ニュースレター

2007年04月01日

 

JFS指標プロジェクト(2) ビジョンと指標の整合性について

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JFS ニュースレター No.55 (2007年3月号)

JFS指標プロジェクト第2期では、第1期に私たちが描いた「2050年の持続可能な日本のビジョン」(以下、ビジョン)と、現在の日本がそのビジョンにどの程度近づいているかを測定するための20の指標の整合性について検討しました。今回はその内容について少し紹介したいと思います。

ビジョンと指標の関係

ビジョンは、私たちの住む日本が2050年までに持続可能な社会になるとしたら、「こうなってほしい!」という姿を描きました。非常に包括的に、あらゆる側面で持続可能な世界を描いています。
(第1期のビジョン:環境経済社会個人

一方指標は、現在の日本がビジョンで描いた持続可能な姿に、どれだけ近づいているのか(もしくは遠ざかっているのか)を定量的に測定するためのものです。20という限られた数で、持続可能性のために重要だと私たちが考える要素を抽出しました。

つまり、ビジョンは私たちが目標とする姿で、指標はその目標をどれだけ達成できているか、現状を評価するためのものです。そのため、当然ながら両者の整合性がとれていないといけません。(例えば、ビジョンに脱温暖化社会の実現を描くなら、指標には「温室効果ガスの排出量」を抽出する、という意味です。)

しかし一方で、20という限られた数の指標ではビジョンを完全に網羅できるわけではありません。第1期では、より完成度の高いビジョンと指標の作成を目的に、両者を別々に作業したため、整合性についての吟味が足りませんでした。そこで、第2期で、もう一度見直し、必要に応じて修正することにしました。

ビジョンに描かれた要素の洗い出し

まず第1期で描かれたビジョンを、20の指標カテゴリーに対応する部分に切り分けていきました。例えば、「ジェンダーの観点からは、女性がより広範に社会参加します」というビジョンがありますが、これは「ジェンダー・マイノリティ」というカテゴリーに分けられます(具体的な指標は「国会の議席数に占める女性の割合」)。この作業で気づいたことは主に次の3点です。

(1) ビジョンに描いた内容には、20の指標カテゴリーに入らない内容があった。
(2) 20の指標の中には、ビジョンには描かれていない要素があった。
(3) 「環境」「経済」「社会」「個人」という4つの基軸ごとに描かれたビジョンの中には、別の軸の指標に関係するものもあった。
(例:ビジョンの「環境」の中に、「経済」の指標に関することが描かれている、など)

このように、具体的に不整合な部分を抽出することで、ビジョンと指標をどのように見直すかを明確にすることができました。これらの分析結果をベースに、ビジョンの見直しへとつなげました。

ワークショップによる積み上げの議論

次に、第1期で選定した20の指標カテゴリーそれぞれが意味することを、より詳細に吟味するためのワークショップを行いました。ある指標の意味する内容が、ほかのカテゴリーにも関係する場合もあり、その仕分けについても議論しました。ワークショップで出てきた内容をいくつか紹介します。

「生物多様性」に含まれるもの:
外来種の増加、日本古来の種の減少、ダム・道路の建設、土木開発、間伐の必要性、など
「エネルギー」に含まれるもの:
気候変動に対するリスク、経済の国際競争力、電力自動車、電機産業、グリーン電力、など
「国際協力」に含まれるもの:
国際理解、難民受け入れ、ミレニアム開発目標(MDGs)、持続可能な開発のための教育(ESD)、環境ODA、フェアトレード、など
「安全」に含まれるもの:
地震(自然災害)、犯罪、地域の子ども・老人の安全性、交通事故、安全性の格差、など
「お金の流れ」に含まれるもの:
LOHAS、非営利活動、地域通貨、持続可能な生産、市場、企業の社会的責任(CSR)、市民・地方ファンド、など
「生活満足」に含まれるもの:
労働、休暇、余暇時間、所得、持ち家、家族との時間、公共施設(病院、公園)、など
「心身の健康」に含まれるもの:
病院施設、精神病、生活習慣病、喫煙、肥満、食べ物関係、虫歯、アレルギー、エイズ、宗教、医療費、運動、寿命、など
「生活格差」に含まれるもの:
地域の利便性、情報の格差、労働の格差、経済的格差、賃金格差、教育格差、行政の格差、シングルマザー、ホームレス、ニート、高齢者、生活保護、など

ビジョンの見直し

ビジョンの要素の切り分けとワークショップによる議論から、第1期のビジョンを見直し、不足している内容を追加しました。新たに追加した内容をいくつか紹介します。

・森林の多くを占める人工林の間伐など育林施業が施され、水源涵養などの森林の公益的機能が維持されます。
・ほとんどの企業、事業所は環境マネジメントシステムを導入し、CSRも定着します。政治家、行政職員もみな環境保全の意識が高まり、すべての国の政策、自治体の施策には環境配慮が定着します。
・日本人の国際理解が進み、異文化コミュニケーションが活発になります。
・犯罪がほとんどなくなり、地域の子どもたちの安全が保障されます。
・環境破壊につながるようなお金の投資、流れは原則的になくなります。地域では多くの地域通貨が流通し、コミュニティの活性化に寄与します。
・経済的な格差は減少し、すべての人が最低限の収入、労働の機会が得られる社会となります。

今後の課題

今回のビジョンの修正に関する議論では、不足分の追加をして、より網羅的に見直しをしました。一方で、分量が多くなり、核となる部分がわかりにくいといった意見もあります。今後の課題として、私たちが発信したいメッセージが、このビジョンからより多くの人たちに伝わるよう、工夫する必要があると考えています。これは第3期の宿題としています。

次号では「指標間のつながり」についてご報告します。


(JFS指標チーム 第2期リーダー 山野下仁文)

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