ニュースレター

2006年06月01日

 

絶対量でCO2排出量を減らす - 佐川急便株式会社

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JFS ニュースレター No.45 (2006年5月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第42回
http://www.sagawa-exp.co.jp/csr/

「今朝とれた魚や野菜を、新鮮なうちに親戚に届けたい」「明日までにこの商品をお客さんに届けたい」--こんなとき、あなたの地域では、どんなサービスが利用できますか? この数十年で日本では、宅配サービスが充実してきました。例えば佐川急便の宅配便を使えば、お手ごろな価格で、関東-関西間ならば、原則として今日預けた荷物は翌日の午前中には配達ができます。

こうした宅配便の利用者は年々増えています。トラックを主な輸送手段とする総合物流会社の佐川急便は、2004年度に、日本人一人あたりで約10個の計算になる、約9.4億個の宅配便を扱いました。「アジアNo.1総合物流企業」をビジョンに掲げる同社は、2万台の車両を保有し、日本では340の営業所、中国はじめ海外では20の拠点で展開しています。

高まる物流へのニーズとCO2排出という課題

社会における迅速で安全な輸送のニーズは高まるばかりですが、環境面では大きな課題を抱えています。日本における運輸部門のCO2排出量は増加傾向にあり、全体の約20%を占めています。約1/4を占めるの運輸業者からの排出量は横ばいで、半分を占める自家用自動車からの排出量は増加傾向にあります。

京都に本社を置く佐川急便の環境活動は、気候変動枠組条約第三回締結国会議(通称COP3)が開かれた1997年、全員役員で構成された「佐川急便エコプロジェクト推進委員会」の発足により本格的にスタートしました。主に車両によるサービスを提供する総合物流企業として、アイドリングストップの励行、天然ガス自動車の大量導入に始まり、トラックに比べて環境負荷の少ない鉄道や船舶を活用したモーダルシフトの推進などを展開しています。

絶対値での削減目標を設置

2003年同社は、「クライメート・セイバーズ・プログラム」に日本企業としては初めて、また運輸部門としては世界で初めて参加します。このプログラムは国際環境NGOであるWWFが先進的な環境対策を進める世界のさまざまな企業へより高い目標での温室効果ガス削減を呼びかけるもので、既存の目標を上回る形で絶対量での削減をかかげること、また、実行の進捗に対してWWFと第三者機関による検証・認証を受けることを求めるものです。「目標達成への強い責任感や緊張感が社内にうまれる」というメリットを評価した同社は参加を決定し、認証のために必要な数値の算定方法など様々な準備作業を1年かけて行い、「2012年までにCO2総排出量を2002年度比で6%削減する」という目標を発表しました。国内外の多くの企業が絶対量ではなく環境効率や原単位での目標を掲げるなか、特筆すべき動きとして注目されています。

約1/3を天然ガス車に

物流企業が絶対量でCO2排出量を減らすことは、どうしたら可能なのでしょうか?

一つは、車両の燃料を変えることです。同社は1997年より、軽油を燃料とするディーゼル車から天然ガスを燃料とするCNG車への転換を進めています。「天然ガス車は、一般的なディーゼル車両と比べてCO2排出を20%、Noxを90%、PMを100%削減できます。LPG車やその他の車と比べて、物流で必要とされる要件を考慮すると、トラックとしては現時点では、もっとも環境にやさしい車両といえます。」と、同社CSR環境推進部課長の松本秀一氏は言います。

2003年の時点では、同社のCNG車は全約2万台のうち約1割弱(1,647車)にまで転換が進んでいました。しかしクライメート・セイバーズ・プログラムへの参加を通して、それまでの目標(2005年度末までに2,450台)を改め、「2012年度末までに7,000台(2005年末までに2,800台)」という目標を掲げました。2004年10月には、国内企業として初めてCNG車の導入台数が累計2,000台を超え、国内の天然ガス自動車(トラック)の約20%を占めるに至りました。こうした取組みのなか、CO2の排出量も、2002年度の36.66万トンから2004年度の35.74万トンへと2.49%減らすことができたのです。

CNG導入をめぐる二つの課題

実際にCNG車への切り替えを進めていくことは課題もあります。一つは経費の問題です。2、3トンのディーゼル車両をCNG用に改造するには、費用が約110万円かかります。現在国から出る約50%の補助金、その他業界団体・自治体などからの補助金を合わせても、CNGモデル地域の場合を除いて最低10万円ほどの経費負担があります。今後の補助金の変化によってはこの額が大きくなることも考えられます。

