ニュースレター

2017年09月11日

 

一宮市の1パーセント支援制度:「税金の使い方を市民が決める」仕組み

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JFS ニュースレター No.180 (2017年8月号)

一宮市「市民が選ぶ市民活動支援制度(1%支援制度)」ウェブサイト
一宮市「市民が選ぶ市民活動支援制度(1%支援制度)」ウェブサイト

町内の清掃活動やパトロール、あるいは市民の健康や趣味のための活動など、「市民(町民・村民)による、市民のための活動」は数多く行われています。この記事をお読みの皆さんの中にも、こうした活動に参加している方がいらっしゃるのではないでしょうか?

こうした市民活動に対して、自治体が補助金を交付していることはよくありますが、多くの場合、どの団体に対して、どのくらいの補助金を交付するかは自治体が決めています。ところが、愛知県一宮市では、市民の投票によって支援団体を選ぶというユニークな取り組みが、2008年度から行われています。「市民が選ぶ市民活動支援制度(1%支援制度)」です。

これはどのような制度なのでしょうか? なぜ「1%支援制度」と呼ばれているのでしょうか? 今月号のニュースレターでは、この取り組みについてご紹介します。

一宮市の「市民が選ぶ市民活動支援制度(1%支援制度)」

愛知県一宮市は、名古屋市にほど近い、人口約39万人の自治体です。一宮市の「1%支援制度」では、18歳以上の一宮市民が、支援したい市民活動団体を3つまで選んで投票します。そして、市民活動団体は投票人数に応じた支援金を受け取ることができる仕組みです。

一宮市では、「一宮市の個人市民税の総額の1%分」を、「18歳以上の市民の人口」で割った額を、「市民一人あたりの支援額」(例えば2016年度は640円)としています。これがこの制度が「1%支援制度」と呼ばれている所以です。つまり、「市民が支払った市民税のうちの1%の使いみちを、市民自身が決められる」という考え方です。

支援金を受ける団体と支援金額は、このように決められます。まず、「支援金を受けたい団体」は、事業計画と希望金額を市に提出します。その計画は、要件を満たしているという確認を受けた上で、市の広報やウェブサイトで公表されます。その情報をもとに、18歳以上の市民は、支援したい団体を3団体まで選択し、郵送やインターネットなどで投票します。なお、特定の団体を応援するのではなく、市民活動自体を支援したいという場合は、「市民活動支援基金」への積立を選ぶこともできます。この投票結果に応じて、各団体に、事業の終了後に支援金が交付されます。

各団体への支援額は、「個人市民税の1%分の金額を18歳以上の人口で割った額」と「投票数」に応じて決まります。市民は支援したい団体を3つまで選ぶことが出来ますが、1団体のみを選んだ場合は、「市民一人あたりの支援額(2016年度であれば640円)」の全額が、2団体を選択した場合は半額、3団体を選択した場合は3分の1の額が、その団体に交付される上限の額になります。

ある団体が15万円の支援を希望していると仮定します。投票の結果、(a)その団体のみを「支援したい」と選んだ市民が200人、(b)その団体も含めて2つの団体を選んだ市民が100人、(c)3つの団体を選んだ市民が300人いたとします。そしてその年の「市民一人あたりの支援額」は600円だったとしましょう。

この場合は、下の計算により、その団体への支援額の上限は21万円となります。
(a) 200人×600円(市民一人あたり支援額の全額)=120,000円
(b) 100人×300円(市民一人あたり支援額の半額)=30,000円
(c) 300人×200円(市民一人あたり支援額の3分の1の金額)=60,000円

投票により算出された21万円のうち、団体の支援希望額の15万円が団体に支払われ、残りの6万円分は市民活動支援基金に積み立てられます。投票によって算出された支援額が、団体の支援希望金額を下回った場合は、投票によって算出された支援額分のみが団体に支払われます。

