ニュースレター

2017年03月12日

 

一人ひとりが輝く持続可能なまちづくり

Keywords:  ニュースレター  レジリエンス  市民社会・地域  幸せ 

 

JFS ニュースレター No.174 (2017年2月号)

写真:川西ダリヤ園
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人口約2,500人の山形県東置賜郡川西町吉島地区・全725世帯が加入する特定非営利活動法人きらりよしじまネットワーク(以下きらり)は、地域のコーディネーターとしての役割に徹し、「地域住民があらゆる分野で、こころ豊かで一人ひとりが輝けるまちづくり」を目的として活動しています。今月号のJFSニュースレターでは、きらりで事務局長を務める髙橋由和氏が、2016年9月7日に実施された社会事業家100人インタビュー* でお話された内容をお届けします。

* 社会事業家100人インタビュー:ソーシャルビジネスネットワーク(SBN)が、2012年6月からほぼ毎月1回のペースで開催している、先輩社会事業家からビジネスモデルを学ぶための連続対話型講座。

住民自身が考えて判断し、地域経営の主体となる

写真:髙橋由和氏
髙橋由和氏
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山形県では、家族間・地域内で助け合える状況がまだありますが、近い将来に起こることを住民自身がしっかり理解し、先を見て動いていかなければなりません。人口が減り続けている小さな地域だからこそ、人材と資源を集約し、住民のためのサービスを住民自身が創出していかなければ、地域の持続は不可能です。

たとえ課題が大きくても、なるべく夢と遊び心をもって解決する方向に向けていきたいと思っています。行政に依存せず、住民の愛郷心を育むことで多世代が交流し、くらしの課題を解決していくしくみをつくりたかったのです。

小さな地域では、目的ごとに組織をつくっても、役員の重複、事業のマンネリ化、団体ごとの余剰金...など多くの問題が発生します。これに対して一体型の地域運営組織なら、合意形成が速く、手続きも単純・効率化できます。地域の要望を取りまとめ、優先順位を付けて示すといった、行政との機能的で対等な関係も生まれます。

2004年に、地域づくりの統治主体となるNPOの立ち上げ説明会を開始。メリットとデメリットを漫画も使ってできるだけわかりやすく説明し、歴史ある組織の分解に反対する自治会のリーダーなどからも理解を得て、2007年に法人設立にこぎつけました。

この過程で痛感したのは、これまで地域づくりのあり方を住民自身が考え判断してこなかった、ということです。分厚い資料で役所が示す案件は専門用語が多く、つい判断を委ねたくなりますが、これでは住民が主体性を持ちづらく、無関心に陥る可能性も高くなります。

自分で考えて決めていく作業を地域に根付かせるために生まれたのが、住民ワークショップでした。当時、地域の住民は、提示される内容の承認や確認には慣れていましたが、自由に議論して方向性を見出す話し合いには慣れていませんでした。自らが考え、行動するプランやアイデアを出し合うのは、新鮮だったかもしれません。

「ニーズを聞く」と「解決をかたちにする」をセットで

最初の「住民ワークショップ」では、15人の参加者に心からの感謝を伝え、日ごろの不安・不満・意見を聞き、意見を出してくれたら誉めました。参加しただけで喜んでもらえる、意見を認めてもらえる、否定されない。フレキシブルで自由な話し合いの運営に気を使いました。

事務局は、出された意見を整理し、参加者全員で解決策を考えていきます。たとえば「地域活動に若者の参加が少ない」という声に、「若者に何をさせたいのか?」「若者は何を求めているのか?」などと聞き返していくわけです。

ワークショップを重ねていくうちに、驚いたことがあります。行政に対してただ要望するのではなく、住民が持つ技術、時間、場所などの資源を地域に提供することで解決できないか、という思考にだんだん変わってきたのです。もちろん、ワークショップで否定的な意見や愚痴を言う人もいます。そんなときは、事務局がうまく突っ込むことで、「できない」「してほしい」で終わらないよう、楽しく前向きな改善案につなげるようにしています。

これまで住民のガス抜きの場がなかったこともあり、クチコミで参加者は増えていきました。女性限定・高齢者限定などの枠も作って、偏りのない意見を拾っていきます。事務局はワークショップや住民アンケートの結果を整理し、各小委員会→事務局会→理事会→総会の流れで具体的な企画に反映させていきます。この流れを見せることで、住民が解決への道筋を理解し、参加率もさらに上がるという好循環につながっています。

ワークショップは「決める会議」ではないので、何を言ってもいいのです。ただし、企画時点で出口を明確にし、話し合いが何に反映されるのかを伝えないと、次からは来てくれなくなります。「聞く」と「かたちにする」がセットになっているので、ニーズのくみ上げが続けられるのです。

