ニュースレター

2015年04月30日

 

地域資源「森林」を活用したエネルギー自給型小規模自治体モデルの構築(後編)

Keywords:  ニュースレター  エネルギー政策 

 

JFS ニュースレター No.152 (2015年4月号)

2015年2月9日、JFS「地域の経済と幸せ」プロジェクトの一環で、シンポジウム『生き残りにつながる地域の取り組みとは――地域経済・地方創生の視点から』を開催し、地域づくりの現場で活躍されているトップランナーの方々から、それぞれの取り組みをご紹介いただきました。

今月号のニュースレターでは、前号に引き続き、北海道下川町 環境未来都市推進本部長(講演当時)・春日隆司氏の講演から、「森林活用による持続可能な地域形成」の事例について、主に「人」の側面に注目してお伝えします。


下川町では、お金ではない「炭素」を基軸にした、「炭素会計」という取り組みもしています。町民が、車をやめて自転車に乗り換えるなどしてCO2を削減する。木材を使うとCO2が固定される。森づくりをしっかりやったり、木質化社会を作ったりすると「炭素収支」が上がります。町民がCO2を出さないことによって、炭素収支が上がるのです。この炭素収支を、どうしてもCO2を排出せざるを得ない都市と連携して、資金化できないかとも考えています。

たとえば、こういうことをやっております。町民が、自分の土地から出る剪定木や林地残材を町の木質原料製造施設に持っていくと、100キログラムで500円の商品券がもらえます。こうすることで、ごく少量ですが燃料が確保でき、CO2を減らし、ごみも出ない。こういう仕組みも作っております。

2010年には、この仕組みを利用した町民は145人でしたが、現在では760人、町民の5人に1人が参加しています。動機は、「CO2を出さないように」という人もいれば、「500円もらえるから」という人もいます。この仕組みで町民に通帳を持ってもらい、CO2をできるだけ排出しないようにし、最終的には都市から資金をもらって、その資金を活用できないかという考え方です。

リオ+20の会議で自然資本の宣言が出されましたが、下川町ではいちはやく2013年に「下川町自然資本宣言」を出しました。金融機関や企業を中心に、ものの生産から消費まで、いわゆるサプライチェーン全体で、CO2だけでなく環境にどのような負荷をかけているかを評価し、改善するという取り組みが進められていますが、下川町もいちはやく、下川の自然資本の価値評価をやってみました。

先ほど「域内生産が215億円」と述べましたが、日本学術会議のデータなど、基本的な考え方に基づいて計算してみると、下川町の自然資本の価値は約1000億円あることがわかりました。下川町の町有林にも価値を見出すことができるので、これで投資を得られないかと考えています。今後、下川町が山の整備からいろいろなメニューを作り、企業や国民のみなさまにも投資をしていただいて、その恩恵を享受するという仕組みができないかと考えています。

日本全体が高齢化社会を迎えていますが、下川町も例外ではなく、総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は38%(日本全体では25%)です。町では、高齢者にもきめ細かなサービスを提供しています。たとえば、コミュニティバスです。バス停がなく、自由に乗り降りできる区間を設けています。予約があれば、おうちまでの送迎もします。「乗り合いタクシー」もあって、前日・当日までに予約していただいて、たとえばお年寄りには病院までの乗り合いタクシーとして使っていただく。

見守りサービスもあります。下川には光ケーブルが整備されています。すべて光回線で見守りをやっています。冷蔵庫に機器を付けて、冷蔵庫が1日使われなければ何らかのトラブルがあったと警告を出すという、センサーを使った見守りもあります。

それから、買い物支援。地元の店から仕入れて、小型の軽トラックでそれぞれの地域をまわって提供していきます。お年寄りは、実際のモノを見て買い物ができます。

下川町には、高齢化率が53%という、人口140人くらいの集落があります。ここに熱供給施設を作りました。福祉施設には、化石燃料をやめて木屑で炊いた熱を供給し、EV充電器を設置し、さらには集住化をしました。ちょうど公営住宅の建て替えだったので、お年寄りが住み、若い人たちも住むという26戸を集住化して、ここにも熱を供給する。スマートメーターを設けて、それぞれ安否確認できる仕組みもつくっています。

