況は変化するものではないが、これから社会に出ていく若い人たちにも、「持続可能な社会に果たす金融の役割」について、知っておいてもらいたいと思う。

「持続可能な社会」と「金融」とのあいだの関連性について考える場合に、「預金・融資」「投資」「保険」という3形態でとらえることが有効である。今日は、このうち時間の制約から、「預金・融資」と「投資」に触れることとする。

銀行に預けたお金はどこに行くか

ほとんどの皆さんは、既に銀行に預金口座を持っていることと思う。そして、僅かばかりだと思うが預金に対しては、利子が支払われる。また、お金が必要になったときには、預金を引き出してお金を使う。それでは、皆さんの預けたお金はその間、銀行の金庫に眠っているのだろうか。答えはNoで、銀行から企業や個人に融資というかたちで貸し出されていく。例えば、個人も住宅ローンというようなかたちで銀行からお金を借りる。このとき、返せなくなる場合のために担保を取られることもある。そして決まった利息を企業や個人は銀行に支払う。さらに決められた期限までに元本も返済する。実は、皆さんが預金によって受け取る利子は、こうして銀行が融資先から受け取る利息の一部である。銀行にとっては支払う利子より受け取る利息のほうが多いのでビジネスが成立するわけである。

エコバンクとの出会い

ところで普通の銀行は、集めた預金をどこに融資しているかについて、細かい情報は公開していない。もちろん、融資先が破産して返済が滞ることがあっては困るので厳密な審査は行っているが、原則、どんなビジネスを行っている企業にでも、何にお金を使おうとしている個人にでも、それが違法なことに使われる可能性がない限り、返済の見込みがあれば融資を行う。

しかし、この融資先に貸し出されるお金が、環境を破壊することはないかと注意を払って審査を行う銀行がある。同時に、できるだけ環境保全のために役に立つ取り組みに対象を絞って融資を行おうとも努力している。私がこうした銀行の存在を知ったのは、1992年だった。グローバルネットという雑誌に、ドイツのフライブルク在住の今泉さんという方が、記事を載せられた。「環境のための銀行~エコバンク」という記事だった。そこには1988年にフランクフルトで設立された、文字通り「エコバンク」という銀行の様子が紹介されていた。一言で言えば、環境問題の解決に資する企業やプロジェクトにのみお金を貸し出し、同時にそのことをアピールして預金者を集めるという銀行があるということだった。設立3年で約3万人の預金者を集めたということであった。「なるほど、こういう切り口があるのだな」と、目からうろこが落ちる思いがした。

証券投資と投資信託の知識

さて、個人や組織が手元にあるお金をできるだけ増やしたいと考えるとき、銀行に預金するという方法以外に、例えば企業の発行する株式を購入するという方法もある。株式を保有していると、その企業に大きな利益がでれば配当を受け取ることができる。また、証券取引所に上場されている株式であれば、比較的容易に売却することもできる。上場株式は、毎日、それを売りたい人と買いたい人との力関係から株価が変動する。もし、安い価格で株式を購入して、高い価格でそれを売却することができれば売買差益が手に入る。値上がり益である。多くの投資家は、こうした値上がり益を求めて市場に参入している。ただ、いつも予想通りに株価が値上がりしてくれるとは限らない。期待に反して値下がりしてしまうことある。もし、高い価格で株式を購入して、安い価格でそれを売却せざるを得なければ、逆に損失が生じる。これが株式投資の特徴ともなっている。

個人ではなかなか、将来大きな配当を支払ってくれそうな企業や、株価が上がるだろう企業を見つけ出すことが難しい。そこで、運用機関と呼ばれる金融機関に売買を委託する。この場合、複数の株式を同時に保有することにより資産の変動を小さくすることができることもメリットとなる。これが投資信託という金融商品の基本的コンセプトである。

エコファンドと社会的責任投資

ここでも、どの企業の株式を購入しようかを考える際、その企業がどの程度環境保全のための取り組みを進めているか、あるいは環境問題以外にも、企業統治、公正な経済取引、顧客に対する誠実さ、労働慣行、仕事と生活の両立支援、グローバル市場への的確な対応、社会活動への積極関与などの取り組みを進めているかを勘案して、購入株式を決定するという投資信託がある。これが、エコファンドや社会的責任投資(SRI)ファンドである。

