化学物質

2004年08月06日

 

PCBが脳の機能発達を阻害するしくみを解明

Keywords:  化学物質  大学・研究機関  生態系・生物多様性 

 

子どもの行動異常や学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、自閉症などの脳の発達障害が社会問題となっているが、その原因のひとつとして、環境由来の化学物質が子供の脳の機能発達に影響を与えている可能性が無視できなくなってきた。

脳の機能発達には様々なホルモンが関与しているが、ことに重要なのは甲状腺ホルモンである。東京都神経科学総合研究所・黒田洋一郎氏を代表とする、科学技術振興機構の研究チームは、PCB、ことに水酸化PCBが、この甲状腺ホルモンと化学構造が似ているため、そのホルモン系を撹乱し、脳の機能発達を阻害する仕組みを解明し、岩波「科学」2003年11月号で発表した。

研究では、PCB・水酸化PCBが甲状腺ホルモン依存性遺伝子の発現を阻害すること、さらに神経回路形成に必須な神経細胞の発達をも抑制することを培養細胞実験で確認。その最小阻害濃度は、いずれも数十pM(ピコモル:1リットルの水に物質が1兆分の1モル溶解した濃度)であった。

分解されにくく、環境での安定性が非常に高いPCBの汚染は、食物連鎖の結果、いまや北極圏にも達しており、アザラシなどを食糧とするイヌイットの人々からも、異常な高濃度のPCBが検出されている。日本ではPCBの開放系での使用禁止から30年以上経つが、禁止当時大量に廃棄されたものもあり、汚染がさらに進行していることも考えられる。

黒田氏は、他にも様々な残留性有機汚染物質の人体中での潜行拡大、あるいは数十年間潜伏の後、毒性をあらわしてくる可能性を指摘し、そうした物質が調査されることなく放置されている現状を危惧する。「身辺のどんな化学物質が、どんな毒性を持つのか」を早急に明らかにし、ヒトの健康へのリスク評価を行なう必要があると警告している。




http://www.jst.go.jp/




登録日時: 2004/08/06 10:18:17 AM

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