地域で人材を育て、地域に還元する

現在、きらりは常勤5名・非常勤23名の事務局が、自主防災、生涯学習、地産地消、地域環境保全、青少年健全育成、地域のスポーツ拠点づくりなど全54の事業をコーディネートし、住民活動を支援しています。全住民が事業の担い手かつ利用者です。各事業では参加費や月謝を収入とし、きらりからは、住民や企業からの寄付を原資とする活動助成金の交付もします。地域の団体や自治会など、各事業体が競い合うことも大切だと考えています。

「人材育成は重要」と言われますが、どのような人が必要なのかが議論されていないことがほとんどです。必要な人材を育て、うまく世代交代させていかなければなりません。きらりでは、19の自治公民館から半強制的に18~35歳の若者を推薦してもらい、4年間さまざまな経験を積ませます。事務局になると地域の人たちからとてもほめられるので、今では、大学を卒業したら事務局に推薦してほしいと予約が入るくらいです。

事務局は地域事業のコーディネーターなので、コーチングとファシリテーション研修の受講が必修です。事務局を経てマネジャーや理事になった場合は、外部から専門家を招いてマネジメントとマーケティングの研修を受けます。経営層の経営能力が安定すれば、事務局は安心して住民支援に力を注げるのです。

研修で得たスキルは、各人が所属する会社やサークル、地域活動でも活用され、地域に還元されます。育った人材は、やがて若者を推薦する側にまわり、世代交代が進んでいくしくみです。地域活動にかかわる住民が自発的に企画する、活動に必要な知識やスキルを得るための研修もさかんに行われています。企画した研修に周りの人を誘うことで、事業を一緒に進める仲間が広がるわけです。

外とつながりながら、すべての住民に出番をつくる

これまでの「地縁」だけで地域を維持していくと、変化への抵抗は避けられず、どうしても停滞が生じます。外部の資源を受け入れながら、想いを持って集まった人をゆるやかにつなげて知恵を出し合う「知縁」に変えていくことが必要です。

さまざまな住民の出番があれば、支えられる人も支える人になれます。認知症でもサークルで教える側にたつ方、フットケアの資格を取ってリタイア後に再デビューする方もいます。学童クラブでは、地域の高齢者が運営をサポートしたり、元教師が不得意科目克服コースで勉強を教えたりなど、子どもと親のニーズに合わせて工夫し、事業を自発的に生み出しています。Uターン者の多い農業青年コミュニティでは、農業研修生受け入れや農都交流、商品開発・営業などを通して、若者が高齢者の所得向上もサポートしています。

事業継続のためには、外への自分たちの活動の見せ方を常に意識して、共感してくれる人を増やし、拡げていくことが必要です。提案力と実践力がセットで問われる訳です。助成金を使うなら、使い切りにせず、次の展開につなげていかなければなりません。

移住者・UIターン者の受け入れ態勢も大切です。ただ家を手当するだけでは定着してくれません。たとえば、町内会費が高いと言われた場合は、内訳や使途、集金方法などについて説明しに行きます。除雪など慣れないことは自治会でサポートし、スノーダンプの押し方も教えています。また、最初から副会長などあまり負担の大きくない役を担ってもらい、地域に早くなじんでもらえるよう配慮しています。

まず外からの認知を高め、地域内の信頼を得る

法人化してからの3年間、何がどうよくなったのか、内外から問われ続けました。そこで、ケーブルテレビやラジオ等を活用して活動からの利を感じた方の声を発信したり、全戸配布の活動報告書に住民をどんどん出したりするなど、活動を身近に感じてもらうよう心がけました。その結果、地域外からも注目を集め、教えてほしいという声をたくさんいただくようになり、よい関係を築けています。

きらりは比較的、女性・子ども・高齢者に手厚い事業を推進しているので、私の親世代の方々や、子育て中のママさんたちのハートもがっちりつかんでいます。反対勢力は私と同年代の男性が多いですが、親御さんや奥さんから「きらりのおかげで助かっている」と言われると、黙らざるを得ないようです。

私自身は、まちづくりへの愛と情熱を大事にしていますが、それを後押しするのは住民の声です。住民が決めたことを真摯に支援するだけ。私がいなくても回るしくみは、ほぼ整ったと思います。最近は「住民内発型地方創生」とも呼ぶべき、きらりのモデルを紹介するために、他の地域に出ることが増え、「もう頼れない」と思ってくれているのではないでしょうか。

社会事業家の先輩にビジネスモデルを学ぶ!
社会事業家100人インタビュー第50回 より
http://socialbusiness-net.com/contents/news5257

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