ニュースレター

2017年10月21日

 

西粟倉村で見つけた「私」起点の取り組み

Keywords:  ニュースレター  エコ・ソーシャルビジネス  市民社会・地域  幸せ 

 

JFS ニュースレター No.181 (2017年9月号)

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西粟倉村

岡山県の北東端、兵庫県と鳥取県との境に西粟倉村はあります。人口は1,490人、面積は57.97平方キロメートル(2017年8月1日現在)。村の中央を流れる吉野川に沿って、細長い平野部が広がっています。村の面積の約95%が森林。ほとんどはヒノキやスギで、村の北端では世界的にも希少な若杉天然林が四季の変化を壮観に映し出しています。

西粟倉村は2004年、平成の大合併を拒み「村」として自立することを決断しました。その後、村の自立をどのように進めていくかを村民だけでなく、村外の人々も巻き込みながら一緒に検討してきました。そして、2008年には「西粟倉村百年の森林構想」を掲げました。この構想は、50年先を見据えるものです。

50年先なのになぜ百年? と疑問に思われるかもしれませんが、過去を振り返ると、50年前にも村の未来を考えて行動してきた人たちがいます。その人たちが植えた木が樹齢50年を迎え、その人たちの想いも一緒に未来に繋いでいきたいとの考えが「百年」という言葉に込められているのです。そして、森林だけではなく、村自体も、村に住む人々も育っていけるようにしたいとも考えています。

今月号のニュースレターでは、自分がやりたいことを地域で実現する「私」起点の取り組みをはじめとする、西粟倉村の取り組みをご紹介します。

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百年の森林構想で整備された森林

西粟倉ローカルベンチャースクール

地域活性の文脈で語る際に、人の特性を、狩猟系(野心が主たる行動原理)、遊牧系(好奇心が主たる行動原理)、農耕系(安心が主たる行動原理)の三つに区分することがあります。西粟倉村には、狩猟系の人々がどんどん移住してきており、移住者は100名以上。ベンチャー企業が13社立ち上がり、年間売り上げは8億円強に上ります。この流れをプログラム化して持続可能にできるように、2015年から「西粟倉ローカルベンチャースクール」(以下、LVS)が開催されています。

LVSは、参加者が村を拠点とした新規事業を立ち上げることを前提にして開催されるもので、最終選考を通過した参加者には、研修機会や補助制度の支援などのサポートが用意されています。

西粟倉村で行われる1次選考会では、村民の方々から直にフィードバックをもらえるようになっています。また、より具体的な計画を練られるように、役場の方と参加者がチームを構成することで、すぐに疑問を解消したり、事業を行うのに相応しい場所を視察に行ったりできます。その後ブラッシュアップ期間を経て最終選考会が開催され、通過者は実際に事業運営を行っていきます。

LVSの特徴は、全てが「私」起点なところにあります。何度も「本当にそれが自分のやりたいことなのか?」と問い続けられます。その度に改めて自分を振り返り、事業を手直ししていきます。地域のため、日本のため、社会のためという理由から始まるのではなく、参加者が持つ熱量を引き出して、その熱量を選考会という形で村民にも聞いてもらう、というプロセスを通して一体感を生み出しています。

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西粟倉ローカルベンチャースクール2015で採択された帽子屋UKIYO

西粟倉ローカルライフラボ

村内で人をこつこつと育てていくことへの挑戦も始まっています。それが「西粟倉ローカルライフラボ」(以下、LLL)です。狩猟系の人々のように最初から起業家として村に関わるのではなく、農耕系の人たちが村を知りながら育っていけるようなプログラムです。

参加者は一年間をかけ研究生として村を知りながら、将来を見つけていきます。参加者一人ひとりは、自由に将来を選択することが出来ます。起業するならLVSを活用して事業を創っていくことも目指せますし、村内企業に就職して生活していくことも出来ます。村民を卒業して外に出ていくという選択肢もあります。

森のうなぎ

LVSとLLLの仕掛け人として活躍している株式会社エーゼロの牧大介さんは、自身でも事業を進めています。「森のうなぎ」という名で販売されている鰻の養殖事業を、廃校となった小学校の体育館で行っているのです。村内の木材加工場から出る木屑を燃料に養殖に適正な温度管理を行い、自然資本を無駄なく使う取り組みです。なるべく薬品に頼らない方法で、食べる人の体にも優しい育て方をしています。

経営的な面でもこだわりがあります。簡単に言うと、一本のうなぎの価値を最大化しようとしていて、例えば、<養殖→加工→流通→小売>というプロセスでウナギは消費者のもとへ届きますが、加工の際にウナギの頭は廃棄されてしまいます。しかし、頭にはコラーゲンが多く含まれており、これを上手く使おうという試みがなされています。加えて、おいしく食べてもらえるように冷凍技術にもこだわっています。ただし、高価な技術を導入するのではなく、低コストで行える方法を研究し、実践しています。

養鰻を通して、以前は牛が担っていた、山と田畑を繋ぐ役目を果たしたいと考えています。山で得た木材の木屑が燃料となり、養鰻で出た栄養素を田畑に使い穀物や野菜を育てる試みもしています。村自慢の森林が、博物館のような見るものではなく、ビジネスを通して必要なものになるような工夫があります。

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森のうなぎ

地域創生が盛り上がり、日本中の至るところで活動している人たちがいます。けれど一方で、その人たちがバーンアウトしてしまうという課題もあります。「私」起点で事業を考えることは、一つの解決策になるのではないでしょうか。そして、そこに込められた熱量を地域の人たちと直に共有する場があることで、「私」と地域が共創していける未来を創っていくことが出来ると思います。

さらに、緩やかな繋がりのなかで地域を知りつつ、自分を見つめ直せる機会があるのは、時間に追われて過ごす現代においてとても貴重なのではないでしょうか。挑戦したい人も、まだモヤモヤしている人も受けいれる、そんなあたたかさが西粟倉村にはあります。

スタッフライター 橋本雄太

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