環境保全のための優れた取り組みを行っている企業や、社会的な期待に積極的に応えている企業では、配当や株価の上昇が見込めるのではないか、株価が乱高下する恐れも小さいのではないか、そうした仮説がエコファンドや社会的責任投資(SRI)ファンドの前提になっている。

1998年に、銀行窓口での投資信託の販売が解禁された。そこで、銀行ならではの個性的な商品を考えられないかと、構想したのがエコファンドであった。環境問題への取り組みに優れた企業を調べ上げて、そこに投資をしていくという投資信託である。残念ながら日本で初のこのタイプの金融商品とはならなかったが、調査をわれわれが担当し、設定・運用をスイスのUBSが行い、販売を住友銀行が行うというフォーメーションで、1999年、銀行窓販としては、初のエコファンドを実現した。

ちなみに、現在、エコファンド、社会的責任投資(SRI)ファンド、エコ関連テーマファンドをあわせると、日本全体では8000億円近い残高になっている。われわれが調査を担当するファンドも増え、私も日常の仕事の過半を占めるのは、まさにわが国上場企業の環境問題への対応状況を調べ、レポーティングする、そういう仕事である。

持続可能な社会に果たす金融の役割とは

では、ここまでのことをまとめてみよう。エコバンクやエコファンドや社会的責任投資(SRI)ファンドの意義というのは、どこにあるのだろうか。それを要約するなら、「持続可能性の観点から望ましい先と望ましくない先を評価峻別し、望ましい先には有利な条件で望ましくない先には厳しい条件でお金の流れをつくることで融資先、投資先の行動を誘導すること」だといえる。例えば、銀行から融資を受ける企業や個人にとって、融資を受けることができるかどうかや、支払わなければならない利息の多寡は大きな関心事である。もし、その企業や個人の行動が環境に悪影響を与えるとして、融資が受けられなかったり、利息が大きくなるのであれば、企業や個人は行動を修正しようとするかもしれない。環境保全への取り組みが評価されて株式が購入されるのであれば、株価が上がることは企業の資金調達コストを安くすることにつながるので、環境保全への取り組みを積極化しようとする動機につながるかもしれない。このようにして、金融活動が持続可能な社会構築のためのアクセルとして機能することができる。これが、持続可能な社会に果たす金融の役割の本質であるといえる。

市場の進化という考え方

いうまでもないことであるが、企業という存在は常に市場で評価されている。消費者が、いくら安くても環境負荷の大きい製品は買わないとしたら、企業は環境負荷の小さい製品の開発に必死になって努力するだろう。従業員が、いくら給料が高くても職場の安全・衛生が確保されない企業には勤めないとしたら、企業は安全・衛生に配慮した職場づくりに必死になって努力するであろう。市場に新しい価値の評価軸が入ってきて、それが支配的になれば、企業はその観点から高い評価を獲得しようと必然的に行動を修正しようとする。

2000年に、経済同友会が示した「市場の進化」という考え方は、端的にそのことを指摘している。それは『企業は「経済的価値」のみならず「社会的価値」「人間的価値」をも創出する責任を有している。市場の評価が極端に「経済性」偏重に陥ると、企業活動の行き過ぎた「結果第一主義」や「株主利益至上主義」を招き、わが国固有の文化、伝統、習慣を反映した社会のニーズや価値観との間に著しい乖離をもたらすことになる。その意味で、市場自体も、総合的観点で企業を評価させていく必要があり、企業側も市場の評価をただ受身でとらえるのではなく、自らの信念を市場や社会に積極的に働きかけ、市場をその方向へ導くイニシアチブを発揮すべきである。』と表現されている。こうした考え方が、企業経営者の側から提起されたことは極めて興味深い。そして、エコバンクやエコファンドや社会的責任投資(SRI)ファンドは、こうした「市場の進化」の具体的事例といえるだろう。

