ニュースレター

2007年10月01日

 

モノづくりの現場を支える技術者を育てる - 株式会社望月工業所

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JFS ニュースレター No.61 (2007年9月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第63回
http://www.haikankouji.com/

「産業空洞化」を乗り越えて

富士山の麓に広がる静岡県富士宮市は、山麓からの湧き水が富士川に注ぎ、工業用水が豊富な地の利を生かして、かつては紙やパルプなどの工業が栄えた地域です。その後、海外への工場移転に伴う産業構造の変化により、近ごろは輸送用機械関連や化学工業・医療用機器などを中心とした産業構造へと変化してきました。

株式会社望月工業所は、ここ富士宮に1965年に設立され、医薬・化学・食品プラント会社を中心に配管・製缶・機械装置・空調・メンテナンスなど、さまざまな生産設備のサポートを行っている会社です。同社は、生産現場に対応する高精度な「配管システム」を核として、その熟練した技術力を応用した「製缶製作」、工場内の空気を適切に保つ「空調システム」という3つの分野を中心に、豊富な実績と最先端のノウハウによる信頼を築いてきました。

1980年代後半以降、急速な円高などを背景に、日本の製造業はコストの安い海外に生産拠点を移転していきました。その結果、国内の生産や雇用が減少する「産業空洞化」が懸念されてきましたが、ここ数年、国内生産拠点の再活性化が本格化しています。特に昨今、国内の生産拠点では付加価値の高い製品を、海外では汎用品の生産という役割分担の傾向が強まり、国内の生産拠点にはますます高度な技術が求められているという傾向があります。富士宮周辺でも、医薬品、食料品など厳しい衛生管理、クリーンな環境を必要とする業種が増えてきたのが特徴的だといいます。

クライアントのニーズから読み取る環境への配慮

こうした産業構造の変化を背景に、創業40年を超える望月工業所の仕事内容も、この間大きく変化してきました。現在同社が請け負う作業現場は、全てクライアント企業の繊細な生産工程であり、工事の品質は工事自体だけの質で図られるわけではありません。代表取締役社長の望月達也氏は、「クライアント企業との綿密なコミュニケーションによる品質の妥当性はもちろん、顧客の生産工程の環境保全そのものが、私たちの職務の重要な割合を占めるようになってきた」といいます。

同社のクライアント企業には、日本を代表する大手企業も多く、資金面でも人材においても、かなりの資材を投入して生産ラインの環境を、非常に厳しい水準で整備・管理しています。「工事の合間に、仮にごくわずかでも排水を汚そうものなら、工場中のアラームが鳴り響くような管理体制を整えているクライアントもありますから、非常に神経を使いますね」と望月氏は明かします。

また、依頼を受けた後、実際に工事が始まる前の現場チェックの際も、事前に安全講習、グリーン講習を丸一日ずつ受け、現場に入る人員は3週間前までに確定する必要があります。持ち込み工具の洗浄にも厳しい規定がある場合もあるといいます。こうしたクライアントのニーズから、この10年ほどで、多くの企業の環境への取り組みが大きく変化してきたことを同社のスタッフは実感しています。

「ほとんどのクライアントがISO14001を導入していて当たり前の現在、自社にもそうした知識がないと、まず顧客とのコミュニケーションがとれなくなってしまう」という危機感から、望月工業所でも2002年に品質マネジメントシステムISO9001を、2005年には環境マネジメントシステムISO14001を取得し、精度の高い工事を提供するよう努めています。高度な産業を支える工場には、高度なマネジメントが求められるのです。

逆に言えば、こうして切磋琢磨してきたことが望月工業所の差別化につながり、クライアント企業からの信頼を勝ち得ているといえます。刻々と変化するクライアント企業の環境への取り組みを目の当たりにし、多様なニーズに応えようとする中で、環境対策がそのまま財務諸表に響くことも肌で感じてきたといいます。数年前まで、リサイクルは今ほど重要ではありませんでした。ところが資源が高騰して事情が一変。環境のためにだけでなく企業経営上も、リサイクルやごみを減らすことが収益改善につながる、つまり環境への取り組みが「もうかる仕組み」だということが、製造業の生産ラインからもはっきりしてきたといいます。

求められるのは「職人的」な人材

こうしたニーズに応える望月工業所の社員は、現在28名。1級建築士、冷凍空調工事保安管理者、冷媒フロン回収技術者、特別管理産業廃棄物管理責任者など、計53種もの資格保持者がいる技術者集団です。望月氏がめざすのは、「現場で働ける職人が育つ会社」だといいます。

実は今、土木・建築工事や設備工事を請け負う企業の多くは、長い不況の間に、現場を知り尽くした職人を手放してしまい、コスト削減のあおりで、職人を自社で抱えることができず、現場監督以外はすべて外注になっているケースも少なくありません。また、経験の浅い現場監督では、図面を引き、工程管理はできても、現場で図面どおりにいかないとき、現場を見て判断できない場合も多いといいます。

団塊の世代を最後に、今後もますます現場を知る人材の不足が心配される今、「職人に価値があるということを社会に示していかないと、日本のモノづくりのインフラを支えることができなくなる日が来るのではないか」と、望月氏は危惧しています。

そこで同社が力を注いでいるのが社員教育です。必ずしも高い学歴や十分な職業訓練を受けずに入社してくる若者も多いなか、根気よく仕事を教え、業務を通して一人ひとりがプロとしてステップアップできるよう、前述のような資格習得のサポートや、社内講習の開催など、長く務めることで価値を生み出す人材に成長できるような仕組みづくりを工夫しています。「当社の仕事は、技能はもちろん、クライアントのニーズを的確に汲み取るコミュニケーション能力、精度の高いクオリティを求める忍耐力が求められます。30歳、40歳とキャリアを重ねたときに、総合的にいい仕事ができる人材を育てていきたいと思っています」

地域の環境を守るB to Cビジネスへの展開

企業の生産現場のサポートという分野では確かな技術と信頼を築いてきた同社は今、新たな環境ビジネスの柱を模索しています。その試みの1つが、住宅用太陽光発電システムの販売・施工特約代理店業務です。シャープ株式会社からの販売要請で、同社の住宅用太陽光発電システム「サンビスタ」を取り扱うビジネスを2006年から始めました。大手企業の生産ラインの工事を多数手がける同社にとって、住宅用太陽光発電システムの責任施工はお手のものです。

太陽光発電システムには、発電による経済的なメリットはもちろんのこと、CO2排出を大幅に削減するといわれる地球温暖化防止への貢献、さらに発電した電気が分電盤を通らないシステムを用意することで、万一の停電時にも最大1.5KW(1500W)までの電気製品を使えるという防災対策メリットもあります。

望月氏自らも自宅に導入し、メリットの大きさを実感しているこのシステムも、既存のエネルギー事業者との関係で、販路が伸び悩んでいるといいます。現に世界規模で見た場合、長らく世界一の導入量を誇っていた日本も、2005年ドイツに抜かれています。同社では、これまでのビジネスで培った技術と人脈を生かし、住宅用太陽光発電システムの普及を通して、B(business)to C(consumer)の環境ビジネスでも成果を上げていきたいと考えています。


(スタッフライター 小島和子)

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