もう一つは、インフラの問題です。日本中には天然ガススタンドがどれくらいあるかご存知でしょうか? CNG車両はまだ世の中に少なく、採算がとりくにいこともあって、天然ガススタンドは約280箇所(全国のガソリンスタンド数約5万の約0.5%)しかありません。佐川急便の場合、他社と比較して営業所あたりの車両数が数十から百台と多いこともあり、営業所の近くにスタンドがあることは必須です。

そこで佐川急便では、CNG車の大量導入を推進するため、自家用天然ガススタンドを設置しインフラ整備を行っています。1999年4月に運輸業界初となる自家用天然ガススタンドを東京店に設置して以降、東京、大阪、さいたま、名古屋、そして東京千代田店の計6箇所に設置をしました。しかしながら、天然ガススタンドを設置するための初期費用は自己負担で5,000万-1億円、また運用費用も合わせるとさらに多額の経費がかかります。インフラの整備度合いによって、CNG車をどれほど導入できるかも左右されます。

運転を改善する

物流企業がCO2排出を減らすもう一つの有効な方法は、運転方法の改善です。佐川では、そのためのドライバー教育に力を入れています。これは、駐停車時にエンジン・キーを抜いてアイドリングをストップしたり、急ハンドル・発信・ブレーキを避けたりすることで、燃費にも安全にもよい「エコ安全ドライブ」の奨励です。これをどれだけ実践しているかを、定期的に検証します。2004年度には履行率99.1%でした。また、新人研修のプログラム、社内ドライバーコンテストの運転技術、日常点検競技においてもエコドライブの実践を審査項目に取り入れて、浸透を図っています。

自動車以外の交通機関を活用する

そして物流企業がCO2を減らす三つ目の方法は、鉄道輸送の活用(モーダルシフト)です。鉄道は、自動車に比べて交通渋滞がなく、またエネルギー効率も格段に高いので、車両と鉄道の輸送を組み合わせることで、全体のCO2排出を削減することができます。佐川は2001年、日本貨物鉄道(株)と共同で、世界初の電車型高速貨物列車「スーパーレールカーゴ」の開発に着手します。この開発により、貨物の輸送時間を短縮するため、それまで貨物列車の最高速度が時速110kmにとどまっていたところ、モーターの配置の工夫などで最高時速130kmを実現。また、鉄道への貨物の積み下ろしの時間を短縮するために、佐川のシステムにあったコンテナを開発するなど、工夫を重ねます。この取組みは、2002年度に国土交通省の「幹線物流の環境負荷低減にむけての実証実験」に認定され多くの関係者から注目を集めながら進められました。

スーパーレールカーゴは、3年後の2004年3月、営業運転を開始しました。毎日深夜に16両編成の列車を東京--大阪間で上り下り各一本運行しています。これは10トントラック56台分に相当し、2004年度には年間約16,000台のトラック便を削減(1万トンCO2)しました。その他にも、鉄道やフェリーを活用したモーダルシフトを実施し、2004年度は合計で75,000台の便を削減(6.8万トンCO2)しました。

佐川急便は、絶対量でCO2削減目標を達成できるのでしょうか。「例えばインフラの問題で、現在の計画である2012年度末までのCNG車7,000台導入が物理的に不可能になることもありうるでしょう。その場合は、太陽光発電の導入、モーダルシフトの推進、ドライバー教育など、柔軟に追加策を検討していきます」と松本氏はいいます。その一つのかぎを握るのが、お客様やステークホルダーとの対話です。例えば、比較的最近に始まった同社の宅配便サービスのメニューに、「宅配の時間指定」があります。これはお客様との対話で実現したもので、何時ごろの時間帯に届けたいかを配送依頼時に指定できるというものです。「このサービスによって再配達率が下がり、その分の環境負荷を下げることができました。こうした、サービスの質を上げつつ環境負荷を下げる取組みは、まだたくさんあるはずです」と松本氏は言います。

私たちは、宅配便を出すときに環境負荷について考えることはあまりないでしょう。しかし、佐川急便は、サービスの需要が増えるなかで絶対量での環境負荷削減に挑んでいます。私たちも、こうした会社のサービスやノウハウを上手に使うことで、運輸部門のCO2削減に貢献できるのかもしれません。

(スタッフライター 小林一紀)

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