ニュースレター

2017年06月30日

 

楽しく歩いておトクに健康増進 ―― 健幸ポイントプロジェクト

Keywords:  ニュースレター  幸せ  政策・制度 

 

JFS ニュースレター No.178 (2017年6月号)

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イメージ画像:Photo by Tsippendale.

日本は、世界一の長寿国であると同時に、高齢化率が最も高い国でもあります。厚生労働省の調査によると、全人口における65歳以上の人口の割合は26.7%(2015年)を占め、年々増加傾向にあります。それにともない国民医療費も年々増加しており、2014年度には40兆8070億円にも上っています。

このような状況を背景に日本では、高齢化が進行しても元気に暮らせる、持続可能な予防型社会をつくろうという動きが起きています。自律的に「歩く」ことを基本とする「健幸」なまち(スマートウエルネスシティ)を構築することにより、健康づくりの無関心層を含む住民の行動変容を促そうと、産官学が連携して「健康長寿を創造するスマートウエルネスシティ総合特区」を設置しました。

今月号のニュースレターでは、総合特区で実施された実証事業である、健康づくりに関心の無かった人でも楽しく参加でき、「歩く」ことで健康増進を図る健幸ポイントプロジェクトの取り組みについてお伝えします。

プロジェクト概要

医科学的なデータをもとに健康施策の分析を行う株式会社つくばウエルネスリサーチが中心となり、2014年12月から2017年3月までの期間、スマートウエルネスシティ総合特区に参加する6市(福島県伊達市、栃木県大田原市、新潟県見附市、千葉県浦安市、大阪府高石市、岡山県岡山市)と連携して、「6市連携健幸ポイントプロジェクト」が実施されました。

健幸ポイントは、各市で提供される健康づくりのプログラムに参加・継続することや、日々の健康努力等によって健康状態を改善することで付与され、年間で最大24,000ポイント(24,000円相当)を獲得することができます。

ポイントが付与される例を、いくつかご紹介しましょう。基準歩数に比べて一定量歩数が増加した場合や、推奨される歩数を達成した場合には「がんばってますポイント」が月に800ポイント。指定のプログラムに参加した日数に応じて付与される「行きましたポイント」は、1回あたり20ポイント(月最大200ポイント)。3か月毎に測定するBMIや筋肉率が、改善されていたり、基準範囲内を維持していたりする場合は6カ月で500ポイント。

たまったポイントは、Pontaポイント、地域商品券や社会貢献(寄付)に交換することができます。インセンティブ制度を用いることによって、運動習慣のない人や運動量が十分でない人の健康づくりの動機付けにつなげることが狙いです。

参加条件は当該自治体に居住する40歳以上の男女であり、参加者には歩数計が貸与されます。歩数計に蓄積される歩数データと、拠点に配置された体組成計で測定された体組成データをもとに、健康づくりへの「努力」と「成果」の視点で構築されたアルゴリズムによって、ポイントが算出・付与される仕組みとなっています。

●プロジェクトの成果

3年間プロジェクトを継続することで、3つの成果が得られました。

  1. 多くの運動無関心層が参加
    参加者約12,600名のうち、全体の76%は日常的に運動習慣がない人(運動未実施層)と、健康づくりプログラムに参加したことはあっても身体活動量が十分でない人(運動不充分層)から成る運動無関心層が占めました。

    参加者の歩数の推移に注目してみると、開始後1週間は1日あたり平均6473歩だったのが、開始6か月後には、国が定める推奨活動量(1日あたり8000歩)以上となり、約2000歩の増加がみられました。歩数の増加は一時的なものに留まらず、18か月目には8647歩と、推奨活動量以上を維持しています。運動無関心層においても、開始当初は4800歩でしたが、18か月後には7500歩となり、約3000歩も増加しました。

    参加インセンティブが付与されること、健康教室や自分に適した運動プログラムが提供されることにより、運動への意欲を刺激し、身体活動量の増加や継続などの運動無関心層の行動変容を促す可能性があることが、このプロジェクトによって実証されたのです。

    ※今回の実証事業における「運動未実施層」の定義は、事業開始前に国の推奨活 動量を満たしておらず、自治体や民間のスポーツ・運動教室に参加していない者。「運動不充分層」は、事業開始前に国の推奨活動量を満たしていないが、自治体や民間のスポーツ・運動教室に参加している者。

  2. BMI、メタボ等の健康改善効果
    身体活動量の増加に伴い、参加前はBMIが25以上の参加者のうち、26%の参加者が18カ月目には25未満へと改善しました。また、参加前にメタボ該当および予備軍と診断された参加者のうち、35%が2年後の健診では非該当に診断され、改善しました。運動を継続することによる健康影響への効果が、明確に表れていることがわかります。

  3. 医療費抑制、地域経済波及効果
    国民健康保険加入者の一人当たり医療費について、事業開始前後での推移を調査したところ、参加6市全体における年間医療費は、60歳代では1人あたり4.3万円、70歳以上では9.7万円抑制されました。また、地域経済波及効果は1.2億円、事業全体の効果額(=年間医療費抑制額+地域経済波及効果-年間事業費)は年間4.7億円になることが試算されています。

実施した自治体の1つである栃木県大田原市の参加者アンケートでは、「ポイントがたまることで励みになる」「健康教室には多くの仲間がいるので楽しく取り組める」など、今回の事業に満足している声や事業継続を求める声が多くあがっています。

自分が努力して運動した結果が数値やポイントとして目に見えるかたちであらわれ、そのポイントがたまる喜びと、自分自身の体が健康になってきていることを実感できる喜びをダブルで感じることができることが、個々人の継続にもつながっていると思われます。

実証事業終了後の動き

実証事業は2017年3月で終了しましたが、栃木県大田原市をはじめ新潟県見附市、岡山県岡山市、福島県伊達市、大阪府高石市は、各市の自前の財源を確保して事業を継続する方針を出しています。スマートウエルネスシティ総合特区以外においても、各市町村独自の健幸ポイント制度を実施している自治体が増加傾向にあります。

民間企業においても、今回の実証事業で得られた成果をもとに全国に広げるため、ICTシステムを活用して2020年度には100万人以上の住民へのサービス提供を目指す企業や、従業員の健康増進を促すために企業内での取り組みを進めている企業もあります。

高齢化が進行している現在、健康長寿は個人にとっても社会にとっても重要な課題です。しかし一方で、健康増進のための行動が個人の習慣として定着しづらいことを実感している方も多いのではないでしょうか。今回の取り組みが全国規模の広がりを見せ、より多くの人の健康増進につながることを期待します。

スタッフライター 久米由佳

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