ニュースレター

2016年04月28日

 

助け合いの絆が支える「コミュニティ・カーシェアリング」

Keywords:  ニュースレター  交通・モビリティ  再生可能エネルギー  市民社会・地域  防災・減災  震災復興 

 

JFS ニュースレター No.164 (2016年4月号)

日本の東北地方は、もともと公共交通が十分に整備されていない地域が多く、車は生活必需品でした。そんな東北地方を2011年3月11日、巨大な地震と津波が襲いました。東日本大震災です。津波は多くの命や家屋、物を飲み込みました。そして多くの人が、生活の足である車を失ったのです。

今回のニュースの舞台となる宮城県石巻市でも、約6万台の車が流されてしまいました。震災後、新たに車を手に入れようとしても、仮設住宅の駐車場不足や車自体の不足、経済的な理由などで、車を再び手に入れることが困難である状況があちこちに見られました。

震災直後から被災地に入って様々な支援活動をしていた吉澤武彦さんは、阪神淡路大震災で支援を行っていた人から「車を集め、仮設住宅でカーシェアリングをしてはどうか」というアドバイスをもらいました。吉澤さんは仲間と「一般社団法人日本カーシェアリング協会」を立ち上げました。車の寄付を募り、石巻市内の仮設住宅でカーシェアリングを始めたのです。

そこから、住民同士の会話や助け合いなどが生まれるようになりました。それが行政、学生、企業など様々な人の支援やつながり、被災地を元気にする様々なプロジェクト誕生へのきっかけを作ることになったのです。今回は、この被災地石巻発の「コミュニティ・カーシェアリング」をご紹介します。

コミュニティ・カーシェアリングの仕組み

コミュニティ・カーシェアリングとは、地域住民が運営するカーシェアリングです。企業や個人から寄付された車を、カーシェアリングを希望する仮設住宅に無料で提供します。1カ月ほどのお試し後、本格的な運用をスタートします。鍵の管理、経費負担の仕方など、使用についての細かいルールは、各地域で利用者同士が相談して決めて運用していきます。

2012年、石巻市はこのコミュニティ・カーシェアリングをサポートするため「カーシェアリング・コミュニティ・サポートセンター(サポートセンター)」を設立し、日本カーシェアリング協会に業務を委託。もともと利用者だった人たちがスタッフとなり、自らの経験を活かして新しい利用者のサポートを行っています。

サポートセンターでは、コミュニティ・カーシェアリングをやってみたい被災住民に対し、導入からルール作り、地域での組織づくり、運用中の問題についての相談など、さまざまなサポートを行っています。

地域の助け合いを生む「コミュニティ・カーシェアリング」

このカーシェアリングは、被災地に様々な助け合いや絆を生み出しました。被災して急場をしのぐために入った仮設住宅には、人間関係がなく住民同士の会話がない、敷地内でゴミが散らかっているなどの問題がありました。そのような環境でも、カーシェアリングの話し合いの場が仮設住宅内での会話を生むきっかけになったのです。そうして、お茶会や敷地内のゴミ拾いの日が設定されたり、住民同士でカーシェアリングの車で旅行に行ったりするなど、交流が広がっていきました。

また、毎日タクシーで病院に通っているおばあさんの外出を支援する人が現れるなど、住民同士の助け合いも生まれました。このことがきっかけで、ボランティアドライバーによる移動支援の仕組みが作られ、運転できないが移動手段を必要としている人もカーシェアリングに参加できるようになりました。

このカーシェアリングで使用する車は、毎年春と秋に地元の石巻専修大学の学生によりメンテナンスが実施されます。この「学生整備プロジェクト」で使われるタイヤやオイル、交換部品は、多くの企業からの寄付で支えられています。

他にも企業がシステム作りに協力したり、車に搭載する防災グッズやベビーグッズを提供したり、大学の授業で日本カーシェアリング協会の会計業務や管理業務改善やトータルデザイン(ロゴ、ホームページデザイン)に取り組んだりするなど、このカーシェアリングは様々な善意や協力に支えられて運用されています。

環境と防災

2012年、仮設万石浦団地で行われた利用者交流の催しで、ディーラーの協力を得て電気自動車(EV)の試乗会が実施されました。これがきっかけとなって、EVカーシェアリングの取り組みが始まりました。2013年8月、三菱自動車よりEV6台の無償貸与をうけ、仮設万石浦団地にサポートセンターの予算で充電設備を設置し、EVカーシェアリングがスタートしたのです。