ここの電力は再生可能エネルギーではないのですが、共同の一括契約によって非常に安価になります。燃料費も安価になります。お年寄りと若い人たちが相談しながら電気を使い、お湯を使い、エネルギーを使うことで、ピークカットし、料金が下がります。また、コミュニティも生まれます。そんな取り組みもやっています。

バイオマスを活用した熱があることから、王子ホールディングスが下川町に医療用植物の研究所を作りました。王子は製紙業だけでなく、医療用植物のビジネスも始めました。キハダなどを舐めると胃の薬になるなど、野生植物は自然の恵みであり、医療用植物として活用できるのです。下川町に研究所を設置したきっかけは、熱があるから、エネルギーがあるからです。先ほど「エネルギーのあるところに産業が興る」とお話ししましたが、エネルギーがあるところには今後新たなビジネスがいろいろ起きると思います。

日本の山村の過疎化は、1960年から確実に進んでいます。下川町の場合も、1960年に人口がピークに達し、その後は減少しています。お話ししてきたようないろいろな取り組みの結果、ここ2年間、はじめて転入者数が転出者数を上回りました。農業林業の従業者も、周辺の町や村では当然減りつつあるのですが、下川町では農林業者数も増えてきています。人口減少にも歯止めが効いてきた感じです。人もお金も入ってきて、域外に出る分を減らして地域内で循環することによって、確実に経済、人口、さらには生産という面での効果が出てきます。人口減少を克服することができます。これも地方創生のモデルになりうるのでないか、とお話ししています。

こういった取り組みを、下川町では「持続可能な地域社会を作っていこう」ということで進めています。「経済」とは、私が言うまでもなく、「経世済民」という考え方であります。金儲けだけではなくて、地域を治め、住民を救済して生活を成り立たせる、ということです。つまり、最終の目的は、持続性と、地域でどのように良い生き方ができるかです。2009年には当時のサルコジ仏大統領も、「GDPだけでは生活実感に合わない」と言われています。

下川町における「持続可能な地域」の考え方ですが、東京23区くらいの面積がある農地、山、農業や基幹となる産業が持続・継続して維持されていかない限りは、持続可能はまずない、と考えています。東京などの都市であれば、土地ではなく、サービス業やいろいろな製造業が成立することで持続可能になっていくのだと思いますが、下川町の場合は、やっぱり土地・農業・林業です。これらが継続するように、植林も持続的なもの、農業も持続的なものでなければ、地域は持続しないと考えています。

最後に、いろいろな取り組みを進めるに当たっての基本的な考え方についてお話しします。「何かを進めるときは、エネルギーをできるだけ集中することが効果的」ということです。

中小企業の経営者に実施した意識調査で、物事に「だいたい40%は無関心。30%は漠然と思っている、20%は意識がある、10%の人は意識を持って行動を起こしている」という結果があります。地域づくりもそうですが、無関心層から上がっていくのには、意識が変わっていかなければいけない。さらに先に上がっていくのは、行動が変わっていかなければいけない。

ですから、たとえば下川町でイベントをやるときも、こういう考え方に基づいて、無関心の人に意識を変えていただくひとつのきっかけとしてイベントをやる。行動を変えていくために学習会を開き、先生に来ていただいて講習・講演会をやる。こういった体系のもとに、考えて行動をとっていかなければなりません。

往々にして町の政策は、どっちつかずの政策を打ったりします。そうすると、意識のある人には効かないし、無意識の人にも効かず、中途半端になってしまいます。ですから、意識をもって行動を起こしている人たちにはそれにあわせた政策展開を、無意識の人には無意識の人に合わせた政策展開を、と考えてやらないと、無理・ムダが生じてくる。こういうことも考えながら、さまざまな取り組みをやっています。

リチャード・フロリダの「クリエイティブ資本論」に、ものごとが活性化する要素として、「技術」「才能」「寛容性」が必要だとあります。私たちが注目しているのは、この「寛容性」です。「とにかく責任は俺がとる、だからやれ」と、そういう開放性というのでしょうか。重箱の隅をつついていても前へ進まないわけで、まずは一歩踏み出さなければならないし、そういうところは寛容であるべきだと考えています。こういう考え方のもとにやることによって――まあ、失敗も多いですけどね――、いろいろなものがどんどん活性化していく、ということが言えるのではないかと思います。


下川町 環境未来都市推進本部長(講演当時)・春日隆司
(編集:枝廣淳子)

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