ニュースレター

2018年01月23日

 

シリーズ:日本の「いい会社」第1回
社員の幸せと信頼を大切に

Keywords:  ニュースレター  お金の流れ  企業活動  幸せ 

 

JFS ニュースレター No.184 (2017年12月号)

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イメージ画像:Photo by creisi Some Rights Reserved.

JFSニュースレター2017年4月号では、鎌倉投信株式会社取締役資産運用部長の新井和宏氏へのインタビューより、「いい会社」に投資することでよりよい社会づくりに近づけていこうとしている投資会社の取り組みをご紹介しました。

これからの社会を創る「いい会社」を支える
https://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id035813.html

新井氏は自身の著書『持続可能な資本主義』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)で、リーマンショック以降の世界経済や、国内外で様々に指摘されている現在の資本主義への批判、利益の追求だけを志向した効率至上主義の限界について述べています。

従来型の金融のあり方に限界を感じた経験を踏まえて新井氏が出した結論は、これからの社会に必要とされる会社、経済性と社会性を兼ね備えた会社を「いい会社」と定義づけ、「いい会社」だけに長期で投資する鎌倉投信の投資スタイルです。

それでは、日本にはどんな「いい会社」があるのでしょうか? JFSニュースレターでは、新井氏の快諾を得て、書籍「持続可能な資本主義」を参考に、日本の「いい会社」の事例をシリーズでご紹介していきます。第1回となる今回は、社員の幸せを重視している企業の事例を取り上げます。


信頼が社員のやる気を引き出す:未来工業

岐阜県に本社を置き、電気設備資材、給排水設備およびガス設備資材の製造販売業を営む未来工業は、ただ単に良い給料を出すだけでなく、社員を信じることでやる気を引き出し、業績につなげている「いい会社」です。

未来工業では、社員を管理したり、強制したりすることはありません。日本の企業では強く社員に推奨されるホウレンソウ(報告・連絡・相談)は強制されず、ノルマや指示・命令もありません。上司の管理ではなく、徹底的に社員を信頼して仕事をまかせられるのです。出張精算や社員食堂のランチ利用数も経理部門からのチェックがなく、全従業員数800人以上でも管理部門は10数人、と徹底しています。

社員への管理・強制を徹底的になくす一方で、未来工業は「常に考える」ことを会社の理念として推奨しています。その一例に、どんなアイデアでも提案すると会社から最低500円はもらえる制度があります。やってみてうまくいかなければ元に戻せばいい、という価値観が浸透しているため、失敗をおそれず次々と社員から出てくるアイデアから新商品が生まれ、3,000件を超える特許・実用新案・意匠につながっています。

未来工業では、今、日本の社会で問題となっている長時間労働がありません。残業しない人がいい社員とされ、浮いた残業代が昼食代の補助等として社員に還元される仕組みになっているため、社員は残業にならないよう工夫して仕事に取り組んでいます。また、「社員をコスト扱いしたくない」として、非正規のパートタイムや派遣社員ではなく、社員全員を正社員として雇用し、定年は70歳。給与水準は岐阜県ではトップクラスです。

社員を信頼し、高いモチベーションで楽しく働ける環境づくりで、未来工業は高収益を上げ続けており、過去3年間を見ても、いずれの年も売上高経常利益率が10%を上回っています。


自然体で成長しつづける「年輪経営」:伊那食品工業

長野県伊那市にある寒天メーカー、伊那食品工業は「いい会社」を次のように考えています。

単に経営上の数字が良いというだけでなく、会社をとりまくすべての人々が、日常会話の中で「いい会社だね」と言ってくださるような会社の事です。「いい会社」は自分たちを含め、すべての人々をハッピーにします。そこに「いい会社」を作る真の意味があるのです。

(伊那食品工業HPより)
https://www.kantenpp.co.jp/corpinfo/rinen/

伊那食品のユニークな経営は、同社の「年輪経営」という考え方にも表れています。

木は寒さや暑さ、風雪などの環境によって幅は変わりますが、年輪を必ず作り前年よりも少しだけ成長します。 そして成長を止めません。 確実に年輪を一輪ずつ増やしていきます。これこそ企業の自然体であり、あるべき姿ではないかと思っています。