EVは、オプションの給電装置を接続することで、フル充電時なら約1日分の家庭電力を取り出すことが可能となります。そこで、この給電装置を購入するため、5つの仮設自治会が協力してクラウドファンディングで資金を集め、2台分の資金を集めることに成功。仮設住宅での防災訓練では、EVから取り出した電気でポットのお湯を沸かし、コーヒーを淹れて参加者にふるまったり、非常用のアルファ米でごはんをつくるなどのデモンストレーションを行ったりすることで、EVが防災にも役立つことを参加者に紹介しました。

今後は、古くなったり故障したりした車を、EVコンバージョン(ガソリン車からEVへの改造)することで燃費を改善して活用しようと、石巻専修大学が中心となって準備を進めています。

2014年には、EVを自然エネルギーで充電し利用するエコEVカーシェアリングに挑戦しようと「石巻エコEVカーシェアリング検討委員会(検討委員会)」が立ち上がりました。エコEVカーシェアリングでは、復興公営住宅に太陽光パネルを設置し、発電した電気でEVを充電して、普段は住民の足として活用します。災害などによる停電時は、太陽光パネルが独立した発電装置として電気を供給。給電装置を搭載したEVが電気を必要とするところに移動し、給電する仕組みです。

この太陽光パネルとEVを利用したエコ防災システムは、2015年6月に吉野町復興公営住宅に設備が導入されました。検討委員会は、継続的に推進できるモデル作りを目指して、このシステムの社会的効果の検証を行い、約10カ月かけて「交通弱者の外出支援」「防災機能強化」「コミュニティ形成」において効果を確認しました。その結果をうけ、このモデルを市内の別の地域に設置し、エコ防災システムを石巻市内全体に拡げていくことになりました。

車を使った様々な支援

日本カーシェアリング協会は、コミュニティ・カーシェアリングの他にも、復興の段階で生じる様々な問題に対し、車を使ったアイデア溢れるプロジェクトで被災地を支援しています。たとえば、石巻で継続的に支援を行なっている団体へ使用料を無料として車を貸し出す「NPOカーシェア」。継続的に地域に貢献する活動を行っている団体を支援することで、石巻を応援しようという取り組みです。

被災者はいつか仮設住宅から引越しをしなければなりません。しかし、引越しに伴う出費は被災者にとって軽いものではありません。「引っ越しカーシェア」は、被災者が引っ越しする際に、無料で車を貸し出すプロジェクトです。

2013年、日本カーシェアリング協会はレンタカー事業の免許を取得。被災地支援のためにやってきた人たちに再び石巻に来てもらおうと、東北で支援活動した経験のある人や、被災地の支援をしている団体に寄付してくれた人たちを会員として登録し、会員には半額でレンタカーを貸し出すサービスを始めました。

他にも、地域で生活再建のため短期で車を必要としている個人や事業者に対して安価で車を短期間貸し出すサービス「サポートレンタカー」をスタート。借りる人に、早く生活を再建してもらい、このサービスからの卒業を目指してもらおうと、レンタル料は最初の3カ月は最安値で貸出、3カ月毎に料金がアップしていく仕組みとなっています。

そして今では、石巻以外の場所でも災害などにより急遽車を必要としている地域があったら、1カ月無料のレンタカーやカーシェアリングによる貸出などの被災地支援も行なうようになっています。

助け合いのつながり、石巻から

石巻で様々な波及効果を生んでいるコミュニティ・カーシェアリング。日本カーシェアリング協会はこの仕組みを高齢化、移動、コミュニティ、防災、エコ等のテーマに取り組む自治体、NPO、町内会の役に立ててほしいと「コミュニティ・カーシェアリング実践ガイドブック」を作成し、ホームページで無料配布しています。

未曾有の大災害に襲われた石巻。しかし、石巻には、あの大災害から逞しく、そしてしなやかに立ち上がろうとしている人々がいます。全国の支援、助け合いの心を受け取った石巻の人々は、今度は支援する側になり、恩返しをしていこうとしています。車を使った助け合いが、被災地とともに日本中を元気にしてくれそうな予感がします。

スタッフライター 米田由利子

English  

 


 

このページの先頭へ