ニュースレター

2018年07月16日

 

シリーズ:日本の「いい会社」第4回
「八方よし」みんなで幸せになる経営

Keywords:  ニュースレター  お金の流れ  ダイバーシティ  企業活動  幸せ 

 

JFS ニュースレター No.190 (2018年6月号)

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イメージ画像:Photo by bBear.

JFSニュースレターでは、鎌倉投信株式会社取締役資産運用部長・新井和宏氏の著書『持続可能な資本主義』から、日本の「いい会社」の事例をシリーズでご紹介しています。最終回となる今回は、これまでの枠組み以外にもまだまだある、日本のいい会社を取り上げます。 


国をも味方に:ヤマトグループ

宅配便大手のヤマト運輸を中核とするヤマトグループは、2011年の東日本大震災の際に、被災地支援のために自ら動く社員を会社として助けました。

震災の直後、被災地で働いていた社員は自らの判断で、続々と送られてくる救援物資を運んでいました。ガソリンが不足している状況にも関わらず、業務外の荷物を会社のトラックで運んでいたのです。これに対し、本社はすぐに「救援物資輸送協力隊」を組織し、同社の業務として、自衛隊との協力の元、救援物資の輸送を続けさせました。

ヤマトグループはまた、自分たちの寄付が決められた使途に全額使われるよう、国への働きかけを行いました。震災後早々に、宅急便1個あたり10円を寄付することを決断。2011年度の総額は約142億円、年間純利益の4割にのぼりました。ただ、同社が直接寄付をすると課税対象となってしまうため、特例で非課税扱いにすることができないか、当時の社長、木川眞氏が財務省との交渉にあたりました。

当初、財務省は同社の志を理解しつつも難色を示しましたが、粘り強い交渉を重ねた結果、寄付のスキームを工夫することで非課税扱いが実現しました。ヤマトグループは、新設した公益財団法人にいったん寄付。財団はヤマトからの寄付に一般からの寄付も加え、第三者委員会の選定を経た助成先に寄付をするという形をとったのです。木川氏は自ら説明を行い、国内外の機関投資家の理解を得ることにも成功しました。

近年では、過疎地域での高齢者の安否確認や見守り、買い物支援の分野で、宅配便ならではの経験を生かし、多くの自治体と連携しています。

利益を出さない:サイボウズ

メールやスケジュール管理、掲示板等の機能を一つのソフトで提供できるグループウェアの開発・販売を手がけるサイボウズは、利益よりも社会のための再投資を優先させる方針を打ち出しています。そのために、利益を出さない、と宣言して株主に衝撃を与えました。株価が下がったとしても、同社の方針に共感してくれる人が投資してくれればかまわない、というスタンスです。

現社長の青野慶久氏が社長に就任した2006年当時、同社は「働きづらさ」の問題を抱えており、土日出勤・深夜残業は当たり前、離職率は28%に達していました。そこで、「百人いれば百とおりの働き方」に対応できる人事制度をつくる方針をたて、社長自ら率先して取得した育児休暇、勤務時間の選択制度などを次々に導入。その結果、離職率は4%まで改善されました。

こうした経験を活かし、ワーキングマザーが抱える現実についての動画や、働き方改革の現状を描いたアニメーション を制作するなど、働き方に関する啓発という、社会のためになる活動に利益を再投資しているのです。

障がいを持つ社員が支えるリサイクル:エフピコ

エフピコは、スーパーマーケット、食料品店などで使用される食品トレーなどの簡易食品容器の製造販売を手がけています。製造だけでなく、納品に向かったトラックがそのまま使用済み食品トレーを回収する独自のシステムとリサイクル技術を持ち、食品トレーや透明容器、ペットボトルのリサイクルも行っています。

同社では、グループ全体で約400人の障がい者を正社員として雇用しています。障がい者雇用率は14.56%に上り、そのうちの約4人に3人は重度の障がいを抱えながらも、リサイクルの現場で戦力として活躍しているのです。特例子会社社長の且田久雄氏は、「成長を確信して、ただ待つだけですよ」といいます。すぐに仕事ができるようにならなくても、こちらが焦らなければ、やがてきちんとできるようになるのだということです。

食品トレーは非常にかさばるため、回収のために長距離を移動すると輸送コストが高くなってしまいます。そのため、同社は各地にリサイクル工場を設立し、現地での障がい者雇用を進めることで相互発展をめざしています。


今回は、被災地支援のために国との交渉に挑んだ会社、日本社会全体が抱える働き方の問題に挑んでいる会社、障がいのある社員をメインの戦力に据える挑戦をしている会社をご紹介しました。

最後に同著書から、新井氏が提唱する「八方よし」をご紹介します。

「八方よし」は、日本的経営に内在する「三方よし」と欧米が提唱するCSV双方のよいところを取り入れたものです。「三方よし」の三方とは、売り手、買い手、世間。商いは、売り手にとっても、買い手にとってもプラスにならなければならない。さらに自分の商品は世の中全体にも役立つものでなければならない、という近江商人の商人道を象徴するスローガンです。

CSVとは、「企業が事業活動を通して経済性(利益の創出)と社会性(社会課題の解決)を両立すること」です。企業の利潤だけを最大化すればいい、という経営を見直すという点で、両者のベクトルはほぼ同じ方向を向いているといっていいでしょう。

「八方よし」の八方は、経営者、社員、取引先・債権者、株主、顧客、地域、社会、国です。「三方よし」を「八方よし」に拡張する際により積極的に意識されているのは、資源の有限性です。資本主義が無限に富を追求し、「フロー」にばかり注目している間に、地球の「ストック」である資源はどんどん失われてきました。今後も、資本主義がより効率的に機能すればするほど喪失の勢いは増していくはずです。

永続的な企業活動を実現するためには、「地球の燃料切れ」を起こさないように経営を続けていく必要があります。そのためには、「三方よし」やCSVの想定する利害関係者だけではなく、地球環境や世界全体までを視野に入れて、ステークホルダーを考えなければなりません。「八方」のなかに「社会」や「国」を含めているのはそのためです。

経営者、社員、取引先・債権者、株主、顧客、地域、社会、国という「八方」と共通価値を築き、みなが豊かになるような経営というと、夢のような話に聞こえるかもしれませんが、本シリーズでご紹介した「いい会社」はそんな「八方よし」を体現しています。まだまだこれからも、ユニークないい会社が増えていくことを期待します。

〈JFS関連記事〉
シリーズ:日本の「いい会社」第1回 社員の幸せと信頼を大切に
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シリーズ:日本の「いい会社」第2回 会社に関わる人々の幸せを
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シリーズ:日本の「いい会社」第3回 会社が地域や社会にできること
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(編集:スタッフライター 坂本典子)

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