年輪の幅は、木が若い頃は広く、ある程度の大きさになると狭くなるのが自然の摂理です。狭くなるのですから成長率は低くなります。しかし、木全体の円周、容積は年々大きくなっているのですから、成長の絶対量は大きくなります。また、一時的な数字にとらわれて売り上げ増だけを狙うと、他の要素は売り上げに追いつけず、内部に空洞が生じてしまいます。

当社は成長の数値目標は掲げていません。売り上げや利益の数値は、自然体の年輪経営の結果であり、あえて目標を掲げる必要はないと思うからです。売上高を伸ばす事を目指すのではなく、社員一人ひとりが能力を充分に発揮し、色々な面で成長できる事を目指しています。

(伊那食品工業HPより)
https://www.kantenpp.co.jp/corpinfo/rinen/01.html

一時期、伊那食品の主力商品の寒天の消費ブームが起こり、注文が殺到して社員が喜んでいたそのとき、塚越寛会長は一人、この年輪経営の価値観に照らして、これは会社の大ピンチだと危機感を覚えたといいます。いつかは終わるブームを追わず、注文に対して生産が間に合わなくても無理な設備投資をしない、自然体で少しずつの成長をめざしたことで、創業以来48年連続で増収増益を達成したのです。

「自分たちを含め、すべての人々をハッピーにする」ため、伊那食品では、「社員が幸せになるような会社をつくる」ことを明確に謳っています。

今の時代、「本来あるべき姿」を見失った経営者、会社が多すぎるような気がします。 その結果が世界的な景気後退を招いているのではないでしょうか。

経営にとって「本来あるべき姿」とは「社員が幸せになるような会社をつくり、それを通じて社会に貢献する」ことだと思います。そして売り上げも利益もそれを実現するための手段に過ぎないのです。

会社を家庭だと考えれば、分かりやすいかと思います。社員は家族です。食べ物が少なくなったからといって、家族の誰かを追い出して、残りの者で食べるということはありえません。会社も同じです。家族の幸せを願うように、社員の幸せを願う経営が大切なのです。またそう願う事で、会社経営にどんどん好循環が生まれていくのではないでしょうか。

(伊那食品工業HPより)
https://www.kantenpp.co.jp/corpinfo/rinen/04.html

社員を幸せにするために、会社の売上げや利益よりも社員ひとりひとりの成長を重視する。社員は家族も同然だから、リストラは一切せず、定年退職後も働き続けられる場所を作る。伊那食品で働けることが社員にとっては誇りとなっているようです。ごみが落ちていたら社員として自分がはずかしい、と朝は自主的に広い敷地内の庭掃除が始まります。

地域の人々がお客様であり、また地域の人に社員になってもらっているため、伊那食品では地域への貢献を本業と考えています。継続的に地元の清掃作業を行ったり、地域の行事を支援したりしています。

社員が出勤するときは、会社の前の片側一車線の道路を右折しないようにしているといいます。右折待ちをしていると後続車が詰まって、渋滞を起こしてしまうからです。一度通り過ぎて反対の道から左折で入るようにしているそうです。

また、地域内のスーパーなどでは、体への負担から妊婦さんやお年寄りが入口近くに駐車できるように、伊那食品の社員は入口からなるべく離れたところに駐車するよう心がけています。

こうしたことの積み重ねで、伊那食品は地域から愛される会社になりました。そのことは社員にとっての誇りであり、幸せでもあるため、自ら会社や地域に貢献する行動へとつながっていくのだと思います。


利益の追求よりも社員の幸せを考える。その結果社員のやる気や自主性を引き出し、会社自体も無理なく成長していく。「社員よし」の「いい会社」を2社ご紹介しました。JFSニュースレターでは、今後もさまざまな切り口から日本の「いい会社」を紹介していきますので、ご期待ください。

(編集:スタッフライター 坂本典子)

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