国連環境計画金融イニシアチブについて

国連の中で、環境問題を取り扱うのが、国連環境計画という部局で、本部はナイロビにある。United Nations Environment Programの頭文字をとり、UNEPと呼んでいる。この組織と共同で、欧州の金融機関が1992年に結成したのが、金融イニシアチブである。

欧米の金融機関が、「金融」と「環境問題」の関係を認識し始めるようになったのは、米国でいわゆるスーパーファンド法による責任問題が生じる懸念が生まれた1980年代後半に遡る。このように、持続可能な社会に果たす金融の役割に関する認識については、海外に一日の長がある。

国連環境計画金融イニシアチブの目的は、金融機関のさまざまな業務において、環境および持続可能性に配慮した望ましい業務のあり方を模索し、これを普及、促進していくことにある。具体的活動として、経済発展と環境保護の両立などにつき意見交換を行う「金融と環境に関する国際会議」の開催や、金融業界業務に直結する専門的調査分析を公表する活動を行っており、特に近年は、地球温暖化、持続可能な開発への投資などを中心的テーマとして取り上げている。

現在、170を超える世界の金融機関が結集しており、日本からも近年ようやく参加する金融機関が増え、18を数えるようになっている。

まとめとして

今日は、エコバンクやエコファンドや社会的責任投資(SRI)ファンドを中心に、持続可能な社会に果たす金融の役割を論じてきた。金融活動に「持続可能性の観点からの評価軸」を組み入れると、企業行動に修正を及ぼすことができることをその核心として指摘した。実は、このほかにもNPOバンク、市民風車ファンド、ミニ公募債、愛県債、マイクロファイナンスなど、「持続可能性の観点から、必要だと考えられるところにお金の流れをつくろうとする」、より一層積極的な動きもいろいろ出てきている。

ただし、現在時点でまだ結論が見えていないことを1つあげるとすれば、それは「こうした新しい金融活動は、黙っていても増えていくか否か」ということだろう。「将来、環境問題等は一層深刻化していくから、経済的収益を犠牲にしても構わないと考える預金者、投資家は増えていくだろう。だとすればこうした金融活動は必然的に増えていく」とする意見もある。一方、「預金者、投資家は経済的収益を犠牲にすることまでは望んでいない。したがって、こうした金融活動が従来の金融活動より儲かるものにならない限り増えてはいかない」という意見もある。さらに、「預金者、投資家の意識より先に、金融機関自身がリスク管理を徹底させ、新たな事業機会を獲得しようと動くから、こうした新しい金融活動は、黙っていても増える」という意見もある。

繰り返すが、この問いへの結論はまだ出ていない。果たして、世の中はどちらの方向に動くのか。皆さんの目でその結論を見届けてもらいたいというお願いをして、本日の話を終わりにしたい。

◆配布資料(PDFファイル 約469KB)

◆私が考える「サステナブルな社会」

人間には寿命がある。だからといって、自分が生きているあいだの欲求が最大化されればよい、と考えてしまえば元も子もありません。時空を超えた想像力に触発されて、各人の生活が律せられている社会が「サステナブルな社会」であると考えます。

◆次世代へのメッセージ

「もっと欲しい」と思う自分の気持ちと、「競争こそが進歩を生み出す」という通説を常に疑ってほしい。向上心は大切だけれども、それは沢山のモノを手に入れることや競争に勝つということでは決してありません。地球の容量は一定だといわれるけれども、最後まですべての生命が尊厳をもって扱われるように諦めないでほしい。

◆受講生の講義レポートから

「お金の使い方を考える、ということは、これまであまり考えてきませんでした。今後社会に出たとき、自分で稼いだお金をどう使うのかがとても重要なのだとわかりました。経済的に自立していない今でも、できることがいろいろありそうです」

「SRI投資のことは知っていましたが、預金が持続可能性に結びつくことを初めて知りました。私たち一人ひとりの行動が金融機関を変えるという意識を持って行動することが、経済の流れを変えるのに有効なのだと思います」

「地球を大切に!といった理念より、経済的合理性に訴えるほうが、はるかに実効性があるのは間違いないと思います。持続可能性へのインセンティブを金融機関がつくることで、投融資先の企業の行動に影響を与えることができるという点が興味深いです」


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