生物多様性・食糧・水

2017年01月29日

 

周辺環境への配慮大切

Keywords:  生態系・生物多様性  レジリエンス  市民社会・地域  震災復興 

 

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東日本大震災の被災者支援プロジェクト「JKSK結結プロジェクト」が、東京新聞への連載を通じて被災地復興の様子を伝える「東北復興日記」。今回は、2016年9月6日に掲載された、復興の取り組みを進める上で周辺環境に配慮することの重要性を伝える記事をご紹介します。

被災地での復旧・復興事業は、1961年制定の災害対策基本法を部分的に改定しながら進められています。経済成長段階での法律であり、2010年代の復興事業としては状況がそぐわない点も出ています。

最大の懸念は、この法律に環境アセスメントが適用されないことです。東日本大震災の被災地の大部分が漁業や農業など第一次産業を生業とする地域であることを考えると、死活問題となります。生活再建の速やかな復旧は必要ですが、海岸線や山林の巨大開発で生業の拠点を失っては元も子もないのです。

例えば、沿岸部の巨大防潮堤建設についての議論は依然として続いています。三陸沿岸部の約380キロメートルと、津波が遡上した河川流域の各地で工事が進んでいます。復旧を急ぐため、当該地域での話し合いが途上のまま、着工した例も少なくありません。

工事の過程で赤土やコンクリートが流出することで、河川を遡上する魚の産卵に影響を及ぼすことも懸念されます。防潮堤の建設では、海岸線と河川沿いに長さ十数メートルの鉄板を打ち込むことなどから、カキやホタテなど貝類の養殖場である汽水域の環境を変化させる可能性があります。太陽に照らされたコンクリートの表面温度は高温になるため、巨大防潮堤周辺ではヒートアイランドのような現象が起きることも気がかりです。

造るか否かの二者択一の議論ではなく、造るなら周辺環境に配慮して安全・安心を得られる設計が必要です。復興は、安全・安心と環境保全の両者を欠かさないことが大事だと思います。復興事業をしたはいいが、三陸の魚が激減したのでは本末転倒です。生きとし生けるものすべての命が生かされる社会となって、はじめて復興宣言がなされるのだと思います。

大正大学人間学部准教授
山内明美

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