制度の利用状況

それではどれくらいの市民が、この「投票」に参加しているのでしょうか? 2016年度には、一宮市の18歳以上人口320,066人のうち36,908人が支援希望団体を届け出ていますので、参加率は11.5%でした(ただし、そのうち有効だったのは、34,582人分でした)。この年度に実施された事業に対する市民一人あたりの支援額は631円だったので、合計2200万円に近い金額が、支援を希望した64の市民団体への支払い、または、市民活動支援基金への積み立てに用いられました。

この年の市民の参加率は11.5%でしたが、支援する団体を選択する過程に加わる市民が増えれば、市民活動団体への支援額はさらに増えます。

2016年度に各団体が受け取った支援額を見ると、平均額は約25万円でしたが、団体によって受取金額には差があり、数万円を受け取っている団体から、150万円を超える額を受け取っている団体まで様々です。

この年度に最も多くの支援金を受け取ったのは、約190万円を受け取った地域でスポーツ教室を開催する団体の事業で、この団体の事業に「投票」した人は合わせて3,133人でした。

この団体は、一宮市内の学校や体育館などでサッカーや剣道などのスポーツ教室を開催しており、2016年度には延べ約1,000人の市民がこの事業の恩恵を受けています。支援金は、講師への謝礼や会場費、チラシ制作費などに使用されました。

この年、2番目に支援額が多かった事業は、ホームレスなどの自立支援を行う事業で、約110万円の支援を受けました。この団体を選んだ市民は、合わせて2,384人です。この事業は、一宮市内のホームレスや生活困窮者などに対する生活相談やシェルターの運営、就労支援、フードバンクの活動などを行っていますが、この活動経費の一部に支援金が使われています。

その他にも、小中学生を対象とした楽器の講習会や、ホタルを飼育する活動、祭りを開催する活動、防災、パトロールなど、2016年度には64団体が支援を受けています。

市民が決める税金の使いみち

「1%支援制度」は、一宮市以外では、千葉県の市川市で2005年度から2015年度まで行われていたほか、千葉県八千代市でも2009年度から取り入れられています(実施方法は自治体によって違います)。また、「1%」という名称を用いていないものの、投票によって支援する市民活動を決める制度を取り入れている自治体は他にもあります。

こうした日本の自治体の1%支援制度は、もともとは、ハンガリーで1996年に成立した「パーセント法(所得税の1%、あるいは2%を、納税者が選んだNGOなどに提供できる法律)」という国の法律を、自治体向けに応用したものです。

また1%支援制度と同様に、市民が税金の使い方を選ぶ制度として、「参加型予算」という制度をあげることが出来ます。米国のニューヨーク市やボストン市、フランスのパリ市など、世界中の3,000以上の都市が参加型予算を実施してきました。

参加型予算にも様々な方法がありますが、パリ市の場合、パリ市の公共の建物などの建設と改修に使われる予算のうちの5%が、参加型予算に割り当てられています(2015年には、合わせて約100億円が割り当てられました)。住民はこの予算を使って実施されるプロジェクトを提案することができ、どのプロジェクトが採用されるかも住民投票によって決められます。

参加型予算も、1%支援制度も、市民の意志をより直接的に自治体の予算の使い方に反映させる制度です。市の予算を使って実施されるプロジェクトの提案と採択の決定権を市民が持つというパリ市の参加型予算に対して、1%支援制度は、どの市民活動に、どの程度の金額を支援するのかを、市民が決める制度であり、市民にとってより身近な制度と考えることができるでしょう。

みなさんがお住まいの地域には、住民が直接参加して自治体の予算の使い方を決めるユニークな制度はありますか? 「私の自治体は、このような取り組みを行っている」といった事例がありましたら、JFSまで是非お知らせください。

〈参考〉
一宮市「市民が選ぶ市民活動支援制度(1%支援制度)」
http://www.138npo.org/seido/

スタッフライター 新津尚子

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